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栄光は次へと受け継がれる②

 ◇◇◇


 松村つかさは恐怖していた。

 ここ最近自分達女子バレーボールチームを襲う怪死現象は耳にしていた。

 直近ではライバルチームが犠牲になり、次は自分達だろうとも覚悟を決めていた。


 そうして始まった影達を相手にした闇の試合は、自分達が圧倒されていた。


 前年にセミプロリーグの覇者となった自分達は決して弱くない、という自負を完膚なきまでに叩きのめすほどの実力差があった。おそらく世界選手権上位チームを相手にしてもここまでではない筈なのに。


 2セットを取られてしまうと、もう勝負にならなくなった。チームメイトの闘志は根本からへし折られ、死への恐怖から身体が思うように動かなくなってしまった。もはや死に体となったコートにも容赦なくアタックは打ち込まれていく。


 ああ、一度ぐらいは日本代表選手に選ばれて、世界を舞台にした大会に出たかったなぁ、との後悔で松村は涙を流す。そんな彼女達に巨人とも思える影が強烈なサーブを打ち込もうとしたところで……、


「その試合、ちょっと待ったぁ!」


 ありえない、都合のいい展開が起こった。

 夢を見ているようだった。


 日本代表監督の宮本が日本代表チームを率いて、体育館に現れた。


 ◇◇◇


「薄暗いねぇ。大家さん、悪いんだけど照明全部付けてくれませんか?」

「いいとも。わたしとしてもこの試合、見てみたかった」


 既に幽幻ゆうなのマンションの場所は判明していたため、宮本はまず大家である宵闇よいちにコンタクトを取った。そして承諾を取ったうえで彼女の案内で体育館にやってきたのだ。


 既に霊界と化している体育館では夜な夜な女子バレーボール選手の生霊が連れてこられ、影たちと試合をさせられていた。負ければそのまま選手は霊界の住人となる、すなわち死が確定する。そんな決闘だった。


 しかし、マンションを通じれば現世から乱入することも可能なのだ。そう、今まさに宮本率いる日本代表チームが乗り込んできたように。こうして影のチームとこの国最強のチームが相対することとなったのだった。


 全ての照明が点いたことで全体があらわになった。もう少しで犠牲になるところだった対戦チームのメンバーは宮本も見覚えがあった。前年にセミプロリーグを制覇したチームのうち、日本代表に選ばれていない選手でチームは構成されていた。


「何を、やっているんですか……」


 そして、圧倒的な実力で多くの犠牲者を積み重ねてきた怨敵、影たち。正体が分かるとおぼろげだった影法師の全容が見えてくる。そしてはっきりとその姿が見えてしまい、最悪の想像が当たっていたことに宮本は怒りをあらわにする。


「何をやっているんですか、篠原先輩!」


 宮本が大声を張り上げた相手の選手、七尺二寸はボールを指の先で回した。


「何って、試合だけど? 見れば分かるでしょうよ~琴菜ちゃん」

「どうして命をかけた決闘をしているのかって聞いてんですよ! それで、何人の後輩達が犠牲になったか……!」

「何十年も前のロートルに負けるような実力不足の小娘達がいけないんじゃない?」

「……!?」


 七尺二寸はボールを上に放り投げ、宮本に向けてサーブを打ち込んだ。宮本はとっさにレシーブして上に打ち上げるが、彼女は既に現役を退いて久しい。勢いを殺しきれず、大勢を崩して後ろに転倒しかけ、谷田に支えられた。


 そんな無様な宮本を七尺二寸は冷淡な眼差しで見下ろした。それは今までに見せたことのないほどの怒り、憎しみ、そして悔しさが滲んでいた。宮本の後ろで身構える現役日本代表選手達も気圧されてしまう。


「時代に選ばれなかっただけの話よー。あたし達みたいに、ね」

「篠原先輩……やめてはくれないんですか?」

「やめさせたければ実力で示しなさい。後ろの娘達、現役日本代表選手なんでしょう? 琴菜ちゃんが育て上げた教え子達の実力、あたし達に見せてよ」

「……分かりました。必ず篠原先輩達に勝って、この世に残る未練は晴らしてもらいますからね!」


 宮本の宣言を受けた七尺二寸は嬉しそうに微笑み、自分のポジションに戻っていく。谷田達日本代表チームは円陣を組んで闘志を燃やし、七尺二寸達のチームとの勝負に挑むのだった。


 そうして始まった試合だったが、前半は七尺二寸達側がリードする。第一セットを取られ、第二セットもあわや取られかけた辺りで、日本代表チームはギアを上げた。点数差が縮んでいくものの、何とか第二セットは七尺二寸達が逃げ切った。

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