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ぐーたらメイドと無能なお姫様〜無自覚スキンシップで女の子陥落大作戦〜  作者: りんご飴ツイン


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第三十七話 よし、戦争しよう その四

 

 ミリファがどこかに消えた。

 同僚の家に泊まるという話だったので、その家の場所は聞いていた……のだが、エリスたちが訪ねると家の中はもぬけの殻だったのだ。


 それから何日が経過したか。世間ではついにアリシア国軍とヘグリア国軍が激突したなどという噂も流れているが、そんな些事エリスの耳に入ってすらなかった。


 はじめのうちはどこかに遊びに出かけたのだと己に言い聞かせていたエリスも今では事態の重さに気づいていたために。



 妹が失踪した。

 ならば、何が何でも探し出す必要がある。



 だからこそ至る所を捜索しているが、未だにミリファは見つからない。こうして路地裏の隅まで足を運んでも、影も形も掴めないのだ。


「エンジェルミラージュたん、なんでミリファは見つからないの? ねえなんで!?」


「お、落ち着いてエリスっ。ああもう腕を抱くな離せって!!」


 首都中を探し回ったはずだ。それでもミリファは見つからなかった。


 いいや。

 一つだけ探せていない場所がある。


「……主城? そう、そうよ、王族どもがミリファを独占してるんだそうに決まってる!!」


「まっ、待って、あっつう!? 漏れてる炎漏れてるのよ!! 人の腕を散々抱きしめてこんがり焼き上げるつもり!? ねえ、ちょっと、聞けよおい!!」


 と。

 その時だった。


 踊り子風のキャラのコスプレをしたおしゃれさんがやってきた。


「リーダーぁ新情報だよぉ」


「ん? エンジェルミラージュたんの知り合い???」


「え、ああうん! 職場のね、そう、職場の部下的なアレソレだよ!! ほら私って職場のリーダーだし? そういう意味だから、うん!!」


「? そう」


 黒ずくめとして敵対した時もおしゃれさんたちの口からリーダーという単語は出ていた。そこから気付かれてはたまったものではなかったが──きょとんとされるのはされるで気に食わない。


 ここまで露骨でも気付かない!? と苛立ちさえ湧き上がるほどだ。それほどにエリスの中でリーダーの存在が小さいことに腹を立てている……その理由までは不明であったが。


「ねぇ聞いてるリーダーぁ。新情報だってぇ」


「はいはい、なによ!」


「『炎上暴風のエリス』の妹ちゃんの居場所、わかったよぉ」


「はいはい……はぁ!?」


 なぜそれをエリスがいる場で話した、とか、リーダー以外の仲間たちでミリファを誘拐していれば復讐を成し遂げたも同然だろう、とか、言いたいことは色々あったが──


「本当!? 良かった、良かったよぉ……!!」


 感極まって膝から崩れ落ち、口を両手で覆い、涙を浮かべるエリスを見て、まあいいかと思えて『しまって』いた。


 ただし。

 事態は居場所を見つけるだけでどうにかなるレベルではなかったのだが。



 ーーー☆ーーー



 主城、その正門では王族直属の『守り』を司る黒獣騎士団団長たる眼帯の男が見回りに訪れていた。門番と二、三言話し、他の場所に移動しようとして──


「あれ? どうかした、団長さん?」


「下がっていろ」


 ぐいっと二人の門番の肩を掴み、後ろに下げる。正門と門番たちを背に眼帯の男は正面を見据えていた。


 正確にはこちらに歩み寄りつつある長身の女をだ。


 主城近くということで人通りはそう多くはないが、ゼロではない。数人の民の間を通り、その女は眼帯の男の目の前まで歩み寄ってきた。


 ジロリと蛇のように細い赤目が蠢く。


「黒獣騎士団団長ね」


「そういうテメェは『四天将軍』が一人だな」


 その言葉に門番たちが目を見開くが、そちらを見る余裕はない。すでに敵は間合いに突入している。扇情的な肌が透けるほどに薄いドレス姿の女が武器を隠し持っているとは思えないが、強力な魔法や『技術(アーツ)』を持っているかもしれないし──四天はそれぞれがあるスキルに特化している。魔法や『技術』と違って超常が及ぼす領域が広いスキルはどんな摩訶不思議な効果を持ち出してくるか読めない。


