34.最後の戦い1.
「私と一緒に死ぬというのか? ジャレッドに戦いを任せて、なにもしようとしない君がかい?」
「そこは適材適所ということで。僕はもともと強い人間ではないのです。しかし、あなたをこの身に封じ込めるくらいはできる。これでようやくジャレッドくんに謝罪できる」
「……なるほど。巻き込んだことへ罪悪感でも抱いていたのかな? それとも君の養い子がオリヴィエを生贄にしたことが関係あるのかな?」
「どちらもですよ。ずっと償う方法を考えていたんですが、ようやく叶いそうだ」
魔方陣が幾重にも展開していく。
始祖は動けない。
止める人間もいない。
ジャレッドはカサンドラを探す。
彼女はラスムスを大切に思っていたはずだ。
自殺にも等しい彼の暴挙を黙って見ているはずがない。
そう思い彼女を見つけると、カサンドラは涙をボロボロ流しながらすべてを受け入れているように動こうとしない。
「――ジャレッド君。僕の体はすでにボロボロだ。始祖様を安らかにすることだけを目的に生きてきたんだ。それも限界に近く、他人から魔力を奪わなければ生き続けられない。そう長くないうちに朽ち果てる身ではあったけど、君のおかげで悲願が叶う。ありがとう」
「そうか、君は魔人化しているんだね。しかし、不完全だ。本来なら魔力を取り込むだけでいいのに、君はそれができていない。人を食ったね?」
「一応、生者は口にしていませんよ」
「醜く生きながらえてでも私を滅したいのかい?」
「見解の相違ですね、僕はただあなたを楽にしてあげたいだけです。もっとも、それ以外に目的も理由もなく流れるように生きてきてしまいましたが……最近になって、大切な人たちができました。彼らのためにも、僕はあなたと共に逝きましょう」
拘束された始祖をラスムスが掴むと、彼女をも魔方陣の光が包んでいく。
「どうせあなたを殺せば、僕も自動的に死ぬ運命です。一緒に死んでも、なにも困らない。いいや、むしろオリヴィエ君を助けられるなら、そちらのほうが断然いい」
「……ラスムス!」
疲弊した体に鞭打って、ジャレッドは叫んだ。
そんな彼に、ラスムスは優しく微笑んで、光に包まれて消えた。
「――っ」
目が眩む閃光に誰もが目を庇う。
しばらくして、拘束魔術が砕ける音が響く。
「……やってくれたね、ラスムス・ローウッド。まあいいさ、私の目的は未だ変わらない。むしろ、やりやすくなったともいえるかな」
光が治まると、そこには地面に倒れるオリヴィエと、消えたラスムスの代わりに始祖ユナ・ミハラサキが立っていた。
ラスムスの体に始祖が移ったのだと、誰もが理解したのだった。
「さあジャレッド。第二ラウンドだ。オリヴィエにはなにもしないことを約束しよう。これでもう憂いなく君は戦えるはずだ!」
始祖はそう言うと、ジャレッドに向かって一直線に向かってきた。
立ち上がり、身構えた少年は、仲間たちに視線を送る。
視線を受けたプファイルとルザーが意識のないオリヴィエを二人掛かりで抱え、戦いの余波を受けない場所まで移動してくれた。
始祖は言葉通り、彼らになにひとつしなかった。
「さあ戦おう」
「……始祖、あんた」
「戦う理由がないとは言わせない。私を放置しておくことはできないだろう? それに、いずれラスムスの体は私に耐えることができず崩壊する。そのとき、新しい器は誰になる?」
「――っ、手を出さないじゃないのか?」
「今だけだよ。私からラスムスの体を捨てることはできないからね。始祖などと言われているが、ルールには従わないといけないんだ」
ジャレッドは拳を固く握った。
そんな少年に、始祖は笑みを深め、どこか期待した視線を向けた。
「いい子だ。君は愛する者のために戦えばいい。私は、私自身の目的のために戦おう」
「……いいだろう。もう遠慮はしない。するつもりもない」
「それでいいよ。決着をつけよう。勝者には生を、敗者には死を」
体内と大地から供給されるすべての魔力を身体能力に変換する。
今までの比ではないほど力を高めていく。
すでに肉体がすでに悲鳴を上げているが、知ったことではない。
戦いを終わらせるために、取り戻したオリヴィエと共に歩み続けるために、ジャレッドは戦うのだ。
「いくぞ、始祖ユナ・ミハラサキ」
「おいで、ジャレッド・マーフィー」
二人は同時に、地面を蹴った。
こうして最後の戦いが始まったのだった。




