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第113話 妙な技

――ディエーリア視点


下品で不快な笑い声を上げていた男達は、ゆっくりとした足取りで近づいてくる私の存在に気がついたようだった。それにつられて倒れていた冒険者達も視線を同じくする。するとその内の一人が驚いたように目を見開き、大きく声を上げた。


「ディエーリアさん!?」


彼の事は記憶に無いけど、たぶん訓練所の何処かですれ違ったか、ラピスちゃんの仲間だという事で知っていたのかも知れない。勇者パーティーの一人。弓と精霊魔法の使い手。そしてゼルビスの勇者だという私の名を聞いた者達は、二つの反応を示した。痛みに顔を歪めていた冒険者達は少し笑顔を見せ、男達は胡散臭そうにこちらを見た。


「ディエーリアだと? 聞いた名だな」

「あれだ。ラピスとか言う女の仲間の一人だな。つまり探す手間が省けたって事だ」


私が誰か解っても余裕の態度を崩さない。余程腕に自信があるのか、黒ずくめは表情一つ変えなかった。足を止めた私はそんな男達を睨み付ける。


「わざわざ捕まりに来たか女? いや、ひょっとして自分達が手配されてる事すら知らん間抜けか?」

「知ってるわよそのぐらい。馬鹿王子が馬鹿な真似をして、国中にあんた達みたいな馬鹿が溢れたって事もね」

「なんだと!?」


私の言葉に男は顔色を変えた。身分の高さを人間の価値とでも言うような言動を取っていただけに、他人から馬鹿にされるのは慣れていないのかも知れない。いや、たぶん馬鹿にされる事すらなかったんだろう。軽く挑発しただけなのに、面白いように引っかかってくれる。ただ、黒ずくめだけ無反応なのが気にかかる。


「女! お前には捕縛命令が出ている! 大人しく捕まるなら多少痛めつける程度で許してやるが、逆らうなら手足の一二本は覚悟してもらう事になるぞ!」

「随分と乱暴ね。それは私がゼルビスの勇者と知っての事かしら? あんた達の判断でゼルビスとボルドールは事を構える事になりかねないんだけど、理解してる?」

「問題にもならん! 我等新生ボルドール王国の力は他国を圧倒する! ゼルビスごときが障害になると思うな!」


怒りが更に増す。私は特別愛国者ってわけでもないけど、それでも生まれ育った国を侮辱されて頭にこないはずがない。


「はぁ……」


怒りを飲み込んで深く息を吐く。落ち着け。なんのために厳しい修行をしてきたのよ。感情のままに暴れてたら、前と変わらないじゃない。


「あんた達ごときに私達が捕らえられると思ってるなんて、噂どおりスティードって王子は馬鹿なのね。それにその手下は、自分と相手の実力差も理解できない無能ときてる。これじゃボルドール王国も長くないわね」

「言わせておけば……!」


男の一人がいきなり剣を振り下ろしてきた。当たり前だけど、いくら修行を積んだとしてもそれをまともにくらったら良くて大怪我、悪くすれば死んでしまう。怒りに燃えた男はその程度の判断も出来ないのか、あきらかに殺気の籠もった一撃だった。でも――


(遅い)


竜の巣でさんざんセレーネの攻撃に慣らされた私からすれば、男の攻撃は本当にハエがとまりそうなほど遅く感じられる。それだけ動体視力が鍛えられたって事なんだろう。だから私は焦る事なく男の剣を紙一重で避け、その顔面に拳を叩き込んだ。


「ぐぁっ!?」


男は防御も出来ずに数メートル吹き飛ぶと、そのまま動かなくなる。自分の仲間が細身のエルフに殴り飛ばされると思っていなかったのか、もう一人は驚いて声も出ない様子だ。


「な……! お、お前精霊使いじゃなかったのか! 確か弓と魔法以外は並の冒険者だったはず……!」

「いつの情報よそれ? 確かに私は接近戦が苦手だけど、あんた達程度なら素手でも十分叩きのめせるわ」

「くっ……!」


心底馬鹿にしたように呆れ半分で笑みを浮かべると、男は顔を真っ赤にしながらも一歩、二歩と後ろに下がる。今頃になって実力差を理解したみたいだ。逆に倒れたままの冒険者達は憧れるような目でこちらを見ていた。


「どうしたの? こないの? さっきこの人達に生まれの差は覆せないとか言ってなかった? 私の国は身分差がないし、言ってみれば全員が平民。あんた達なら当然勝てるのよね?」


私が一歩差を詰めると、男は同じように後ろへ下がる。完全に怯えている。話にならないわね。


「もういい。お前は下がれ。あとは俺がやる」


ここで初めて黒ずくが動いた。奴は男と私の間に割り込むような位置に立つと、スラリと腰の剣を抜いた。でも――


「どうやら話に聞いていた以上の実力者のようだな。勇者の名は伊達ではないってところか」

「あんたなら私を抑えられると? ずいぶんな自信じゃない。見たところ、あんたの腕は私に及ばないようだけど?」


男の腕前は、前の二人よりかなり上みたいだ。それでも私には及ばない。流石に数で囲まれたら厄介だけど、一対一なら話にならないほどの実力差がある。それは黒ずくめも解っているはずなのに、奴は余裕の態度を崩そうとしない。いったいこの自信はどこから……?


