黄の恋色(3)
服を選び終えた後、僕はいつ昇の場所へと戻ろうかと悩んでいた。
なぜ簡単に戻れないかと言うと、ひとつは昇が僕同様女の子に服を選んでもらっているから。
二つ目は、隣にいるこの子が寂しそうに見えたから。
昇の服選びが終われば、全ては一件落着なんだけど、なかなか終わりそうにもない。
女の子は楽しそうに選んでいるが、昇は趣味悪そうな服を着せられて困っている。
……助けようとは思わないけど。
「え、えっと……その」
二人を見ていたら、ふと隣から声が聞こえてきた。
どうしたんだろう、と思いその子のほうをむく。
すると、いきなり彼女は言い出した。
「あの、ファンクラブ作っていいですか?」
「ふぁ、ファン?」
ファンってあの、パソコンとかについている扇風機みたいなの?
「そう、ファンクラブ!」
いや、違うと思う。彼女はきっと、昇とかに作られているファンクラブのことが言いたいに違いない。
僕がそう思った瞬間、彼女はニッコリと笑った。
これは確定だ。しかし、これを本気にしてはいけない。
きっと、この場を和ませようとする、この子の思いやりなのだ。
僕は場の雰囲気を悪くさせまいと、小さく頷いた。
その行為が、後に招く面倒なことになろうとは思わずに。
買い物終了後、することも無くなって解散という形になった。
というよりも、赤原とその彼女がなんだか言い争いになって解散になったといったほうがいいのだろうか。
好き同士と言っているのに、どうして喧嘩なんてするんだろう?
不思議だ。
二日後、まさかの事態が起きた。
昼食時間になると、昇がちょっと提案があるといって歩き始めた。もちろん、いい予感はしない。だけど、馬鹿な赤原は昇のその言葉に騙されて、ほいほいと後ろを付いていった。
一人になるのはさすがに寂しい。
仕方が無くついていくと、そこには先日見かけた女の子集団が。
赤原は嫌な顔一つせず、赤原の彼女の弁当をつついた。
僕はと言うと、また前のあの子に何かしら話しかけられている。
私のお弁当食べる? とか色々。
その中でも衝撃だったのは、その子がお弁当を作ってあげるといってきて、僕が断ったときの言葉。
「私、黄士君のファンクラブだよ?」
驚いた。あの言葉を本気にしていなかった僕は、その言葉の意味を一瞬理解できなかった。
でも、感じる。
彼女の言葉から真実という文字が。
ファンクラブなんてものは、僕に必要ない……。
なんで、この子はこうやって追い込むのだろうか。それは恋をしているからなの? どうなの?
恋なんて理想の世界の生き物だ。
感情を上手く支えられていないだけ。
一時的なものなのだから、ファンクラブなんて作っても仕方が無いだろう?
理由が分からない。
彼女はいったい、何がしたいのだろうか。
その日の夜、僕は考えすぎて眠りにつけなかった。
ずっと、頭の中にいるのはあの子。
名前も知らない、あの子だ。
「どうして……?」
ベットの上で一人、僕は天井を眺めていた。
そして、次の日……
「なんか頭痛い」
風邪をひいた。
親は部屋に来て、僕の容態を聞いてくる。
大丈夫だと答えるしかないが、体はその言葉とは逆の行動を起こした。
「だ、大丈夫だから」
あまり母親には迷惑をかけたくない。もし、この風邪を遷してしまっては大変だから。
「あまり無理しないで、今日は学校を休みなさいね?」
僕はその優しい言葉に、頷くと部屋から母は出ていった。
ベッドへと寝転がると、僕はすぐに夢の世界へと旅立っていった。
目が覚めると、僕の体には汗がびっしょりと張り付いていた。
ぐっすり眠っていたのだろう、大分体も楽になった気がする。時間が気になって、ベッドの横にある時計に目をやった。
もう、学校が終わった時間か。
そういえば、昨日あの子は弁当を作ってきてくれるといっていたが、悪いことをしたかな。
…って、なんで今、僕はあの子のことを思ったんだ?
自分の気持ちが見えてこないこの怖さから僕は逃げ出したくなっていた。
そして、もうすぐ事件は起きる。