「ふふ」


「なにがおかしい?」


「ああごめんなさい。私は『守り』の要を足止めするのが目的でね。こうも簡単にいっちゃって、ついね」


「あん?」


「王妃に魔法と武力の王女、及び四大貴族の精鋭は戦争に駆り出されているわ。参加していない強者についてはそもそも首都にはいない。つまり、ふふ、つまり今ここを守る主力は黒獣騎士団のみ。そして──その中でも私たち四天とやり合えるのは団長さん、貴方だけよ」


「なるほどな。確かに戦争にほとんどの戦力を持ち出した。諸々の事情があったり、単純に面倒だったりで不参加な連中は首都にいやしねえ。『守り』は俺ら黒獣騎士団のみだし、四天を相手とするなら並大抵の騎士じゃ太刀打ちできねえわな」


 全員が全員、団長クラスの力を持っているわけではない。他の騎士だって努力はしているし、そこらの悪党に負けるほど軟弱ではないが、一国の軍の指揮官たる将軍に太刀打ちできるかといえば難しいかもしれない。


 だが。

 それはあくまで一般論。

 常識だとか定番だとか当たり前だとか大抵の人間には当てはまる項目に過ぎない。そんなものに真面目に付き合う人間だけではないのだ。


 そう。

 不真面目に、適当に、自堕落に──()()人間だって存在する。



 ーーー☆ーーー



 第一の塔、その正面入り口まで彼らは辿り着いていた。


 一人は口の端から両耳まで届く傷跡を刻む男。四天が一角、ザジ。スキル『存在隠匿』は他者の五感が捉える情報を好きに改変する力を持つ。その力で騎士の目の前を堂々と歩き、ここまで辿り着いたのだ。


 一人は死神を連想させる巨大な鎌を持つ少年。四天が一角、ギリア。スキル『崩壊侵食』はその手で触れたものを塵に変える力である。魔法だろうが『技術(アーツ)』だろうがスキルだろうが、それが手で触れられるものであれば彼の能力は例外なく作用する。


 つまり、スキル『存在隠匿』で五感を狂わせ隙を作り出し、スキル『崩壊侵食』を叩き込めば、どんな強者だって例外なく殺すことができるのだ。


 強大なスキル持ちを集めた『四天将軍』の中でもここまで凶悪な組み合わせは存在しない。彼ら二人が共闘する限り、敗北はあり得ないのだ。


「ったく、俺らが第一王女の誘拐に駆り出されるとはな。こんなの裏方の仕事だろ」


「その裏方がしくじったから、僕たちまで話が来たんでしょ」


「チッ。さっさと終わらせるぞ。『奴』への賄賂の調達なんていうしょーもねー仕事なんざよ」


『四天将軍』。

 数十の魔導兵器を一息で破壊するほどの力を持つ第四王女エカテリーナの魔法を無効化するほどの実力者と肩を並べる怪物。


 彼らが美貌の第一王女を誘拐するためにその凶悪極まりない力を振るう。


 その。

 寸前であった。



「よお、クソども。お前らのせいでこちとら真面目にお仕事だよ。らしくねーよなー。こんなの俺らしくねーよ、本当」



「「っ!?」」


 その声を耳にして、はじめてその存在を感知することができた。四天を司る二人の男が声を聞くまで気づかなかったのだ。


 その『不良騎士』は第一の塔の正面入り口を塞ぐように立っていた。つまりは真正面に、だ。


 転移や高速移動というよりは()()()()()()()()()としか考えられない。だが、どうやって『四天将軍』の感覚を欺いたというのだ?


「あんの古カビ臭い王妃め、お得意の未来視でこのこと『視た』上でここの守りを黒獣騎士団だけに任せるんだもんなー。しかも四天どもに第一王女が誘拐される『可能性』を俺に教えやがるしよ。姉が誘拐されたら姫さん落ち込むから、クソ真面目に働くしかねーって誘導されたってわけだな。分かるか、誘拐犯ども。俺は、今、機嫌が悪い。真面目に命令きいて働いているのもそうだし、王妃の掌の上ってのがもう最悪だし、さっきから嫌な予感が止まらねーのもだ。これがあの古カビ臭い王妃の筋書き通りなら心底ムカつくだけで済むが──チッ。まあいい。ここには三人の四天がやってくるって話だからな。お前らを片付ければ、後は放っておいても解決だろ」


