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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
十章

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3.奪還3.




「お兄さま! オリヴィエお姉さま! お戻りになられたのですね!」


 屋敷に戻ったジャレッドたちを出迎えてくれたのは、イェニーだった。彼女の腰には、可愛らしいドレスとは不釣り合いなショートソードが装備されている。剣を使わせれば、この屋敷の誰よりも強い少女が、今の事態を憂いて武装したのがわかる。


「イェニー、お前まで戦う覚悟をしてるなんて」

「わたくしはオリヴィエさまとお約束しました。家族に何かあれば、この力を使う、と」

「ありがとう、イェニー。わたくしとの約束を守ってくれて。母や妹はどうしているかしら? そ、その前に、そろそろ降ろしてくれないかしら、ジャレッド。ちょっとこのままでは恥ずかしいわ」

「あ、すみません」


 妹分に出迎えられ、緊張がわずかに緩むと、お姫様抱っこされ続けていたオリヴィエが恥ずかしそうに小さな声を出した。


「ふふふ。お二人がいつも通りでホッとしました。こんなときだからこそ、いつものお兄さまとお姉さまでいてくださいね」


 そんなことを言われてしまい、顔を赤くする二人。こほん、と気を取り直してオリヴィエが再び尋ねる。


「それで、二人は屋敷の中かしら?」

「いいえ。ハンネローネさまは本家のお屋敷に。エミーリアさまはダウム男爵家でお祖父さまがお守りになっています」

「……そう。お母さまはさておき、エミーリアは安心ね」


 ジャレッドとイェニーの祖父、剣鬼ダウム男爵が妹を守ってくれているという事実にオリヴィエは安心する。ダウム男爵家は家人こそそう多くないが、門下生が多い。屋敷に住んでいる内弟子から、近隣に住まう生徒まで多い。ダウム男爵領はちょっとした戦力を持っているのだ。

 もっとも、その戦力くらいカサンドラも把握しているだろう。だが、守っている人がいる、それも歴戦の武人という事実が、姉を安心させてくれた。


「ローザはハンネローネさまをはじめ、本家をお守りしています。他にも、エルネスタさまもご一緒しています」

「そう、彼女も協力してくれるのね。ありがたいわ」

「ふふっ、エルネスタさまもご家族ですもの」


 ジャレッドの秘書官のひとりエルネスタ・カイフ。かつて敵に操られたことから気落ちしていたこともあったが、プファイルをはじめ、ジャレッドたち家族が立ち直るまで支えた。


 今回の一件は、始祖の血を引いていないため無関係とも言えるが、彼女もまたみんなのことを家族に思っているため、なにか言われる前に自ら力になるために参上してくれたのだ。

エルネスタももとは魔術師軍に所属していただけあり、魔術戦闘はできる。ローザがいくら強くとも、単身でひとつの屋敷を守りきるのは難しい。とくに敵が分散されればなおさらだ。そこにエルネスタがいてくれれば心強いだろう。


「プファイルはどうしている?」


 ライバルといえる少年の行方をジャレッドが尋ねる。


「プファイルさまはルザーさまと周囲の警戒をしています。現在、こちらのお屋敷にはわたくしとトレーネさま、アルメイダさまがいらっしゃいます」


 イェニーの説明を受け、それぞれがどこにいるのか把握することができた。

 特別大きな問題は、ジャレッドの逮捕と、オリヴィエがカサンドラに単身会いに行ったことくらいだ。


「僕もこの屋敷に滞在させてもらっているんだけどね」

「……お前、いたのか、ラスムス」

「うん。お世話になっているよ」


 屋敷から出てきたのは、魔導大国の第三皇子ラスムス・ローウッドだ。彼は、五百年以上を生きる魔術師であり、始祖直系の末裔である。しかし、復活しようとする始祖を殺害することで、しずかに眠ってほしいと願っている。また、始祖復活を企むカサンドラ・ハーゲンドルフの兄代わりのような人物であり、彼女の血に始祖の巫女の血が流れていることを教えた人物でもあった。


「君たちの家族は素晴らしいね。みんながみんなのためになるように行動している。それはさておき、オリヴィエくんよく無事に帰ってきてくれたね。君が、カサンドラに単身会いに行ったと聞かされた時には驚いたけど、こうして無事に帰ってきてくれてなによりだ……おや」

「ラスムス、なんだよ、どうしたんだよ?」

「……オリヴィエくん、君……カサンドラになにかされたかい?」


 突然、首を傾げ、不可解なものでも見るような視線を向けるラスムスに、一抹の不安を覚えた。


「特別何かされてはいないけど」

「けど? なにかな?」

「始祖の器はわたくしだと言われたわ。魔術師としての才能もあったらしいのだけど、すべてカサンドラさまによって封印されていたようよ」

「……ちょっと待ってほしい、どういうことだい? あの子が、君を始祖復活の器にするといったのかい?」

「ええ、そうよ。何年も前から企んでいたそうよ」

「――やられた」


 ラスムスが絶望的な短い声を出した。理解がおいつかないジャレッドが、なにがどういうことなのか尋ねようと口を開こうとしたとき、


「ジャレッド!」


 オリヴィエが叫んだ。

 彼女のほうに顔を向け、少年は絶句する。なぜなら、オリヴィエを中心に青く発光する魔法陣が生まれていたからだ。


「オリヴィエさま!」


 何事なのかまるで理解できないながら、ジャレッドは婚約者に向かって手を伸ばした。





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