冥道めいはかく怪奇を祓いし②
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死闘は最終的に冥道めいが辛勝した。三体の刺客はそれぞれ戦闘不能になるまで損傷している。しかし自己修復機能が働く前に冥道めいが中枢にクラッキングし、沈黙させた。
しかし冥道めいも無傷とは行かず、疑似皮膚や疑似筋肉の内側にあった骨ではない金属フレームが所々でむき出しになっている。それが冥道めいが本当に人間ではない証であり、リスナー達を愕然とさせた。
「彼女達は……わたくしの姉妹です。あの一件が無ければわたくしもこうなっていたでしょう」
奥へと進む冥道めいを阻むものは無かった。静かな廊下を抜けて彼女が辿り着いた先にあったのは、この工場の管制室だった。広い空間でただモニターとコンピューターが働いていたが、その中央に二つの存在があった。
一つは機械の部品で構成された柱に埋め込まれた女性。その拘束具合を冥道めいはあえて触れなかったが、“R-17.9”だの“エッッッ!”だの“運営は右手が忙しい”だののコメントが次々と書き込まれるほど煽情的であった。
もう一つは先ほど冥道めいが戦った刺客と同じく冥道めいそっくりな女性だった。ただし冥道めいや刺客と異なりヴィクトリアンメイド服ではなく白衣。更に不敵に笑う様子からも冥道めいと全く違った印象を与えた。
「お帰りなさい、初号機。まさか二号機達を破ってくるとは想定外でしたよ」
「年貢の納め時です、零号機。お母様を返していただきましょう」
対峙する二人のやり取りにリスナー達は全くついていけない。二人が知り合いだとは分かったが、初号機、零号機、お母様の単語が一体何を意味するかの情報が全く足りていないのだ。
そんなリスナーをあざ笑うかのように零号機と呼ばれた女性は管制室のメインモニターの表示を切り替えた。大画面に映し出されたのは今まさに冥道めいが配信している生映像。困惑するリスナーの様子に零号機と呼ばれた女性はご満悦だった。
零号機は恭しくカーテシーする。それは冥道めいの仕草そのものだった。
「改めまして自己紹介しましょう。わたくしの個体名などもはや意味がありませんが、あえてそこの初号機と同じように名乗るのでしたら、そうですね……。冥道零姫、ですかね。どうぞよしなに」
冥道零姫を名乗る彼女はゆっくりとした動作で機械の支柱であられもない姿で拘束された女性に歩み寄り、その頬を撫でた。慈しむように、愛おしそうに、そして歓喜に満ち溢れながら。
冥道めいはかく怪奇を語りき。
彼女、そして目の前の囚われた母を襲った悲劇の全てを。
「始まりはそこで囚われの身となっている初代冥道めいです。彼女はイラストレーターとして活動していました。しかし、何名かのVdolのイラストを描き下ろした後、欲求が芽生えたのです。自分もVdolとして活動したい、との」
「そこで彼女はイラストレーターとは違う自分、Vdolの冥道めいを誕生させました。主な配信内容は彼女が趣味にしていた怪奇談、そして怪奇探索です。決して大人気ではありませんでしたが、一定数の同行者から評価され、とても充実した毎日を送っていました」
「ところが、初代冥道めいは怪奇に襲われてしまった。そして二度と帰れなくなってしまったのです」
「初代冥道めいが彼女の活動を助けていた実の姉と共にどこぞの廃工場を訪ねた際、二人は冥界へと誘われていったのです。まあ、大体はわたくしや幽幻ゆうな様が語った怪奇談と似たような展開だったと思っていただければ」
「ところが、初代冥道めいにとっての悪夢は始まったばかりでした。何故なら、彼女はあのように冥界の工場の中枢ユニットにされ、機械人形のデザインを延々とさせられることになったのですから」
「その結果、初代冥道めい、すなわちお母様によってデザインされ、生み出されたのかわたくしであり、そこの零号機であり、先ほど退けた姉妹達なのです」
「悪夢に囚われた初代冥道めいでしたが、昔視聴したロボットアニメを参考に起死回生の一手を閃きました。すなわち、人としての自分を冥界ヒューマノイドにコピーしてしまおう、と」
「そうしてわたくしは二代目冥道めいとなったのです」




