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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
十章

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13.ジャレッドとカサンドラ1.




 屋敷の食堂で、ジャレッド・マーフィーはカサンドラ・ハーゲンドルフと向かい合って座っていた。

 この屋敷の中にいるのは、四人だけ。ここにいる二人と、別の部屋で休んでいるデニス・ベックマン。そしてその看病をさせているラスムス・ローウッドしかいない。

 唯一、屋敷で待っていてくれたイェニー・ダウムも無理をいって実家に戻した。


「さあ、話せ。あんたがなにを企んで、始祖なんかを復活させやがったのか。すべてだ」

「…………」

「デニスさんに懇願されたから、俺はお前を殺しはしない。だけど、ひとつでも嘘をついてみろ、俺はなにをするかわからない」

「……いいでしょう。こうなったらすべてお話ししますわ」

「さっさと話しやがれ」


 頷くカサンドラに、ジャレッドは唾を吐き捨てんばかりに言い放つ。正直に言ってしまえば、こうして向かい合っているのだって腹立たしい。すべてこの女のせいだ。オリヴィエが犠牲になったのもカサンドラのせいだと思うだでけ、今すぐ首を絞めたくなる。


 必死で我慢しているのは、自分の窮地に駆けつけてくれたデニスが、朦朧とした意識の中で懇願したからに過ぎない。彼がカサンドラをどう思っているのかは知った。婚約者だったと言うことも。ゆえに、衝動を押さえ込んで堪えている。


「わたくしが、代々始祖様にお仕えしていた巫女の末裔だということはもうご存知よね」

「いちいち聞くな、続けろ」

「先祖代々いろいろなことがあったことは伝えてもしかたがないことだから省きますわ。わたくしは子供の頃、母を失ったときにラスムス様から自分に流れる血の意味をしりました。巫女の血族であること、始祖様の力を受けついでいること、きっと母はわたくしに遠い昔のことに関わらずに穏やかに暮らして欲しかったのでしょう」

「そう思っていてこんなことをしでかしたなら、随分と母親思いだ。きっと草葉の陰で喜んでいるだろうな」

「……言い訳にしかなりませんが、わたくしにはなにもなかった」

「黙れよ、そういう話を聞きたいんじゃない。始祖を復活させてなにをするつもりだったのか言えって言ってるんだよ」


 ジャレッドの態度は頑なだ。無理もない。相手は大切な婚約者を奪った相手だ。

 なによりも気に入らないのは彼女にはラスムスがいた。デニスがいた。なのになにもなかったという発言はとうてい許せるものじゃない。


「わかったわ。わたくしと母に流れる血を意味を知った以上、無視できなかった。必ず始祖を復活させようと誓ったわ。でも、わたくしは、いいえ、先祖は始祖様の復活を願っても、再び戦いを求めたわけではないの。始祖様に元の世界に戻っていただこうと考えていたのよ」

「それだよ。なんとなくで話は聞いていたけど、始祖が別の世界からこっちの世界にきたことはわかった。理不尽に怒っていることも、理解はできる。だけど、結婚して、子供を作っているのに、まだ元の世界に帰りたいなんて思っていると考えたのか?」

「少なくとも先祖は考えていたわ。始祖様は結婚しても、子供に囲まれても幸せそうじゃなかった。そう書かれていたわ。だから、始祖様がお亡くなりになる前から、元の世界に戻る手段を見つけて探し当てた。でも、始祖様はすでに没していた。ならば、いつか未来で復活した時まで待つしかないとご判断されたのよ」

「くだらない」


 ジャレッドは長い年月受け継がれてきた過去の人間の思いを、一言で切って捨てた。


「始祖だって故郷に帰りたかったはずだ。あんたの先祖も始祖を元の世界に返してあげたかったはずだ。それはいい。理解もできる。だけど、あんたが躍起になる理由なんてないじゃないか。始祖の顔を見たことがないあんたが、先祖の顔さえ知らないあんたが、なにをムキになる必要があったんだ?」

「……それは」

「子供の頃のあんたにはそれしかなかったのかもしれない。だけど、オリヴィエさまに出会ったじゃないか、デニスさんと婚約だってしたんだろ。あんたを支えてくれたクラウェンスさんだっていたじゃないか! なのにどうしてなにもなかったなんて今でも言えるんだよ。この人たちは、あんたにとって価値がない人たちだったのか?」

「わたくしは……」

「俺はあんたを絶対に許さない。現在よりも、過去を選んだあんたを絶対に、だ」


 責め立てる少年の声に、カサンドラは力なくうつむいた。





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