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第185話 ラクスの作戦

――ラクス視点


「始まったわね」


体全体にまとわりつくような不快感に眉を顰め、私は一人呟いた。敵は対魔族に特化したご自慢の聖騎士団らしく、挨拶代わりに広範囲の神聖魔法を使ったみたいだ。力の弱い魔族や魔物はそれだけでかなり弱体化するだろう。それでも負けるつもりはないんだけど。


魔族や魔物に対して効果のある神聖魔法とは言え、別に無敵というわけじゃない。ちゃんと弱点も存在する。そうでなければ、今頃魔族は滅びているはずだから。


まず、広範囲の神聖魔法には莫大な魔力が必要になる。軍と軍のぶつかり合いになる場合、戦場をすっぽりと覆う必要があるのだから、使用者の魔力はそれだけで空になると思って良い。聖騎士団は全員が大なり小なり神聖魔法を使えるし、奴等をバックアップするために多くの神官も従軍しているだろうけど、神聖魔法のおかけでその大半が回復もできない普通の騎士へと成り下がる。つまり、一度倒れたらソコまでと言うわけね。自身の回復魔法でゾンビのように何度も立ち上がってくる聖騎士団の強みはこれで帳消しになる。


そして次の弱点は持続力だ。大量の魔力を消費しているのに、この神聖魔法はそれほど効果時間が長くない。せいぜい三十分ほど続けば良い方だろう。と言う事は、嫌でも連中は短期決戦を挑むしかないわけだ。こっちが籠城を決め込んでいたら連中も神聖魔法を使わなかっただろうけど、野戦となったらから早期決着を目論んでいるんだろう。……それが罠とも知らずにね。


知らず、自分の口元が歪んでいるのを自覚した。怪訝な表情でこっちを見る部下を睨み付け、誤魔化すように鋭い指示を出す。


「準備はできているの?」

「はっ! 問題ありません。今すぐにでも動けます」

「そう。じゃあ始めなさいな」

「了解しました!」


命令を受けた部下が走り出し、更にそこから複数の伝令が馬で走り出した。私は報告を待つことなく上空へと舞い上がる。すると眼下にある両軍の動きが手に取るように把握出来た。


私の軍は大まかに言って二つに分かれている。前衛と後衛だ。もっとわかりやすく言うと前は捨て駒の魔物。数だけは大量に揃っている。そして後ろは純粋な魔族の兵達。練度も装備も実力も備わった軍隊だけど、数が少なすぎる。聖騎士団の四分の一程度しかないだろう。まともにぶつかったら多分勝てるだろうけど、その後の統治を考えると消耗するのは避けたい。だから魔族の兵は使いどころが難しい。


矢じりのような形の陣形――鋒矢陣形をとった聖騎士団が、凄まじい勢いで突進してきた。本能だけで動く魔物は、普段から人間を餌ぐらいしにか感じておらず、恐怖の対象として見ることは少ない。にもかかわらず、連中はわかりやすく恐怖していた。怯んでいた。自分達目がけて突っ込んでくる騎士の集まりに対して、本能的に恐怖しているんだ。当然、そうなったら魔物は逃げ出そうとする。理性のない魔物なんてこんなもので、いくら数を掻き集めても脆いものだ。勝ってる時は調子に乗って敵に向かうけど、少しでも不利になると一気に総崩れになる。だから魔物は使いどころが難しい。


まともな軍なら、今までの魔族なら、それでも何とか魔物共を使って戦争を継続させたに違いない。でも、私は違う。最初から魔物をまともに使う気はなかった。連中には文字通り、ここで捨て駒になってもらう。作戦が上手くハマりつつある事に、私は再び口元を歪ませた。


――フレア視点


おかしい。敵の動きが脆すぎる。聖騎士団の先頭で剣を振るいながら、私は疑問と不安を同時に覚えていました。国内の政情不安という事態もあり、魔族相手に長期間戦うこともできず、私達は短期決戦で勝負をつけることにしたのです。前面に実力者を集めて突破力を上げ、衝撃力で敵集団を粉砕、撃滅する予定だったのですが……。でも、今更足を止めるわけにもいきません。この陣形で足を止めれば、後続部隊は袋叩きにあってしまいます。そうなれば戦闘どころではなくなり、撤退もままならなくなるでしょう。


「怯んではなりません! もう少しで敵の本体に手が届くのです! あれを粉砕すれば我々の勝利なのです!」

「フレア様!」


兵を鼓舞して更に突進しようとしたまさにその時、両脇を固める騎士が何かに驚いたような声を上げました。


「あれは……壁?」


魔物達の後ろ。魔物と魔族の間にあったはずの空間がなく、突如大きな壁が現れたのです。その壁は混乱し、逃げ惑う魔物を取り囲むように配置されていて、どこにも彼等の逃げ場はないように見えました。つまりそれは、彼等と矛を交えている我々も囲まれていると言う事で――


「マズい! 全軍停止! 急いで後退しなさい!」

「フレア様!?」

「早くなさい! 全滅したいのですか!?」


敵の狙いを瞬時に理解した私は声を上げますが、それで軍全体が動きを止めれば苦労はありません。前が止まったからと言って後ろがすぐに止まれるわけもなく、突然足を止めれば兵同士がぶつかり、負傷者が続出するでしょう。それでも私は止まるように、後退するように命令しました。今すぐこの場から後退しないと、誰も生きて帰れないとわかっていたから。


「くっ――! 左に回頭! 全軍私に続きなさい!」


その場に留まってマゴマゴしているよりは、犠牲を出しても突進を逸らした方が良い。一か八かの賭けにでたその直後。周囲から凄まじい爆発がいくつも起きたのでした。

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