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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
九章

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36.救出作戦2.




「兄って、おい。嘘だろ?」


 ジャレッドは混乱した。

 リカルド・ハーゲンドルフと名乗った男性が嘘を言っていないのであれば、助けようとしていた人物である。

 クラウェンスの情報から、彼をはじめ、カサンドラ・ハーゲンドルフ公爵の兄弟は魔術によって眠らされているはずであるのだ。


「……随分とお元気そうで」

「うん? ああ、ありがとう。外には出ることはできないが、屋敷の中でも少々の運動ならできるからね。食事にも気を使ってもらっているので、カサンドラには感謝しているよ」

「感謝って、あの、失礼ながらあなたはカサンドラ・ハーゲンドルフ公爵によってとらわれの身になっているのではないのですか?」


 少年の問いに、彼はようやく納得がいったとばかりに頷いた。


「もしかして、君は私のことを助けにきてくれたのかな?」

「はい」

「名を聞かせてくれないだろうか?」

「失礼しました。私はジャレッド・マーフィー、ダウム男爵家の者です」


 あまりダウム男爵を名乗ることはしないようにしているが、マーフィーの姓は母のものなので貴族を相手にすると伝わらない場合がある。元宮廷魔術師の母よりも、昔から存在する男爵家の家名のほうがわかりやすいと判断した。


「ほう、あのダウム男爵家か。ふむ、だが、ダウム男爵家とハーゲンドルフ公爵家にはあまり繋がりがなかった気が……いや、繋がりがないからこそ、こうして救出に来てくれたのか?」

「あの、リカルド、さま?」

「おっとすまないね。君がなぜ面識のない私を助けにきてくれたのか気になってしまったのだよ。よければ教えてくれないかな」

「よろしければ、私から説明させていただけないでしょうか」


 ジャレッドがリカルドに返事をしようとするよりも早く、背後から男性の声が響いた。


「デニスさん」

「ジャレッド殿、遅くなってすみません。それにしても、驚きました。まさか、リカルド様がこうしてお元気そうにしているとは」

「……君は、デニス・ベックマンだったね。妹から最近名前を聞かないからどうしているのか気になっていたよ。結婚はしたのかな?」

「残念ながら、カサンドラ殿との婚約は白紙となりました」

「ふむ、それは残念だ。あの子は、君にずいぶんとお熱だったと記憶しているんだが。男女の関係は難しいね。もっとも、この年まで結婚していない私が偉そうにとやかく言えることではないのだけどね」


 苦笑するリカルドと、宮廷魔術師第一席はどうやら知り合いのようだ。ただし、デニスの表情が硬いことから、あまり友好的な関係ではなさそうだが。


「あの、失礼でなければ、お二人のご関係をお聞きしても?」

「ジャレッド君だったかな。なに、簡単さ。カサンドラを排除して家督を継ごうとしていた私の部下は彼によって皆、返り討ちになってしまったのさ。かつてはこちらに着くようにも勧誘したこともあったのだけどね、振られてしまったよ」


 ははは、と笑うリカルドだが、かつてのことを思い出しているのかデニスの表情は苦く見える。因縁めいた相手を前に、友好的な態度をよく取れるなと感心してしまいそうになる。


「お待たせしました。――っ、リカルドさま!」


 どう話を進めたらいいものかと悩んでいたジャレッドを救うように、クラウェンス・ドルトが合流し、驚きの声をあげた。


「おや、君もいたのかクラウェンス。なるほど、君が僕を救出しようとしてくれたんだね」

「は、はい。その通りなのですが、リカルドさまは……その、ずいぶんお元気そうですね」

「ははははは、そこのジャレッド君にも言われてしまったよ。無理もない。私は妹によって囚われていることになっているからね」

「なっている、とはどういうことなのでしょうか?」


 戸惑う老メイドの疑問に、公爵の兄は笑顔で答えた。


「なに、簡単なことさ。私は、カサンドラによって守られているのだよ」

「守られているって、誰から?」

「いい質問だ、ジャレッド君。おや、クラウェンスは気付いたようだね」


 老女に視線を向ける少年たち。リカルドの言葉どおり、彼女はなにかを察したように目を見開いていた。


「まさか、奥様方がリカルドさまのお命を狙っているというのですか?」

「正解! 身分の低い女から生まれた娘に、公爵家当主を奪われるような息子などいらないと言われてしまったよ。貴族の業だね。おかげで、今までずっと命を狙われる日々さ」

「そんな……なんという……それでは、カサンドラお嬢様は本当に……」

「あの子は、幼い頃から兄らしいことなどひとつもしなかった私を助けるために、保護してくれた。それどころか、その事実を隠すために、周囲には復讐のため捕えているとわざと誤解させて」


 クラウェンスだけではない。ジャレッドも、デニスも絶句していた。まさか、そのような事実があったとは夢にも思わなかったのだ。


「あの子には感謝しかない。心を許しているクラウェンスにさえ誤解されながらも、私のために汚名をかぶってくれている。だが、そんな妹に私はなにも返すことができない。それだけが心苦しいよ」


 リカルドは唖然としている三人に微笑みかけると、


「とりあえず、詳細を語る前に場所を変えよう。話が長くなりそうだから、座って話がしたいんだ」


 そう言って、破壊された部屋の隣室を指差した。



「君たちが私を救出にきた理由も教えて欲しい。あの子になにが起こっているのかな?」






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