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第192話 明るみに

――ラピス視点


「ラピスちゃん! とりあえず何処に向かうの?」

「ボルドール王国だ! レブル帝国と事を構えるにしろ、魔族に対抗するにしろ、俺達だけじゃ戦えないから!」


飛行魔法を駆使しつつ俺達は大声で会話する。シエルの魔法が以前と比べものにならないぐらい上達しているので、今じゃ俺と遜色ないスピードで空を飛べるようになっていた。眼下の景色が次々と変わっていく様を見ながら飛んでいると、見慣れた町並みが徐々に迫ってくるのがわかった。俺とシエルの魔法を使えば全員で移動してもあっと言う間にボルドール王国だ。


王城の城門前に突然降り立った俺達だったが、当然警備していた兵士達に取り囲まれることになる。しかし、俺達の顔を見知った兵士が何人かいたらしく、すぐに囲みは解かれることになった。


「驚きました。殿下とそのお仲間が行方知れずになったと聞いていたものですから」

「すまない。こちらも色々あってな」


先頭を歩く兵士とルビアスの会話が漏れ聞こえる。そう言えば、レブル帝国の城を襲撃してから随分経っているな――などと考えていると、周囲の兵士や女官が俺の姿を見るなり、驚いたように身をすくませているのがわかった。


「なんだ? なんか、変な反応をされてるような……」

「そうね。前はラピスちゃんが可愛すぎるから注目されることがよくあったけど、今の反応は何か違うような気がするわ」


悪意がないのはわかるけど、物凄く珍しい珍獣でも見つけたような興味津々の目で見られていると、流石に居心地が悪くなってくる。なんなんだこの反応は? そんな事を思っていたら、先頭の兵士が申し訳なさそうに頭を掻いた。


「それは――仕方のないことかも知れません。勇者ブレイブが生きていて、しかも女の子の姿を取っているとわかったのですから」

『は!?』


その言葉に俺達全員が素っ頓狂な声を上げた。勇者ブレイブって……なんで正体がバレてるんだ!?


「ど、どう言う事だ!? いったい何処からそんな話が……!」

「お、落ち着いてください殿下! 私のわかる範囲で説明いたしますから!」


思わず兵士の胸ぐらを掴み上げたルビアスに、兵士は手足をバタバタさせながら慌てて抗議した。片手で持ち上げられた事実に若干顔を引きつらせながらその兵士が説明してくれた内容に、俺は頭を抱えそうになってしまった。


俺達がレブル帝国の城を襲撃した後、このボルドール王国だけでなく、世界中で俺と勇者ブレイブが同一人物であると言う噂が広がったそうだ。それだけなら噂好きな連中が面白おかしく誇張して笑い話で終わったんだろうが、その噂には尾ひれがついていたのだ。レブル帝国の城を破壊した大罪人であり、魔族を引き入れている悪党だと。その話が広がった時、多くの国で混乱が起きたそうだ。


勇者ブレイブが生きているはずがない。仮に生きていたとしても、ヨボヨボのお爺ちゃんになっているはずだ。それが美少女になっているなんてなんの冗談だ? 嘘をつくならもっとマシな嘘をつけ。いやいや、勇者ブレイブぐらいなら年齢や性別を誤魔化すぐらい簡単にできそうだ。きっと彼は魔族の脅威が増すこんな時のために身を隠していたに違いない。いやまて、なんで身を隠す必要がある? そもそも、三百年前は本当に魔王を倒したのか? 魔族と取り引きしたから、死んだはずの魔王がまた姿を現したんじゃないのか?

……などなど。憶測が憶測を呼び、収拾のつかない事態になりかけた。そして世論は大きく二つに分かれた。勇者ブレイブが生きているなら、すぐに魔族を何とかしてもらおうとする肯定派と、魔族と繋がっている人類の裏切り者だから、すぐに殺すべきだとする否定派に。


他国がどんな状況になっているのかしらないが、このボルドール王国でもそんな民衆の声が大きくなったらしい。しかし、それを収めたのもまた、民衆の声だった。


「スーフォアの街に住む住人や、内戦で共に戦った兵士、騎士の多くが貴女を擁護してくれたのです。ラピス嬢は何度も命懸けで街や国のために戦ってくれた。そんな彼女が悪巧みなどするはずがない……と。むしろ彼女をあしざまに罵倒するレブル帝国こそが悪の権化なんだと。その声は自然に大きくなり、否定派の声は徐々に小さくなっていきました。そして先日、マグナ殿下が公式に声明を出されたのです」


マグナ王子は民衆を集めると、そこで今までの事情を説明したそうだ。なぜ俺が姿形を変えているのか。そして、本当の敵は誰なのかを。


彼曰く。勇者ブレイブは魔王を討伐した後、強すぎる自分の力の影響を懸念して自ら隠遁生活を送っていた。しかし、再び現れた魔王の脅威を見逃せるわけもなく、彼は再び立ち上がった。だが、勇者ブレイブが現れたとなると、人々は彼に頼り切り、自ら剣を持つ意志をなくしてしまう。それを問題だと考えた彼は、名と姿を変え、影ながら人々を支援する事に決めたのだ。だから、我々は自ら立ち上がらなければならない。勇者一人に頼り切るのではなく、自ら剣を持って。魔族と手を結び、世界を我が物にせんと企む悪の帝国、レブル帝国の脅威に対して。


「…………」


俺が隠れ住んでいた理由を当てられていたのに素直に驚いたけど、なんて言うか……俺が物凄く立派な人物に仕立て上げられているのに引っかかる。俺はそんなに立派な人間じゃないんだぞ。確かに困っている人がいたら助けようと思うけど、世界の平和だとか、人々のためだとか、そこまで大それた理想を抱いて戦ってたわけじゃない。ただ自分の居場所が欲しくて戦ってたようなものだ。


「まあ、よかったじゃない。悪いように見られなくて」

「そうそう。今までの積み重ねがあるから、沢山の人が味方してくれたんだよ」

「そう……だな。うん。それは嬉しいよ」


しばらく顔を見ていないスーフォアの街の人々を思い浮かべる。ギルドのみんなは元気にしているんだろうか? 彼等だけじゃない。スーフォアの街でも王都でも世話になった人は沢山いる。そんな彼等が擁護してくれたのだと思うと、俺は心が温かくなるのを感じていた。山の奥からカリンとシエルに引っ張り出されてから、俺が今までやってきたことは決して無駄じゃなかったんだな。


「それじゃ、もうラピスがブレイブだってことは……」

「ええ。この国の人間なら皆知っていると思います」


なるほど。だからこそこの視線なのか。今の俺はともかく、勇者ブレイブを知らない人はいないだろうからな。


「その件も含めて、マグナ殿下からお話があるそうですから」


ルビアスの帰還報告も含めて、レブル帝国襲撃や俺の正体。色々と話すことは多そうだ。俺達は足を速めながらマグナ王子の部屋へと急いだ。

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