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第109話 久しぶりのギルド

変装して大通りを歩いていると、見覚えのない格好をした兵士の一団が凄い勢いで走ってきたかと思うと、そのまま足も止めずに走り去ってしまった。たぶん騒ぎを起こして姿を消したカリン達を探しているんだと思う。


「あれが例の貴族の手下かな? 確かに普通の兵士より弱そうだ」


この街の兵士は訓練所の影響もあるのか、王都にいる兵士より全体的な質が高い。たぶん一対一なら余程のことがない限り負けないはずだ。そんな彼等が本気になったら乗り込んできた兵士ぐらい簡単に蹴散らせそうだけど、物事はそう簡単に解決するものじゃない。


「上からの命令には逆らえないだろうし。それに根無し草の冒険者と違って、兵士は家族も街に住んでるだろうしな」


自分が無茶をした結果、家族まで罪人扱いされる可能性があるのなら、気に入らない貴族の命令でも黙って従うしかないだろう。


そんな事を考えずに歩いていると、見慣れた建物が近づいてきた。


「ギルドだ……一ヶ月ほどしか経ってないのに、なんだか随分懐かしい気がする」


竜の巣で色々あった時は二度と戻らない事も考えていただけに、なんだか感慨深いものがある。普段ならギルドの入り口は出入りする冒険者が多く行き交っているのに、今は数えるほどしか人の姿がなかった。その光景を見ると、本当に人が減っているんだなと実感させられる。中から出てきた冒険者をやり過ごして中に入ると、俺の姿を目にしたカミーユさんが驚いたように目を見開いた。


「ラ――! ん、んん……ごほん。どうしたいお嬢さん? ギルドに何か依頼かい?」


咄嗟に俺の名前を出そうとして止めたって事は、まさかこの中にも貴族の手下がいるのか? 門番さんの話だと、ギルドは大丈夫だったはずだが……。素早く目配せしてギルド内を調べてみると、一人の見慣れない男がギルドの隅にある椅子に腰掛けているのに気がついた。あんな所に椅子なんて置いてなかったはずだから、たぶんあの男が監視役に間違いないんだろう。


俺はあくまでも依頼を頼みに来た町娘という風でカウンターに近寄り、カミーユさんに笑いかけた。


「こんにちは。ギルドに頼みたい仕事があるのですが、良いでしょうか?」

「もちろんだよ。じゃあこの紙に名前と住んでる場所、依頼内容を書いておくれ」


流石に受付嬢としての年期が桁違いのカミーユさん。俺が何をしたいのか瞬時に悟ってくれたようだ。彼女は一切の動揺も見せず、いつも通りカウンターから白紙の依頼書を取り出すと、ペンと共にこちらに差し出してきた。隅にいる男からカウンターで記入する紙面の内容までは確認出来ない。カミーユさんに今の状況を聞くにはこの方法しかない。紙面に質問を書きながら、口では全く別の質問をしていく。


「魔物の討伐って大変そうですよね。依頼を受けてくれる冒険者の方は、新人さんばかりなんでしょうか?」

『あの男はクロム様を監禁してる貴族の手下ですか?』


「そうだね。最近やって来たばかりの冒険者も多いけど、条件次第でベテランも動いてくれるよ。まぁ、確実に受けてくれるとは断言出来ないけど。ギルドはあくまでも仲介業だからね」


最近やって来た……なら間違いないか。


「そうなんですか。でも、すぐ来てくれるんでしょうか? 依頼を受けていただけそうな冒険者の方がいれば、直接会って村の窮状を説明したいのですが……」

『ギルドの監視が緩む時間や場所はありますか?』


「うーん……難しいね。彼等は朝から晩までずっと働いてるからね。直接話がしたいなら、夜に酒場にでも行った方が確実じゃないかい? 冒険者が多く集まる金の麦亭って宿屋があるから、そっちで声をかけてみるのも良いんじゃないかい?」


