生者を喰らう人形(表)
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「皆さん、こんばんは。冥道めいと申します。皆寝静まったこの時間、同行者の方々とひとときを共有し、深い話題や興味深いことを共に探求していきましょう」
今夜もまた冥道めいの配信が始まった。前回のリアル怪奇体験配信は同行者と呼ばれるリスナー一同の心に深く刻み込まれることとなったが、しかし視聴を止めたリスナーはさほど多くなかった。逆に話題を呼んで視聴者が多くなる結果に結びつき、同接数は過去最大となっている。
「さて、今回も幽幻ゆうな様が住んでいらっしゃるマンションの探索を配信してまいりたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします」
慇懃にお辞儀をした冥道めいはエレベーターを操作して目的の階へと向かう。なお、これまでの配信で冥道めいは住人と遭遇したことがない。広いロビーでも充実した施設とやらでも、どの居住階でも、だ。それがなおさら不気味さに拍車をかけていた。
中にはたちの悪い冗談だ、捏造の映像だ、と非難の声もあがったが、冥道めいはそれをあえて否定しなかった。嘘偽りのない配信だと宣言はしたもののそれを証明したところで信じるか否かは受け取り側次第。最終的な判断は委ねる、としたのだ。
「本日は玩具屋に行く予定です。昔は商店街には必ず一軒ぐらいあったと記録されていますが、今はそうでもありませんか。インターネットで購入する以外ならデパートや家電量販店に行くぐらいでしょうか。であれば、今どき玩具特化のお店は珍しいですね」
エレベーターが止まり、冥道めいが降りた先には――。
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町の片隅にある小さなおもちゃ屋は、古びた外観と古典的なおもちゃで知られていた。しかし、そのおもちゃ屋には不思議な噂が立ち込めていた。地元の子供たちは、夜になるとおもちゃ屋から奇妙な音や幽霊の姿が見えると言い伝えていた。
ある日、興味本位でそのおもちゃ屋を訪れた若者のグループがいた。彼らは夜のおもちゃ屋を探検することを決意し、夕暮れ時にその場所に集まった。おもちゃ屋に入ると、古びたおもちゃが棚にずらりと並び、薄暗い店内には幽霊のような姿が見え隠れしているような気配が漂っていた。
若者たちは怖気づきながらも探検を続け、奥の方にある一室で不思議なおもちゃを発見した。それは古びた箱に入った古代のボードゲームだった。箱には「幽霊の遊び場」という文字が刻まれており、若者たちは興味をそそられてそれを取り出した。
ボードゲームを始めると、部屋の雰囲気が一変した。突然、部屋中に幽霊たちの姿が現れ、若者たちを取り囲んで踊り始めたのだ。幽霊たちは友好的な様子であり、若者たちは彼らと共に遊ぶことになった。
しかし、時間が経つにつれて、若者たちは自分たちが幽霊たちの世界に引き込まれていることに気付いた。彼らはおもちゃ屋から出ようとしたが、どうやっても出口を見つけることができない。そして、幽霊たちは次第に襲ってくるようになり、若者たちは恐怖に打ち震えた。
幽霊たちの攻撃をかわしながら、若者たちはボードゲームを進めていくうちに、幽霊たちの悲しい過去や彼らが未練を残していることを知ることになった。彼らは幽霊たちを救う方法を見つけるために奮闘し、幽霊たちも彼らを助けるために力を貸してくれた。
最終的に、若者たちは幽霊たちの未練を晴らし、幽霊たちは安らかに成仏することができた。そして、おもちゃ屋は再び平穏な場所となり、町の人々はその幽霊たちとの交流を忘れないでいた。
◇◇◇
「陳列されている玩具は古いものから新しいものまで結構揃っていますね。こちらは四年前に放送されていたアニメのヒーローの変身アイテムですが、一方でこちらは今放送されている特撮怪獣のソフビ人形ですし」
薄暗い店内は田舎の寂れた玩具屋を彷彿とさせた。パッケージが色落ちしているものも並んでおり、見本として置かれていた玩具はかなり使い古されていた。中には既に絶版したカードゲームのパックやプラモデルも置かれていた。
店の奥の方には女の子用の人形やぬいぐるみが並んでいた。その横では魔法少女らしきキャラクターの衣装や変身グッズが陳列されており、冥道めいはそのうちの一つを手にする。
「これ、ずっと昔に放送されていた魔法少女ものに登場した終盤の変身アイテムですね。愛と勇気を最大まで高めて使うことで究極形態になる、という代物で、その分豪華で高価だったと記録しています」
冥道めいはまだ購入していないにもかかわらず、遠慮なくパッケージと包装を破って中から変身アイテムのステッキ型おもちゃを取り出した。そして隣にあった通常形態への変身アイテムも同じように取り出す。
ステッキを両手に持ち、冥道めいはポーズを取った。多くのリスナーからは困惑の声が上がったが、その魔法少女もののアニメを見ていた者から、最終話の変身シーンの再現だ、との驚きと感動が入り混じったコメントがあがった。
「お分かりになる方がいて嬉しいですよ。これらはわたくしが所有していない限定版のようですし、記念に購入していきますか」
冥道めいはステッキ2つを両腕に抱えながら無人のレジに向かい、手のひらをかざしてタッチ決済を済ませ、店の出口へと向かった。到着したエレベータ-に乗った冥道めいが振り返っても店の中は静かなままだった。不気味なほどに。
「残念。ここはわたくしでは反応しないようです。ヒューマノイドのわたくしでは同類とみなされるのでしょうかね?」
そう冥道めいは意味深な発言をし、そのフロアを後にした。




