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第132話 南の果てで

「グロム伯爵の領地まで……スティード派と敵対してしまったというのに、いったいこれからどうすれば良いのだ……」


ヴェルナの口から衝撃の事実を聞かされたクリストファー伯爵は、面白いように顔色を変えている。それは彼の周囲を固める騎士や兵士達も同様だった。


「今回のことが知られれば、スティード王子は必ず討伐の兵を差し向けてくるぞ。僅か数百の黒騎士にも歯が立たなかったというのに、我が領地の兵士ではどうにもならない。いっその事他国へ落ち延びるか……?」

「そんな!?」

「伯爵様! 我々を見捨てるおつもりですか!」

「ち、違う! そうではない!」

「何が違うのです!」


伯爵がポツリと漏らした言葉に騎士達がまた顔色を変えた。そりゃそうだ。伯爵と違って、彼等と彼等の家族が逃げだそうにも無一文で放り出されるようなものだから、自分だけ安全圏に逃げだそうとする伯爵を赦せないのだろう。


口汚く罵り合う父親とその配下を見ていたヴェルナは、深くため息を吐きながら頭を左右に振った。


「情けない……」

「そ、そうだ。情けないぞお前達!」


ヴェルナの呟きに我が意を得たりと強気になった伯爵だったが、それはすぐ彼女自身に否定されてしまった。


「そうではありません。情けないのはあなただと言っているのです父上」

「え?」


意味がわからないと首をかしげる伯爵に、ヴェルナは再び深いため息を吐いた。


「皆が不満を口にするのは当然なのです。自らの責任を放棄して逃げ出そうとする者に、誰がついてくると言うのですか? 彼等にはこの街に住む家族や友人知人がいるのですよ? それを見捨てて逃げ出す自分を守れとでも言うつもりですか? 少しは考えてください」

「…………」


立場が立場だけあって、普段誰にも指摘されたことがなかったんだろう。伯爵は心底驚いたように口をパクパクさせていた。そんな彼の様子にヴェルナはもうため息を出ないのか、キリッとした表情で騒いでいた騎士達を見つめる。


「もうお父様には任せていられません。この街は私が守ります。不満はあるでしょうが、皆も力を貸してください」

「それは……かまわないのですが……」

「なあ?」

「……うん」


情けない領主より、見目麗しくやる気に満ちたお姫様の方が守り甲斐があるためか、騎士達は特に反対しない。しかし、不安そうな態度を隠しもしないのは、現在の状況を理解しているからだろう。そんな彼等を安心させるようにヴェルナは微笑んでみせる。


「安心なさい。私達には強い味方がいます。こちらにいらっしゃるディエーリアこそ、ルビアス殿下と共に魔族と戦う勇者パーティーの一員なのですから」

『!』


伯爵や騎士達が驚愕している。さっきヴェルナが説明したことを誰も信じていなかったのに、勇者パーティーの一員と言った途端にこれだ。現金だなと呆れるけど、今それを顔に出さない分別ぐらい私にもある。


「ディエーリアは強く、黒騎士など相手にもならないのは皆も理解したでしょう。しかしいくら彼女が強いからと言っても、それに頼り切りになるわけにはいきません。皆の協力が必要なのです」

「ヴェルナの言うとおりよ。私一人で出来る事には限界があるの。街のみんなを守るためにも、あなた達の力を貸してちょうだい」


自分達では歯が立たなかった黒騎士を殲滅した私と、人が変わったように頼もしくなったヴェルナ。そして自分達を切り捨てて一人で逃げようとしたクリストファー伯爵。彼等は一瞬だけ逡巡するような素振りを見せたものの、すぐに決意を固めたようだった。


「我々で良ければ是非協力させてください。ヴェルナ様、ディエーリア様」


そう言って一斉に膝をついた。ヴェルナな満足そうに一つ頷くと、自らの父親に向き直る。


「そう言うわけです。父上。後のことは私に任せて、父上は部屋で休むなり街を出るなり好きになさってください」

「ヴェルナ……」

「さあ、皆の協力が得られたのですから、何を置いてもやらなければならないことがあります。着いて来てください」


ヴェルナはそう言うと、呆然とするクリストファー伯爵の横を通り抜け、部屋の奥に設置されていた魔道具に歩み寄る。あれは確か……連絡用の魔道具? 以前ルビアスにそんな道具の話を聞いたことがあったのを思い出した。ヴェルナはそれに手をかけると、すぐに起動させる。