なるほど。監視が厳しいのか。これ以上は場所を変えた方が良いって訳だな。俺は少しだけ後ろを見る。すると隅の男がこちらを凝視しているのが目に入った。……いくら誤魔化してるとは言え、長々と話してると怪しまれるからな。ここらが限界だろう。


「書き上がりました」

「どれどれ……うん。問題ないね。報酬は後払いだから、手付けとして銀貨二枚をもらうよ」

「はい。お願いします」


依頼書には以前訪れた村の名前に似せた架空の地名が書いてある。この近辺に住んでいる人間なら変だと思う内容だろうけど、王都から来たばかりの兵隊なら気がつかないはずだ。こんな時だけど、普段やっている業務を客の立場から体験するのはなかなか面白かった。


「よし、じゃあ依頼を受け付けたよ」

「ありがとうございます。一応紹介された宿屋でも冒険者を探してみます」

「ああ、気をつけてお行き。一日二日じゃ難しいだろうから、何日か泊まっていくと良いよ」


ペコリと頭を下げて俺はギルドの外へと足を向ける。途中隅にいる男から視線を感じたが、彼は特に何も言わなかった。ギルドを出てしばらく歩くと、自然と口から息が漏れた。どうやら知らない間に緊張していたらしい。


「さて、とりあえず金の麦亭に行こうかな。夜にはカミーユさんが来てくれるみたいだし」


依頼に訪れた人間が、ギルドを通さずに冒険者と交渉する事はほとんどないと言って良い。少なくとも俺がギルドで働き始めてからは一度もない事だ。それを変に思うのはギルドの職員ぐらいだろう。俺は足早に通りを歩き、慣れ親しんだ金の麦亭へと急いだ。


§ § §


夜。すっかり日が落ちて暗くなった街の通りには大勢の人間が闊歩している。それらは昼間と違った人種で、仕事の終わりの疲れを癒やすために酒を飲みに行く住人や、外からやって来て宿を取る人間、そして冒険者のように外仕事を終えて戻ってきた人間達が主だ。住民の大半は自炊する事もあるが、中には外から来た人間同様に外食を選択するものも多い。このスーフォアの街に限らず、平均的な宿屋の一階はそんな人間達に食事を提供する食堂になっているので、夜遅くとも多くの人々で賑わうことになっている。つまり密談をするには打って付けの場所と言うことだ。


ギルドやクロム様の城は監視下に置けても、流石に多くある宿まで手下を放つことなど不可能だったんだろう。俺は街の通りから少し離れた、安い宿の一階にある隅っこの席で、目的の人物が現れるのを待っていた。


「待たせたね」

「いえいえ、俺も今来たところですよ」


遠慮なく近づいてきた気配は、そのまま明るい笑みを浮かべて向かい側の席に着いた。言うまでもなくカミーユさんだ。彼女と俺は今、金の麦亭――ではなく、全く違う宿に集まっていた。


「ちゃんと伝言が伝わってて安心しましたよ」

「まあ、リオもあれで年季の入った給仕だしね。その辺は上手くやってくれるよ」


ギルドを後にした俺は、カミーユさんとの会話で出てきた金の麦亭へと足を運んだ。そこで一部屋確保した後宿には泊まらず、給仕のリオに伝言を頼んだのだ。カミーユさんが来たら、この宿へ向かうように伝えてくれと。


ギルドで俺達の会話が盗み聞きされているのは解っていたから、何の警戒もなく金の麦亭で落ち合うほど俺も馬鹿じゃない。念のためのカモフラージュとして一部屋確保した後、カミーユさんに移動してもらう事にしたんだ。ギルドで仕事を終えたカミーユさんが金の麦亭を訪ねて俺の部屋を訪ねると、当然部屋の主である俺は留守だ。そこでカミーユさんはリオに俺の行方を尋ねて、本当の居場所を教えてもらうと言う段取りだ。


