20.クリスタとラーズ2.
「……え?」
クリスタは、自分がなにを言われたのか理解できなかった。
ぽかん、とする少女にラーズは少し照れたように咳払いすると、彼女の様子を察したのか顔を見てもう一度口を開いた。
「そなたを愛している。どうか、私の妻になってほしい」
「……うそ」
「嘘ではないぞ。戸惑うはわかる。今まで友として接していたので、驚きもしただろう。しかし、私のこの気持ちに嘘偽りはないぞ」
「どうして」
「恥ずかしい話ではあるが、私の一目惚れだ。入学式でクリスタと出会って以来、私はずっとそなたを愛しく想い続けていたのだ」
唖然とする少女に、ラーズは苦笑した。
彼自身も突然すぎる告白だと自覚しているのだ。
それでも、今ここで言わなければ、クリスタを失うかもしれないという予感から素直になっているだけ。
「私ね」
「うん? なんでも言って欲しい」
「ラーズ君に好きって言ってもらえるような人間じゃないの」
「ふむ……だが、私の気持ちは私が決める。迷惑だというのなら押し付けるつもりもない」
「違う! 迷惑なわけがない! そうじゃなくて! 私ね、ラーズ君にもジャレッド君にも、大切な友達に嘘をずっとついていたんだよ!」
「そんなことなら知っている。実を言うと、クリスタになにか事情があることはすぐにわかっていた。だが、私たちの友情にそれは関係ないとも。おそらくジャレッドも同じだったはずだ」
「ううん、隠し事って簡単なことじゃないの。私、始祖の子孫なの」
出自を告げた少女をラーズは力一杯抱きしめた。
その一言を言うのに、どれだけの勇気が必要だったのか、察するに余りあった。
「あとね、ラーズ君たちよりもずっと年上なんだよ」
「よく言ってくれた。だが、そのようなことは些細な問題だ。そんなことよりも、一番気になることがある」
ラーズはクリスタを抱きしめたまま、問いかける。
「そなたは私を好いてくれているか?」
「それは」
「私が気になっているのはそれだけだ。どうか嘘偽りなく答えて欲しい」
王子の真摯な問いかけに、クリスタ頷いた。
「私も、ずっとラーズ君のことを好きだった」
「そうか! ならば、あとのことなど瑣末な問題だ!」
「でも、私、ジャレッド君とオリヴィエ様に酷いことを」
「そのあたりはすべてプファイルから聞いている。辛い選択だっただろう、だが、理由があるはずだ。私は、クリスタが理由もなくそのようなことをしない人間だと信じている」
クリスタがオリヴィエを連れ去ったわけではない。
オリヴィエは自分の意思でカサンドラのもとを訪れている。
その結果、望まない形になってしまったが、クリスタだけのせいではない。
しかし、クリスタ自身は、祖先である始祖を復活させようとしたのがよく知っているカサンドラであることにも責任を感じている。
もし、カサンドラの近くに兄と自分がいなければ、ジャレッドもオリヴィエも巻き込まれることはなかったと考えているからだ。
「すべて私に話してくれ、クリスタを支えたい。そなたが苦しんでいるのなら、その苦しみを共に背負いたい」
「……ラーズ君」
クリスタはボロボロと涙をこぼした。
カサンドラの計画に協力すると決めたときから、いつか後悔するとわかっていた。
その予感は正しく、後悔は苦しいものだった。
しかし、クリスタは愛する人を守るため、他に選択肢はなかった。
きっと、苦しみながらも他の選択は取らなかっただろう。
「愛する者のためなら私はどんなことでもしよう。さあ、話して欲しい。そなたの抱えているものをすべて」
愛する少年の問いかけに、少女は覚悟を決めて頷いた。
愛していると言ってくれたラーズに応えるためにも、精一杯の勇気を振り絞ってクリスタは己の事情をすべて語るのだった。