「ふふ……。確かにお前の実力は大したものだ。まともにやり合えば俺でさえ分が悪いだろうな。しかし……あくまでもまともにやったらの話だ」

「…………?」


言っている意味がわからず私が眉を顰めると、男はニヤリと笑みを浮かべた。次の瞬間、男から異様な気配を感じた私は倒れている冒険者を後方へ投げ飛ばし、反射的にその場から飛び退いた。


「ぐは!」

「いた!」


突然投げられた事で冒険者達が悲鳴を上げる。でもそれどころじゃない。なに? この異様な雰囲気は?


「ほう……。流石だな。まだ全力をだしていないのに気がついたか」


男は感心したように嗤う。でも私は男と反対に、次第に自分の表情が険しくなっていくのを自覚していた。男の雰囲気から感じるもの――それは過去、嫌と言うほど私に恐怖を与えた連中と近いものだったからだ。


「まさか……魔族?」

「魔族だと? 馬鹿を言うなよ女! この俺が魔族な訳がないだろう」


魔族である事を否定しても、男から感じる瘴気は魔族のものとしか思えない。これで魔族じゃないなんて言われても信じられなかった。男は剣を構え、何気ない動作で一歩前に進むと、次の瞬間一気に距離を詰めて斬りかかってきた。


「くっ――!」

「避けたか! 流石だな!」


距離を取ろうとする私に男は追撃をかけてくる。一撃一撃がさっきの男とまるで違う。比べものにならない速さと切れがあった。流石に素手じゃ厳しい! 男が頭を薙ぐように剣を一閃させた時、私は咄嗟に地面に伏せて砂を掴むと、それを勢いよく男の顔面向けて投げつけた。


「むっ!?」


上手くいけば目潰しぐらいは出来るかと思ったけど、男は片手で砂を払って直撃を避ける。しかしその一瞬の間に私は大きく後ろに跳び、距離を稼いでいた。


「どうした? さっきまでの余裕は?」


男が嘲笑うように剣を向ける。でも私はそれに答えず、精神を集中させる。その様子を諦めだと思ったのか、男は勝利を確信したように笑みを浮かべた。


「ふん! 勇者パーティーなどと持て囃されてもしょせんこの程度だ! 我等スティード親衛隊にかかれば雑魚同然! 女! お前はここで捕らえ、他の勇者パーティーを集めるための餌になってもらうぞ!」


言うが早いか、男は一気に踏み込んでくる。それを迎え撃つように私も動じに飛び出した。まさかこの状況で向かってくると思っていなかったのか、男は驚きに目を見開く。しかしそれも一瞬、すれ違い様に男は剣を振りかぶった。それに対して私は――腕を前に突き出しただけだ。


「笑止! 素手で防げるはずがないだろう!」


そうだ。確かに男の言うように、ラピスちゃんでもない私が素手で剣を受け止められるはずがない。でも私には彼女にはない力がある。精霊の助けを借りられるという力だ。


「なにい!?」


男の振り抜いた一撃は、私の手に触れた瞬間乾いた音を立てて跳ね返された。驚愕の表情を浮かべる男が立ち直る暇を与えず、私はすかさず顔面へと拳を振り抜く。避ける暇もなくまともに攻撃を受けた男はなすすべもなく殴り倒され、その場へと崩れ落ちた。


「ぐ……馬鹿な……今のはいったい……?」


口から血を吐き出しながら、男は苦しそうにこちらを見上げてくる。私はそれに冷たい目を向けた。


「答える義務はないんだけど、一応教えといてあげるわ。精霊魔法よ」

「魔法……? いつ唱えたというのだ? 詠唱する時間などなかったはず……」

「勇者パーティーの魔法使いに詠唱なんて必要ないのよ。それより、あんたには話があるわ。その妙な力を何処で手に入れたのか、じっくり聞かせてもらいましょうか」


無詠唱で魔法を使う――高ランクの冒険者ですら滅多に見ない技を当然のように使う――その事実を突きつけられ、男は諦めたように頭を垂れた。

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