仮に後をつける人間が居たとしても問題ない。閑散としたギルド内ならともかく、騒がしい食堂での会話など、真横にでもいない限り聞こえはしないのだから。後はカミーユさんが尾行をまいてこの宿に辿り着くだけなのだが、彼女は仮にも元冒険者だ。素人同然の尾行をまくぐらい訳もない。結果、俺達は誰にも気づかれる事無くこうやって合流することが出来ていた。


「帰ってきた途端こんな事になってて驚いたんじゃないのかい?」

「ええ、流石に驚きました。まさか国全体を揺るがすような事態になってるなんて」


通りかかった給仕を呼び止めエールを注文して、カミーユさんはそう苦笑して見せた。


「それで、やっぱり気になるのはラピスちゃんが世話してるマリアさん達なんだよね?」

「はい。ギルドで匿ってくれていると聞いたんですが……」

「うん。無事だよ。グロム伯爵が監禁されたって情報を聞いてすぐ、クリークが動いてくれたからね」


カミーユはそう言いながら、届けられたエールをグイッとあおった。彼女の説明によると、クリークさんの手配で信頼出来る冒険者数人と共に、ミランダさんを俺の家へと向かわせてくれたようだ。ルビアス専属のメイドであるセピアさんはともかく、マリアさん親子はギルドの人間と面識がない。その為人当たりが良くて女性であるミランダさんが選ばれたんだそうだ。


「これはクリークとアタシ、それに今回動いてくれたミランダしか知らないことなんだけどね。クリークはこの街にいくつかの隠れ家を用意してたんだ」

「隠れ家……ですか?」

「うん。名義はギルドやクリークと関係のない別人なんだけど、払いや維持費はギルドの機密費から出てるそうだよ。アタシも今回の騒動が起きるまで知らなかったんだけどね。例えば今回みたいに誰かを匿いたい時の為に持ってたんだって」

「へぇ……流石はギルドマスターってとこですね」

「本当だよ。古株のアタシにも黙ってたんだから、大した狸だ。その分助かってるんだけどね」


辺境にある街のギルドとは言え、長年トップを務めていただけのことはある。俺には出来ない迅速で適格な動きに、感心せざるを得なかった。


「彼女達の居場所はこれに書いてあるから、後で尋ねてあげると良いよ。ところでラピスちゃんはこの後どうするつもりだい? まさか逃げ回るつもりじゃないんだろう?」


そう言って彼女はニヤリと口を歪めた。やられたらやり返す俺の性格を知っているだけに、カミーユさんは俺がこのまま他国に逃亡するなんて欠片も考えていないようだった。当然、俺もそんなつもりはない。


「もちろん反撃しますよ。でも、まずは情報収集です。マグナ王子が無事に見つかれば問題ありませんが、最悪の場合はルビアスを旗頭にして王都を奪還することも考えています」

「ルビアス様を……。でも、本人が納得するかね?」

「ルビアスは責任感の強い奴ですから。そんな状況になった国を放り出して、自分だけ安穏とした生活を送るはずがありませんよ。しばらくは黙っていても、いずれ何とかしようと立ち上がるはずです。もちろん無理強いはしませんが、黙っててもそんな流れになるでしょうね」


ルビアス本人から聞いた限りでは、彼女はマグナ王子を支持することで戦後の安定した生活を望んだようだ。でも、スティード王子が王位を手に入れた後では、それも不可能になってしまう。結局彼女が望む望まざるに関わらず、俺の予想した事態になるだろう。


「親しくしてるラピスちゃんが言うなら間違いないんだろうね。じゃあアタシはそろそろ戻るけど、くれぐれも気をつけるんだよ」

「ええ。わざわざありがとうございました。カミーユさんもお気をつけて」


エールの一杯程度で酔っ払うカミーユさんじゃない。彼女はしっかりとした足取りで扉に向かうと、振り返りもせずにそのまま夜の街へと消えていった。


「さて……。じゃ、マリアさん達に会いに行くか」


受け取ったメモを片手に立ち上がる。一応周囲を警戒してみたが、こちらを監視しているような視線は感じなかった。俺は頭の上にある三角巾を被り直し、少し時間を空けてから宿を後にした。


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