「ヴェルナ。どうするの?」

「各地に対して檄を飛ばします。スティード派に不満を持っている領主は多いはず。それらの力を借りられれば」

「それは……」


難しいんじゃないか――口には出さなくても私の表情で察したのか、ヴェルナは力なく笑った。いくら不満を持っていたとしても相手は国の大半を手中に収めている勢力だ。ここでヴェルナが堂々と決起を呼びかけたところで、それに呼応する領主が出てくるとも思えない。それに、こう言っちゃ悪いけどヴェルナを旗頭にするのは無理がある。他の領地の貴族にとって、彼女は顔も知らない小娘でしかないからだ。そのヴェルナに呼応して、自分や領民を危険にさらす賭に出る領主はいないだろう。


「可能性が低いのはわかっているのです。ですが、他に方法もありません。今は少しでも多くの味方を集めなければならないのですから」

「……そうだね」


決意を新たにヴェルナが魔道具を起動し、呼びかけようとしたまさにその時、その魔道具が部屋はおろか城中に響き渡るような大きさで、けたたましい音を鳴らし始めた。


「な、なに!?」

「これは……緊急時に鳴る警告音です! 何者かが国内全てに向けて言葉を伝えようとしています」


耳を押さえた私にヴェルナが答える。この魔道具、会話だけじゃなくそんな事まで出来たんだ。驚く私達が見守る中、しばらくすると魔道具から聞き慣れた声が聞こえてきた。


『……私、ボルドール王国の第三王女ルビアスは、ここに決意を表明する。これ以上スティード兄上の横暴を見過ごす事は出来ない! 国を正しい道に戻すため、乱暴狼藉を働く不届き者を国内から一掃するため、何より魔族の脅威に備えるために、私はスティード兄上……いや、スティードを倒すと決意した! 我と思わんものは我が元に集え! もう一度言う! 勇者ルビアスとその仲間は、スティードを倒すために決起した! 王をお救いし、スティードを倒す! 我等ボルドール正規軍に協力を望む者は、スーフォアの街に集結せよ!』


プツン――と、それだけ言って魔道具は完全に沈黙してしまった。


「…………」

「…………」


私達も言葉がない。まさかルビアスがこんな行動を起こすなんて、全く予想もしていなかった。各自が別行動している僅かな間に何があったんだろう? ラピスちゃんはこの事を知っているの? ルビアスとは一緒に居たはずだから、たぶん彼女も味方しているんだろうけど……。カリンとシエルが探しているマグナ王子は見つからなかったんだろうか? 疑問が次々と頭に浮かぶ。


「これは……好機ですよ!」


振り向いたヴェルナは、興奮のためか頬を紅潮させていた。


「ルビアス殿下が軍をあげたのなら賛同する者は多いはず。殿下の人気はスティードはもちろん、次兄のマグナ王子よりも上なのですから。スティードに反抗する戦力のほとんどが終結するでしょう。何より、勇者パーティーのメンバーは一人一人が一騎当千の強者ばかり。十分勝機はあるはずです!」

「確かに……」


私やルビアス達はともかく、ラピスちゃんだけは別格だ。彼女がその気になったら並の軍隊なんてまるで相手にならないはず。それこそ一人で殲滅するのも不可能じゃない。


「すぐルビアス殿下に連絡を取りましょう。我がクリストファー家は殿下にお味方すると。こうなってはスティード派も北の果てにある我が領に軍を派遣する余裕などなくなるはずです。たとえ派遣されたとしても、大軍ではなく少数の鎮圧軍がせいぜいでしょう。運が向いてきましたよ!」


生存することすら難しい状況から一転、国内で最も安全な場所になるかも知れないとわかったヴェルナは喜びを隠そうともしなかった。スーフォアの街でルビアスが北に攻め上がるなら、最北に居る私も何か援護が出来るはずだ。ヴェルナと協力して出来る限りスティード派の力を削がないと。でも……。


浮かれるヴェルナとは対照的に、私は何か見落としがあるのでは無いかと気になっていた。ハッキリと何が原因とは言えないんだけど、私の勘がそう告げていた。

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