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第195話 フレアの交渉術

俺達パーティーは新たにフレアさんという仲間を加え、ボルドール王国を後にした。まず向かったのは隣国であるストローム王国だ。魔族に国土を蹂躙されて復興中の国だから、俺達の話を聞く余裕も無いんじゃないかと思ったけど、そうでもなかったようだ。


「活気があるな」

「うん。前に来た時より人が増えてる気がする」


俺の呟きに同意したカリンが、キョロキョロと街の様子を観察していた。魔族の襲撃を受けた当時は、それこそ瓦礫の山と変わらなかったはずだ。あちこちに原形を留めない遺体が散乱し、絶望した人々が嘆き悲しむ光景があったはずなのに。瓦礫は綺麗に片付けられているし、通りには仮の店舗が肩を並べている。行き交う人の多くは体の引き締まった男達が多く、彼等肉体労働者が復興の原動力になっているのだと思わされた。そんな彼等を目当てに食料品や簡易宿の呼び込みが賑やかに声を上げ、少し路地を奥に入れば、一時の夢を与える女性達まで客引きをしていた。


「完全に滅ぼされたわけではないが、かなりの被害を受けたというのに……逞しいな」


感心したように呟くルビアス。もちろん、良い面ばかりが目についたわけじゃない。物乞いの数は以前より多いし、警備のために巡回している兵士は油断なく辺りを見回している。屋台の食べ物を物欲しそうに眺める浮浪児も少なくない。国も頑張っているんだろうけど、全てを救えるほどの余裕は無さそうだ。


「何とかしてあげたいけど、私達に出来る事なんて限られてるわね」

「うん。可哀想だけど仕方ないよ」


浮浪児を見つめながら、シエルとディエーリアが暗い顔でそう呟いた。彼女達の言うとおりだ。仮に俺達が有り金全部叩いて彼等に食事を与えたとしても、それは一時の自己満足でしかない。根本的な解決には程遠いんだ。俺達が去った後、またお腹を空かせることになるだけだ。


「だから俺達は出来る事をやろう。そうすれば、間接的に彼等を救うことにもなるはずだ」


皆が頷いた。国が豊かになれば食べ物も仕事も増えてくる。当然人手も必要になってくるし、子供でもできる仕事も出来るはずだ。


「いえ、もしかしたら、今すぐ彼等をどうにか出来るかも知れません」


突然そんな事を言い出したフレアさんに驚く。ここに来た目的は民衆の扇動だ。それをフレアさんが忘れたとは考えにくいが……。


「どう言う事フレア?」

「ちょっとした閃きです。神殿を使えばどうかなと思いまして」


いつの間にかタメ口になっているカリン。悪戯っぽく笑うフレアさんと対照的に、俺達は首をかしげるばかりだ。神殿を使う? 寄付をして彼等の面倒を見てもらうとかかな?


「ふふ。では、早速神殿に向かいましょう」


そう言って歩き出したフレアさん。俺達は黙って後をついて行くだけだった。


§ §§


フレアさんがやってきたのはリュミエル教の神殿だった。当たり前の話だが、たとえリュミエル教総本山のリュミエールが落とされたとしても、各地に散らばった神殿までなくなるわけじゃない。この神殿にもリュミエール陥落の知らせは届いていたようで、対応に出てきた司祭が青い顔でフレアさんを出迎えていた。


「フレア様、その……この度は何と言って良いのか……」

「貴方が気に病むことではありません。力及ばずリュミエールは墜ちましたが、我々の信仰心まで地に落ちたわけではないのです。神に対する祈りを忘れなければ、いつかリュミエールを取り戻す事も出来るでしょう」

「フレア様……」


その振る舞いだけを見れば、正に聖女と呼ばれる姿だった。事実、司祭は感激したような面持ちでフレアさんを見ている。まるで今にも拝み始めるように。でも、今のフレアさんは良くも悪くも昔とは違っている。彼女は慈悲深い聖女の笑みを浮かべながら、司祭に向けて口を開いた。


「なので、当然あなた方にも協力していただきたいのです。リュミエールを取り戻すためには、各地に分散しているリュミエル教の力を合わせないといけませんから」

「それは……当然です。及ばすながら、私も力をお貸しします」


フレアさんはニヤリと笑う。


「ではまず……金貨として五百枚、拠出していただけますか?」

『!?』


金貨五百枚!? 突然何を言い出すんだフレアさんは? いきなり大金を出せと言われた司祭なんて固まっているし、皆も目を丸くしている。簡単な挨拶の後に大金を出せなんて、交渉どころではない。脅しに近いやり方だ。普段のフレアさんからは想像も出来ないようなそのやり方に、俺は言葉が出なかった。そんな俺達を気にする様子もなく、フレアさんは応接室をグルリと見回す。


「随分と羽振りが良いようですね。リュミエル教は教義の中で清貧であれと説いているはずですが?」

「そ、それは……」


つられて俺達も部屋を見回す。言われてみれば、置かれている調度品がやたら高価なものばかりだと気がついた。よくわからない絵の描かれた絵画や、足首まで沈みそうなふかふかの絨毯。執務を行う机は年輪を重ねた木が使われているようだし、椅子も見事な金の装飾が施されたものだ。スーフォアの街の神殿はここまでじゃなかったよな……と、そんな事を考えている間に、フレアさんは司祭を追い詰めていく。


「まあ、いかに教義で説いたとしても、人間ですもの。ある程度の贅沢は許されるかも知れません」


その言葉に一瞬安堵の表情を浮かべた司祭だったが、次の瞬間再び凍り付いた。


「ですが、これは度を超しています。これだけの資金があるのなら、なぜ街で苦しむ人々に手を差し伸べないのですか?」

「それはその……我々も色々と忙しくて……」

「忙しいとは具体的に何が忙しいのです? 私腹を肥やすことにですか?」

「…………」


フレアさんの厳しい視線が司祭を捕らえて放さない。殺気までは放っていないものの、彼女ほどの実力者から睨み付けられたら、大抵の人は震え上がるしかない。


「……このままでは、私はリュミエル教の代表者として、貴方を破門せざるを得ません」

「そ、そんな! それだけはどうかご勘弁を!」


青いを通り越して死人のような顔色になった司祭は、椅子から飛び上がってフレアさんの足下に縋り付いた。破門……破門か。剣術や魔法の師弟で破門という形なら大体想像出来るが、宗教での破門ってそこまで大事なんだろうか? 疑問には思ったが、今の状況で口を挟めない。後でフレアさんから聞くしかないな。


「破門されては生きていけません! 今までため込んだ財は全て差し上げます! ですから、どうか破門だけは……!」

「そうですか。そこまで言うなら……破門だけは止めておきましょう。ただし、条件があります」


ビシリと突きつけられた指先を涙目で見つめ、司祭は情けない顔を隠す様子もなかった。

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