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第193話 次の一手

「久しぶり……と言うほどでもないか。息災なようでなによりだ」

「兄上……しばらく連絡を絶っていた事をお詫びします。我々の力が足りぬばかりに、国に要らぬ負担をお掛けしたこと、まずお詫びします」

「大体の事情は予想がついている。が、まずは座れ。立ち話でする内容でもないだろう」


マグナ王子の部屋へと訪れた俺達。王子はチラリと俺達に視線を向けた後、特に大きな反応を見せることもなくそう言った。人数分のお茶とお茶請けを用意したメイドと共に、護衛の騎士までが部屋から出て行き、部屋の中には俺達五人とマグナ王子だけになっていた。


「さて……何から話したものか」


少しだけ音を立てながらお茶を口に含んだマグナ王子は、今度はハッキリと俺に目を向けた。


「ラピス嬢。貴女が勇者ブレイブと同一人物であるというのは本当なのか?」

「!」


いきなり来たな。さっきの兵士の話だと、今や国中の人間が俺の正体を知っているらしいけど、こうも正面から訪ねられると答えに窮してしまう。嘘は許さないとばかりに厳しい目を向けるマグナ王子から俺を庇おうとしたのか、ルビアスが間に立とうとしたが、俺は彼女を手で制した。


「……本当です。俺の正体は勇者ブレイブ。三百年前、魔王を倒したと伝わっている人物その人です」

「そうか……。やはり本当だったか」


腕組みしながら深くため息を吐き、マグナ王子は眉間に皺を寄せた。その様子から察するに、マグナ王子も半信半疑だったに違いない。そりゃあそうか。三百年前の人間が性別を変えて現代に生きていると言われても、普通なら一笑に付すところだ。


「……以前から異常な強さだと思っていたが、勇者ブレイブだというならそれも納得出来る。なるほど。騎士団程度では相手にもならんわけだ」

「…………」

「だとしたら」


マグナ王子が次に何を言い出すのかがわからず、俺は思わず喉を鳴らした。


「貴女には申し訳ないことをした。かつて命懸けで勝ち得た平和を、我々の怠惰で維持出来なかったのだから。今を生きる人間の一人として謝罪したい」


そう言って頭を下げられた。そんな予想外の反応に慌てたのは俺だけじゃない。ルビアスなどは言葉も出ないほど驚いているし、カリン達も息をのんでいる。プライドが高く、少し冷たい印象を与えがちなマグナ王子が、自分に直接非のないことで謝るなんて思わなかったのだ。


「いえ……そんな。それは誰のせいでもありません。殿下が謝る事じゃありませんよ」

「だとしてもだ。国を預かる身として責任の一端は確実にある。それが王族というものだ」


なるほどなぁ……。つまり王子は、平和にあぐらを掻いていた先祖の罪まで謝罪しているわけだ。三百年前にボルドール王国なんて存在しなかったけど、いきなり何も無い所から王族が誕生するわけでも無いし、系譜を調べれば誰かしら当時の有力貴族に行き当たるんだろう。俺達が勝ち取った平和を当然のものとし、権力闘争に明け暮れて魔族に対する備えを怠った。王子はそれを悔いているに違いない。真面目だなぁと思う。でも、それだけ責任感が強いんだろう。以前の評判と違って人が変わったように感じるな。内戦を経て精神的に成長したのかも知れない。


「……わかりました。ラピスとしてではなく、勇者ブレイブとして貴方の謝罪を受け入れます」

「感謝する」


何と言うか、今のやり取りで俺は堅物でとっつきにくい印象だった彼が好きになっていた。好きと言っても異性に対する愛情ではなく、友達や知り合いに対するものと同じ好感だ。先祖の罪まで被ろうとしている真面目な彼なら、この先良い王様になるだろうなと思えるぐらいには。


「さて、話は変わるが」


突然の切り替えに戸惑う暇も無く、マグナ王子が次の話題を切り出した。それは当然、俺達が行方不明になった経緯の説明だ。間者からの報告で大体の流れは把握していたようだが、本人から直接細かい話を聞く必要があったのだろう。言いにくそうに説明するルビアスの話を黙って聞いていたマグナ王子は、全てを聞き終えた後深くため息を吐いた。


「無茶苦茶だな。少数で敵の本拠を襲撃するのもそうだが、皇帝の首を取ろうとするとは。だが、もっとも悪いのはそれを失敗していることだ」

「ですが兄上。師匠は戦争を止めようとして――」

「失敗しては意味が無いのだルビアス。お前もそれぐらいは理解出来るだろう」

「…………」


やるならやるで一言ぐらい相談して欲しかった。そんな気持ちが態度からひしひしと伝わってくる。ああ、これ。ルビアスに向けて言っているけど、主に俺に対して言ってるんだな。仮にも勇者ブレイブだから、あまり強い態度に出てられないってところなのか。なんだか申し訳なくなってくる。ある程度愚痴を吐いたことで満足したのか、再びため息を吐いたマグナ王子は、少し声のトーンを変えてきた。明るい方に。


「ま、今更言っても仕方がない。結果的にレブル帝国の戦力は大きく目減りしたしな。しかし、それでもリュミエールを落とす戦力は確保していたようだが。話を纏めよう。状況は最悪。レブル帝国は魔族と組み、どこからともなく戦力を集めている。正直言って、ボルドール一国だけでは厳しい状況だ。ここまではわかるな?」


全員がコクリと頷く。


「結構。だが、悪い話ばかりじゃない。リュミエールは陥落したものの、勇者であるフレア殿は無事だし、彼女を旗頭にしてリュミエール奪還の大義名分を得ることができる。そして第二に。勇者ブレイブが味方に居ると言うことだ」


その場の視線が俺に集まる。居心地が悪くなり、思わず尻をもぞもぞさせて意味なく座り直した。


「ラピス嬢。貴方の立場も気持ちもわかるが、こうなった以上は表舞台に立ってもらいたい。各国の勇者を纏め、対魔族の救世主、真なる勇者として」

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