53・おっさんは感じない
キャリーが言う通り、まずは行ってみないと分からない。
すでに王城に残っていた召喚者達が向かったというなら、自分達だって活躍出来るところを見せたいと思うもの。
「まず、10日ほど掛けて最寄りの拠点へ向かいましょう。戦況の悪い開拓拠点へ直接向う道もありますが、途中は本当に何もないのでお勧めしません。テントがあっても不安です」
そんなエミリーの説明によって、目的地は決まる。
東方へ向うにあたり、テントを追加購入した訳だが、誰がどちらのテントを使うかで揉めた。主にキャリーがサンポを警戒し、コータを男用テントから引き抜こうとした。
だが、キャリーの奮闘むなしく
「で?ダイキのテントにエミリーと俺、ヘタをそちらへというのか?コータも男だろう?ヘタがダイキのテントなら、俺がそちらだ」
と、サンポが言い出した事から男女で別れる案に落ち着く事になった。
数日東進し、コータもサンポに慣れてきた頃、街道というより単に草原を踏みならしただけの道筋から少し外れた茂みに人影を確認したおっさん。
「あの茂みに人が居るな。十人くらいだろう」
そちらを確認したサンポが口を開く
「匂うな」
その言葉に驚き、おっさんは自分の腕やワキを確認する。
「ダイキじゃない。ギルドの石鹸はなかなかの優れものだ。せっかくの漢のニオイを消している」
サンポはそう言うが、おっさんとコータにとっての悩みはサンポである。
おっさんが匂わないと言いながら、なぜかサンポのフェロモンは消せていないのだから、まるで説得力がない。
だが、エミリーも魔物対策でギルドが販売する石鹸にはニオイ消し効果があると説明していた。
確かに、エミリーには効果があると感じていたおっさんである。
「盗賊だ」
サンポがそう説明したが、おっさんならずとも驚きであった。
「街道は定期的に冒険者が通るので、その都度討伐されているはずです。それに、東方で盗賊は成り立ちませんよ」
そう、エミリーが疑問を呈する。
「そりゃあ、知ってるさ。けど、アレは真っ当な冒険者には見えないな」
まだおっさんとサンポにしか詳細は視認出来ない距離のため、エミリーには納得出来ない話であった。
「とりあえず、気付いていないフリをして進むか」
サンポの言葉で茂みを警戒しながらも、それまでのペースを保って街道を進み続ける。
「出てきたな」
茂みから3人、冒険者が姿を現した。だが、さらに5人は隠れたままである事をおっさんは確認している。
「冒険者じゃないだろう?」
サンポの言葉に肯定するおっさん。
そう身なりが悪い訳では無い。多少薄汚れているのは、東方からの帰りならば不思議でもないと思うおっさんだが、だからと言って、ワザワザ規模を小さく見せる意味は見いだせなかった。
本当に冒険者パーティならば、全員が姿を見せれば良い。熱感知の状態から確認出来た人影に怪我や病気と言った気配はなく、しっかりした規律に従って動けているのだから。
「お~い、東征村から来たのか?」
薄汚れている以外、何の変哲もない冒険者パーティがそう声を掛けてきた。
「どうかしましたか?」
先頭を行くエミリーが自然な形で尋ね返す。
「俺たち、東征村へ素材を運んでたんだけどさ、一緒に運んでたパーティと連絡員のヤツが魔物に襲われて動けないんだ」
と、なるほど、今のタイミングならばさもありなんという話をする相手。
「それは大変ですね。しかし、救援を呼びに行った人には出会いませんでしたが?」
さも、何も知らない風に疑問を口にするエミリー。
盗賊なんて居ないと口にしたエミリーだが、出発前にはおっさん達に盗賊対策のレクチャーはしっかり行っている。
南や北の村へ向う街道とは違い、王国が管理している訳では無いため、冒険者自らが警備討伐する必要がある。
確かに可能性は低いが、過去に例はいくらでもあり、食い詰めた冒険者が拠点周辺や開拓村周辺で盗賊行為に及んで食いつなぐ事はあり得ると力説していた。
しかし、それはあくまで魔物討伐に失敗した時の食い扶持の為に村人から盗んだり、下級冒険者を脅して獲物を奪うという、何処にでもある話であり、拠点や村を離れて盗賊で生計を立てるなど、冒険者の収入や魔物の危険を考えれば割に合わない。
発覚や処罰を恐れて逃げ出そうにも逃げる場所すらないのだから、一時的な横取りならともかく、死罪となる様な組織的な盗賊行為は割に合わない。
茂みで数日無事に過ごせるウデがあるなら、盗賊よりも冒険者の方が安定した収入が見込めるのだから。
「それがよ、俺たちしか動けねぇんだ。薬持ってないか?僧侶が居たらなお助かるんだが」
機微な動きで茂みを移動する人影のドコにケガ人がいるんだとおっさんは思う。
すでにキャリーにも複数の人影が見えている距離であり、ウソであることは明白だった。
「ついでに誰か救援呼びに行ってくんね?」
こちらの戦力を分散する様に騙る盗賊。
「わかりました」
エミリーは素直に応じ、サンポとヘタへと伝令を頼む。
「え?その可愛い子ちゃんと美女は・・・」
いきなり馬脚を現す盗賊に、疑問を呈すエミリー
「なぜです?彼女達がパーティで一番足が速いんですよ?」
不審に思わせない様にそう口にするが、疑わない盗賊は重ねて要求してくる
「いや、まあ、軽装だもんな?でもさ、俺達が襲われたんだ。伝令に出すなら、重装なおっさんにした方が良くないか?」
演技が下手なのだろう。エミリーからレクチャーを受けていなくとも、不審でしかない要求である。
「そうですね。では、ダイキさん、ヘタ、お願いします」
こうして、おっさんはヘタを連れ、その場を離れる事になった。
「本当に大丈夫ですか?」
ある程度離れたところでヘタが小声で問うが、おっさんはニッコリ微笑むだけ。
急ぎの伝令という事なので、本気で離れたふたり。
普通ならば弓の射程外になる距離を離れたところで向き直り、すかさず弓を構えた。
「この距離なら当てられるかな?」
おっさんがヘタにそう言えば、答えは口ではなく矢で返してきた。
茂みの影からエミリー達を狙う弓士へと矢が飛ぶ。
おっさんも茂みに潜む人影へと連続して矢を放つ。もちろん誘導矢なので多少動かれても問題はない。
「さて、行こうか」
人を射たが、あまり罪悪感や嫌悪感がないおっさん。
「はい」
ヘタはもはや当然の様に答えてエミリー達のところへ向かえば、キャリーの戦輪が飛び交うところを目撃した。
「誰が価値無しだ、っざけんな!」
何やら叫ぶキャリーの声まで聞こえてきた。