 苛立ちを吐き出すようにまくし立ててきた中年の騎士の言葉に二人の四天はぴくぴくと頬を震えさせていた。


 それは、つまり、


「なあ、おい」


「お前さ、もしかしてだけど、僕ら二人を前にして勝つつもり?」


「あ? 何言ってんだ???」


 対して。

 不機嫌を隠しもせず、ガシガシと頭を掻いて、そして不良騎士はこう言った。



()()()()()()()じゃねーか」



 まるでそれが合図であったかのように、ぐらりと二人の頭が傾く。そのまま地面に落ちる。遅れて首の断面から赤い液体が勢い良く噴き出すが、不良騎士──ガジルは見てすらいなかった。


「さて、と。……頑張れば、今からでも『命令違反』できるかもな」



 ーーー☆ーーー



 アリシア国軍本陣。

『何か』を運んできたのか、巨大な木箱に似た外観の馬車を背に王妃は穏やかに微笑む。


 白馬に騎乗した彼女には中央での第五王女の敗北及び右翼での魔法消滅現象の報告が風魔法によって伝えられているはずなのだが。


「あらあら」


 その笑みは消えない。

 全ては『視えて』いる。


「やっと来ましたのですね」


「お母様?」



 ドゴォンッ!! と。

 本陣に降り立つ影が一つ。



 本来であれば空からの侵攻を阻止するために風魔法で周囲を探知、上空より迫ろうとする敵を撃ち落とす構図を作るのが鉄則であるのだが──そういったシステムは王妃の命で解除されていた。


 だから彼女は苦せずしてアリシア国軍本陣まで到達することができたのだ。


 白のとんがり帽子にマントを羽織る死肉。

 魔女モルガン=フォトンフィールド。


 右肘から先を失った怪物がびしっと左指で王妃を指差す。


「にひ☆ 久しぶりにゃー王妃様」


「そうね」


「ここまでお膳立てしなくたって防衛網くらい突破してあげたのに」


「貴女がここまで辿り着くのは『視えて』いました。だというのにわざわざ防衛網を構築して戦力を無駄に消費する必要はないでしょう?」


「にひ☆ にひひっ。にゃーる。これは確かに『呆れる』のも無理ないかにゃー。私にとっては溢れんばかりの自信に満ち溢れたその魂を蹂躙できるのがさいっこうって感じだけど」


 しばし見つめ合い。

 そして両者は示し合わせたように『消失』した。



 ゴッバァン!!!! とちょうど中間地点で激突する怪物たち。地面を蹴った魔女と白馬から降りた王妃とが最短最速で互いの力をぶつけ合ったのだ。



 ーーー☆ーーー



 ミリファの居場所が判明した。

 その居場所は──


「エリスっ。待て待て待てって!! いくらエリスでも『あんなところ』に踏み込むなんて駄目だって! 個人の武勇でどうこうできないのは分かるでしょ!!」


「そんな場所にミリファは連れ去られたのよ!! 放っておけるか、見捨てられるか、見殺しになんて絶対にできない!! あたしはミリファのお姉ちゃんなのよ!!」


「だからって!」


 ブォワッ!! と暴風が吹き荒れる。

 今にもミリファを連れ戻すために移動を開始するつもりなのだろう。



「ああもう! アリシア国軍に連れ去られた妹を救い出すってことは、戦争に首を突っ込むってことよ!! 最悪の場合両軍を敵に回す可能性だってあるのが分かってるわけ!?」



 答えは行動で示された。

 だんっ!! と地面を蹴ったエリスが上空に飛び上がり──そんなエリスの胸元に顔を埋めるようにリーダーは飛びついたのだ。


「なっ。エンジェルミラージュたん、何を!?」


「死なせてたまるか! どうしてもっていうなら私もついていく!!」


「死んじゃうかもなのよ!?」


「そんな危険な場所にエリスだけ連れていけるかって話よ、ばかばかっ!!」


「……ふふ。そっかぁ」


「何がおかしいのよ、エリスっ!!」


「ううん、なんでもないわ……ミリファを救うのは確定事項だけど、貴女も必ず守るから」


「な、ななっ!? なに、なん、はぁ!?」


 何やら言い合いながらも空高く飛んでいくエリスたちを見上げ、おしゃれさんはぼそりとこう呟いていた。


「仲良しだなぁ」

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