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第187話 駒の意志

――フレア視点


「メリア!?」

「久しぶりねフレア。活躍は色々と聞いてたけど、こうして顔を合わせるのは十年ぶりぐらいかしら?」


生き別れた実の妹と再会出来たというのに、私の胸は喜びよりも焦りでいっぱいになっていました。劣勢な戦況を覆すために、大将を一騎打ちで倒す。しかもかなりの力を持った魔族を。焦りを誘発させて立ち直る暇も与えず、一気呵成にとどめを刺したいこのタイミングで邪魔が入るなんて……。


しかも、メリアが力を得た経緯を考えれば、彼女は魔族に肩入れしているはず。つまり二対一と言う事になってしまう。未だメリアの実力がハッキリしないこの時に、不利な状況はなるべく避けたい所です。


「お前は……! そうか。お前が話に聞いていた玩具ね。ちょうど良いわ。加勢しなさい。聖女様をここで始末して、リュミエルとやらを潰しに行くわよ」


切り落とされた腕を庇いながら、女魔族がメリアにそう命令しました。やはり……メリアは魔族の手駒にされているのですね。肉親の情というものを考えれば、できれば殺し合いなどしたくない。でも、この状況ではそれも無理でしょう。メリアは私を酷く恨んでいる。今更説得が通用するとも思えません。


覚悟を決めて剣を構え、どちらが先に動くかを見極めようとしたその時、突如メリアが高笑いし始めたのです。


「あは……! あはははは! これは傑作だわ!」

「な、何がおかしいの!? 何を笑ってる!?」

「あはは……はぁ。だって……ねえ? 笑わずにいられないじゃない? 普段あれだけ自信満々で偉そうにしてたのに、ちょっとピンチになったら助けてくれだなんて。魔族にはプライドってものがないのかしら?」

「な!?」


メリアは心底馬鹿にしたように、女魔族を蔑んだ目で見ていました。対する女魔族はメリアがそんな態度に出ると思っていなかったらしく、酷く狼狽えています。


「お、お前! 私達に助けられた駒の分際で逆らおうって言うの!?」

「別に助けてくれって頼んだわけじゃないでしょ? あんた達が勝手にやったことじゃない。それに、駒にも意志ってものがあるのよ。下で捨て駒にされてる魔物と違ってね」


そう言って、メリアは下を指さしました。チラリと視線を下に向けると、相変わらず戦場のあちこちで爆発は続いています。その度に魔物や騎士に被害が拡大し、戦場は地獄絵図の様相を呈していました。


「じゃ、じゃあ何しに来たのよ!? 見物に来たとでも言うつもり!?」

「違うわよ。そこまで私も暇じゃないの。私の目的は一つ。あんた達二人を殺して、魔族と人間双方を共倒れさせることよ」

「メリア!? 正気ですか!?」


人間だけでなく、まさか魔族まで潰すつもりだったなんて……。まともな思考ではありません。言うなれば、メリアは……妹は、一人で全世界を敵に回して戦うと宣言しているようなもの。そんな事はあの勇者ブレイブだって、かつての魔王だってしていなかったことです。愕然とする私を面白そうに見やったメリアは、とても狂った内面を持っていると思えないような冷静な声色で、私達に語りかけます。


「私は至って正気よフレア。私は、私を捨てた人間も、私を利用した魔族も許すつもりはないの。だから命ある限り戦い続け、この世界から両方を根絶させてみせる。それが今の目標。それを邪魔する者は誰であろうと容赦しない。勇者だろうが魔王だろうが、この手で斬り伏せてみせるわ」


話は終わりとばかりにスラリと剣を抜くメリア。その体からは一気に殺気が膨れ上がり、今の言葉が嘘でないことを証明するようでした。反射的に剣を構えたその時、最初に動いたのは女魔族でした。


「もういい! 便利な駒だから生かしておいてやったのに、この恩知らずが! お前も魔物同様に砕け散ると良いわ!」


絶叫と共に女魔族が残された手を振り上げると、そこから黒い衝撃波のようなものが溢れだし、避ける間もなくメリアに直撃したのです。


「ご大層な事をほざいていたわね! でももう終わり! 駒の分際で調子に乗ったのが運の尽きよ! その聖女と共に自爆しなさい!」


まさか――今のは魔物を爆発させたのと同じ魔法!? 私の脳裏に目の前で爆発した『虐げられた者』の男が蘇りました。あまり力を持っていなかったと思える男でも、あの規模の爆発と威力を持っていたのです。メリアほど力を持った人間が爆発したら――私はおろか、下の軍まで無事では済まない。追い詰められて自暴自棄になった女魔族が相打ち覚悟で仕掛けてきたのかと焦ったのですが、どうやら違うようでした。


「私はこのスクロールで逃げるから。後お前達は後悔しながら死んで――」


女魔族がそこまで言葉にした時、スクロールをもった腕をメリアが切り落としたのです。


「な!? お、お前!」

「残念でした。宝石の呪縛なんて、とっくの昔に解けてるのよ」

「が!?」


恐らく、逃走用だと思えるスクロールを持った腕が虚しく宙を舞っていました。メリアは女魔族の首を素早く鷲づかみにすると、再びゾッとするような笑みを浮かべたのです。


「お前達魔族が私達『虐げられた者』に課した制約があるのを知ってるわよね? 他人の生命力を吸い取って生きながらえなきゃいけないという糞みたいなアレのことよ。でも、最近私は面白いことに気がついたの。それが何だかわかる?」

「か……く……!」


首を絞められた女魔族は、息も絶え絶えになりながら弱々しく首を振りました。その反応に満足したのか、メリアは話を続けます。


「人間から生命力を吸い取った時、少しずつではあるんだけど、自分の力が増している感覚があったのよ。最初は錯覚かと思った。でも、繰り返す事で確信に変わったわ。私は強くなっている。命を吸うごとに。確実に。そして、強い人間から生命力を奪うほど強力な力を身につけているってこともね」


メリアの胸元が怪しい輝きを放ち、それに反比例して魔族の表情が苦しげなものになっていきました。


「そこで試してみたくなったのよ。魔族の生命力を吸い取ったらどうなるのかなって。人間でこれだけの力を手に入れられたのだもの。より強力な生命体である魔族からなら、どんな力が得られるんでしょうね?」

「!」


死を直感した女魔族が死に物狂いで暴れ始めましたが、メリアはまるで躾の悪い子犬でもあやすように、困ったような表情を浮かべました。


「……! ……!?」

「ああ、そんなに暴れないでよ。吸い取りにくいじゃない。でも……これは凄いわね。力が増してきているのがハッキリわかる。魔族ってここまで凄いんだ!」


嬉々として女魔族から生命力を吸い取り続けるメリア。やがてその手の中にある女魔族はピクリとも動かなくなり、最後には塩のように真っ白になった後、風に溶けるように消えてしまったのでした。

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