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第188話 危険な存在

「ふふふ……あははははは!」


その手で魔族を葬り去ったメリアは、突然狂ったように笑い始めました。そして私は見たのです。彼女の姿がハッキリと変貌していく様を。私と同じ髪色だった金の髪は燃えるような赤へと変化し、同時に瞳の色も髪と同じになっていく。まるで血の色のようだわ――そんな間の抜けた事を考えている内にもメリアの変化は続き、それと同時に彼女から受ける圧力も格段に増していったのです。美しい色を放っていた宝石は、漆黒の黒へと変色していきました。


「ははは……はぁ……」


やがて変化を終えたメリアがフッと顔を上げると、私は反射的に剣を構えてしまいました。危険だ――私の本能が咄嗟にそう判断したしたのか、メリアからはさっきの女魔族と比べものにならない力を感じたのです。そんな私を嘲笑うかのように、メリアは余裕の笑みを浮かべています。


「あら……どうしたのフレア? 剣なんか構えて。実の妹に対してその態度はないんじゃない?」

「……戯れ言を。貴女が私に対して今更肉親の情を抱くはずがないでしょう。それに、今の貴女からは魔族よりも邪悪なものを感じます」

「あら? やっぱりわかっちゃう? でもしょうがないじゃない? こんな圧倒的な力を手に入れたんだから。弱者をからかいたくなるのは無理のない事よ」

「!」


突然動いたメリアは一瞬で私の目前へと迫ると、牽制のような軽さで剣を振り下ろしてきました。反射的に動いた私は両手で受けたにもかかわらず、その威力に弾き飛ばされてしまったのです。


「ぐ……重い!」

「あらら。どうやら力の差が付きすぎたみたいね」


空中を飛ばされた私を追って、メリアは立て続けに攻撃を続けてきました。上段、中段、下段、ありとあらゆる方向から、私にとって致命の一撃を放ってきたのです。それを必死になって防御していましたが、捌ききれない剣戟は、確実に私の体を削っていきました。


「はぁ……! はぁ……!」

「ただの牽制でこんなになるなんて。想像以上に弱いのね、フレア」

「くっ……!」


全身血まみれの私に対して、メリアは傷一つ負っていません。圧倒的な実力差。さっきまでは互角ぐらいに戦えると思っていたのに、魔族を取り込んだ一瞬のことで、ここまで差が付いてしまうなんて……。


「もう少しいたぶってあげても良いけど、そろそろ終わりにするわ。私も色々と忙しい身だし、世界を終わらせるためには、もっと魔族の力を取り込まないといけないのよね」


なんてこと。メリアはまだ強くなろうとしているのですか? このまま今の調子で強くなるなら、きっと誰の手にも負えない存在に――まさに魔王に匹敵する力を身につけてしまうかも知れない。それだけは……それだけは、何としてでも止めなければ!


満身創痍で剣を構えた私を見ると、メリアは馬鹿にしたように鼻で笑いました。心底馬鹿に仕切ったような、愚か者を見るような蔑んだ目で。


「……昔から頑固で物わかりが悪いと思ってたけど、最後の最後までそこは変わらないようねフレア。いいわ。あんたがどんなにあがこうとも、私には敵わないって思い知らせてあげる。私が作り出すこの世の地獄を、あの世で見物してなさい!」


来る――メリアが本気で斬りかかってくれば、今の私は自分が死んだこともわからず首を刎ねられるはず。ですが、私にも奥の手ぐらいあるんです!


「リュミエル神よ! 偉大なる光の神よ! 闇を切り裂く光の御技をお与えください!」

「な!?」


突如私の体から溢れた神聖な気は、メリアを怯ませるには十分なものでした。神下ろし――死ぬような思いを何度もしながら修行で得たこの力。神をその身に下ろす寸前まで得られるこの力は、一歩間違えると自分の魂が消滅する危険な技。ですが、出し惜しみしている余裕はありません。今のメリアは危険な存在。放っておけば更なる魔王の誕生となりかねません。ここで仕留めます!


メリアのお株を奪うような猛烈な剣の一撃。さっきと立場が逆になったかのように、今度はメリアが防戦一方となったのです。


「何なのよその力は! 忌ま忌ましい神の力まで感じるし!」

「今の私はリュミエル神の力を得ています! その力でメリア! 貴女をここで倒します!」

「ふざっけるな!」


メリアの胸元にある宝石が黒い光を放った途端、彼女の周囲に様々な魔法が浮かび上がりました。炎、氷、土、風。さっきの女魔族が使った魔法と同じ種類ですが、その威力は比べものにならないほど強力です。それが全て私に殺到しましたが、私は避ける素振りも見せずにそのまま突っ込んでいきます。


「正気!? 自殺願望でもあるのかしら!?」


嘲笑うようなメリアでしたが、次の瞬間、驚愕に表情を歪めました。直撃したはずの四種類の魔法。空中で派手な爆発を起こしながら、様々な光を放ち消え去った魔法の残滓。その中から無傷の私が飛び出してきたのですから。


「まさか――魔法が効かないの!?」

「そう言うことです! この身に魔法は効果がありません!」

「ちっ!」


回避の遅れたメリアに振るった剣は、彼女の脇腹を大きく抉りながら通り抜け、そのまま軌道を変えて今度は首へと迫ります。


「くそっ……! 調子に乗って!」


悪態をつきながら辛うじて受けきったメリアは、口から血を溢れさせながらも、突然眼下へと猛烈な速さで飛んでいったのです。


「逃げる気ですか!」

「今はね! でも忘れないでフレア! 私はもっと強くなる! そして、いつでもあんた達を狙っている! 平穏無事な生活など送れないと覚悟しなさい!」


そんな捨て台詞を吐きながらメリアは戦場へと降り立つと、周囲の魔族や聖騎士を一刀の下に蹴散らしました。


「邪魔よ雑魚共!」


剣の一撃ただの一振りで戦場に空白を作ったメリアは、そこに落ちていた一つのスクロールを拾い上げたのです。あれは――


「それは、さっきの女魔族の!」

「そ。どこに飛ぶかわからないけど、とりあえず何処かには逃げられるわ。じゃあねフレア。次は確実殺してあげる」

「待ちなさい!」


追いついた私の剣は一歩遅れ、逃走用のスクロールを使ったメリアの姿は掻き消えたのです。


「まずい……!」


他者の力を吸い取ることで力を増すメリアは、将来的にはとんでもない強敵になるのが確実。ここで仕留められなかったのは痛恨のミスですが、今は他に重要なことが残っています。


「フレア様!」


私の姿を確認した聖騎士の一人が歓喜に沸いた表情を浮かべました。そう。今は戦いの真っ最中。メリアの事は後回しにして。今は目の前の魔族をどうにかしないといけません。


「気を引き締めなさい! 敵の指揮官は討ち取りました! 後は残敵を掃討するだけです!」

『お、おおおおおお!』


圧倒的な力を誇っていた自分達の指揮官が討たれたことで、敵の動揺は計り知れないものでした。力をもった魔族が面白いように狼狽え、互いに顔を見合わせているのですから。これが――集団戦における魔族の弱点。個人個人の力に頼りすぎるため、指揮する頭を失えば、あっと言う間に組織が瓦解するのです。いかに力を持っていようと、連携のとれない軍など烏合の衆に過ぎず、そんな集団は聖騎士達の敵にはなり得ません。


「私に続きなさい! 突撃!」

『オオオオオ!』


雄叫びを上げながら突進を再開する聖騎士達。この場における勝利を確信した私でしたが、心の中はメリアの事でいっぱいでした。

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