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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
十章

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19.クリスタとラーズ1.




 クリスタ・オーケンは当てもなく王都を彷徨い、廃教会に行き着いていた。


「……私のせいでオリヴィエ様が……どうしよう、ジャレッド君にどう謝ればいいんだろ」


 超常的な力を持ちながら、想い人を脅しの材料にされたせいで、カサンドラ・ハーゲンドルフに従っていた。

 その結果、友人から婚約者を奪う結果となってしまったのだ。


 カサンドラの企みが失敗に終わったことは遠目から見ていた。

 遠い先祖である始祖の復活も、すべてこの目で目にしていた。

 始祖にも匹敵すると謳われる力を持つ少女が、あの場に姿を見せなかったのは、ひとえに友人の前に立てなかったから。


 なにを言われるのか恐れた。

 恨み言を放たれるのか、怒声をぶつけられるのか、それとも怒りに身を任せて襲いかかってくるのか、そのすべてに怯えて動けずにいた。


 クリスタの想い人であるラーズも、大切な友人であるジャレッドも、同じく出会った。

 兄が普通の生活を願い学園に入れてくれたが、他人とはなにもかも違うため、きっと退屈な日々なると予感していた。

 しかし、現実は違った。


 二人の友人のおかげで学園生活は楽しく、充実していた。

 強いて言うならば、友人二人があまり学園に足を運ばないことくらいだった。しかし、きっかけさえできてしまえば変わることができる。

 ジャレッドとラーズを介し、クラスメイトと関わっていき、多くの友人に恵まれた。


「私って最低だ。友達二人を天秤にかけて、ジャレッド君を裏切っちゃった」


 しかし、もう二度と二人の友人と学園生活を送ることはないだろう。

 それだけのことをしてしまった自覚はある。

 クリスタは、信じてもいない神に、祈った。


 ――お願いです。どうか、ジャレッド君にオリヴィエ様を取り戻させてください!


 願いが叶うなら、どんな代償だって払う。

 もし時を戻せるのなら、この結果を知っていたら、絶対に違う選択をしていた。


 涙を流して後悔する少女の耳、誰かの足とが近づいてきた。

 廃教会に足を踏み入れる物好きはいないと思っていた。

 誰だろうと泣いているところを見られたくなかった少女は、気配を消そうとして、驚きやめた。


「――よかった。ようやく見つけたぞ、クリスタ」


 そこには、会いたかった少年がいた。

 学園に入学してから共にいた二人の友人のひとり。

 大切な友達であると同時に、初めて恋心を抱いた相手。


 ラーズ――いいや違う、ラルフ・W・フェアリーガー。

 このウェザード王国第一王子だった。


「どうして?」

「ふっ、喜んでくれていいのだぞ。私に新しい友ができたのだ。名を、プファイルと言って、元暗殺組織の人間ではあるが、気のいい人物だ」

「……もしかして」

「うむ。クリスタを見つけてくれたのも、この場への護衛もすべてその者が請け負ってくれた。感謝してもしきれないな」


 廃教会の外に、佇む気配を感じとった。

 感じたことのある気配はプファイルのものだろう。


「どうして」

「ジャレッドがあの者に頼んでくれたのだ。クリスタが苦しんでいる、と」

「……うそ」


 己の耳を疑った。

 この場にラーズが来てくれたのも信じられないが、そのきっかけがジャレッドだなんていっそう理解できない。

 あれだけのことをした自分を気にかける理由など、まるでないのだから。


「おおよその話はプファイルから聞いた。我が心の友は辛い思いをしたのだが。その場にいなかったことが悔やまれる」


 ラーズが知ったのは、すべてが終わったあとだった。


「クリスタが苦しんでいたときにも私はそばにいられなかった。なにが友だ……私は自分がこれほど役立たずだと思ったことはない。すまなかった」

「……ラーズ君が謝る必要なんてっ、全部っ、私がっ、悪かったのぉっ」


 ついに堪えられなくて涙がぼろぼろこぼれ落ちた。

 ラーズはクリスタのそばに膝をつき、そっと抱きしめてくれた。


「私はそなたの力になるためにきた。友のために――いいや、違う。今は取り繕うのをやめよう。大切に思っているクリスタのために、ここにきたのだ」

「……ありがとう、ラーズ君」

「私はずっとクリスタを支えたい。ずっとそばにいてほしい。このようなときに、こんなことを言うのは卑怯かもしれないが――私はクリスタ・オーケンのことを愛している。どうか、結婚してほしい」





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