奇怪で気味の悪い新聞(裏)
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新聞社の社内にはとある恐ろしい噂話が広まっていた。それはある新聞記者の体験談で、彼の名前は岩崎悠太(仮名)といった。彼は真実の記事を追い求め、熱心に調査を行うことで知られていたが、ある日、彼は恐ろしい出来事に遭遇することになったのだった。
ある夜、岩崎悠太は取材先から帰宅する途中、ふとしたきっかけで古びた古本屋を見つけた。好奇心旺盛な岩崎は店内を覗き込むと、奥に並ぶ古びた新聞が目に入った。そのなかで一冊が特に目を引いた。見覚えのある日付、しかも未来の日付が記されているではないか。
岩崎は興味津々でその謎めいた新聞を手に取り、店主に
「これはいくらですか?」
と尋ねると、店主は微笑みながら
「特別な価格で提供しますよ。ただし、後でこちらに対価を払っていただければと」
と言った。
その夜、岩崎悠太はその新聞を読み始めた。記事には未来の出来事が綴られており、その正確さに驚きを感じながらも、一つの記事を目にして恐怖を抱えることとなった。何故なら、岩崎悠太の死がその新聞に記されていたのだ。
最初は信じられないと思いつつも、新聞の予知が的中することが続き、岩崎悠太は次第に恐怖に襲われるようになった。友人や同僚に相談しても信じてもらえず、岩崎悠太はますます孤独感に包まれていった。
ある日、新聞には彼の最期の瞬間が掲載された。それはさながら死刑執行日を言い渡されたようで、その日が近づくにつれて彼は狂気に囚われるようになり、終焉の未来を変えようと必死になった。しかし、どれだけ努力しても、新聞に書かれた運命から逃れることはできなかった。
彼は自分の手で未来を変えることはできないのかと絶望に打ちひしがれた。何度も新聞を読み返すが、書かれていることが変わることはなく、次第に岩崎の心は闇に取り込まれていった。
最期の日が訪れ、岩崎悠太は新聞に書かれた通りに死んでしまった。
新聞社の同僚たちは驚きと哀悼の意を込めて彼の死を報じたが、岩崎悠太の死の真相は知る者は誰もいなかった。
その後、新聞社の社内では岩崎悠太の死をめぐる都市伝説が語り継がれ、新聞を手にすることで破滅の未来が襲いかかるという噂が立ち始めた。社員たちは岩崎悠太の死を忘れることができず、新聞に対して畏怖の念を抱くようになった。岩崎の死後も、その新聞は誰もが敬遠し、一切触れないようになった。
そして、その新聞は誰もが忘れ去りたくても忘れられない、恐怖と死の影を新聞社に投げかけ続けた。
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「たまに自分が犠牲者になったパターンの投稿があるけどさ、どういう意図なんだろうね。自分のような犠牲者を出さないための警告なのかな。それとも失敗談を自慢話のように語りたいのかな」
んー、と唸りながら幽幻ゆうなは新聞の山からまた別の束を取り出した。今度はカメラに近づけていないのでリスナーからは細部まで分からないが、後日有志が解析したところ、少し前に幽幻ゆうなが見せてきたあの奇怪な新聞と同種と判明した。
「実はこれもゆうなに関する情報が書かれてる警告だったりしてー。あははっ」
笑いながらの発言に多くのリスナーはジョークと受け止め、何名かが死亡フラグで草だと茶化したり本気で信じた体でエールを送ったりと、真剣に受け止める者は誰一人としていなかった。
“\50,000 @冥道めい
:心配いりません。それにはそんなことは書かれていませんよ”
そのような赤スパチャが届けられるまでは。
「……へ?」
“@冥道めい:AI画像生成時に元にした記事があるみたいですね”
“@冥道めい:逆方向にフィルターをかけ直したところ幽幻ゆうな様については書かれていませんでしたよ”
“@冥道めい:ただその発行者様は元記事もご自分で書かれたようで、記事の内容はなかなか興味深かったです”
Vdolの配信中に別のVdolがコメントすることやスパチャを送ることはそう珍しくない。企業Vdolであれば仲間ないしは同僚間で盛り上げようと結束したり、純粋に推しに頑張ってもらいたいために応援する場合もある。
冥道めい、彼女もまた怪奇を取り扱うVdolである。
そんな同志とも言うべきVdolからの赤スパチャ。驚かない方が無理というものだ。
「えぇぇっ!? 冥道めいさん!? ほ、本物ですか!?」
これまでに無いほど幽幻ゆうなは大声をあげる。混乱する彼女は次第にわくわくし始めた。まさかのゲリラコラボのような形になったが、この際冥道めいとは大いに語り合いたいという希望が湧いてきたのだ。
しかし無情かな。冥道めいが狙ったのか偶然か、十中八九前者だろうが、既に時刻は午前零時が迫ってきている。配信終了時間まで残り僅かだ。よほどの事情でも無い限りはこのスタイルは守りたい、そのこだわりがとてももどかしい。
「くぅぅっ! 今度コラボしましょう! 絶対に、ぜーったいに!」
“@冥道めい:もちろんです。共に深く語り合いましょう”
「やったぁぁ! 約束ですよ!」
そんなサプライズがありながらもこの日の配信は終了となった。
リスナーは大いに湧き、幽幻ゆうなは喜びのあまりに万歳をして。
一方の冥道めいは画面の向こうの相手を最後まで観察し続けた。
タブレットを見つめる彼女の瞳は配信の一部始終を見逃さないかように全く動かなかった。




