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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
九章

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34.前宮廷魔術師第一席クラウェンス・ドルト4.




「これが、お嬢様の過ごしてきた日々でした。次第に、お嬢様は、母を死に追いやった人間を恨み、父の死後、変わらず醜さを晒す奥様方を嫌悪しました。すると、復讐するべきだと口にするようになったのです」

「それで、始祖を復活させると?」

「わたくしにはお嬢様のお心まではわかりません。ですが、お嬢様は、この国を恨んでいます。本来なら、ハーゲンドルフ公爵家だけを恨むはずだったのでしょうが、奥様方のご実家が暗殺に手を貸した事実もあるため、すべてを恨んでいるのでしょう」

「……恨んで当然だけど、それと始祖が繋がらないな。そりゃ、始祖を復活させれば、悪いことが起きるだろうけどさ、それが復讐になるのかって言われると、疑問なんですけど」


 ジャレッドの疑問はもっともだ。

 結局のところ、始祖が復活したとして、カサンドラの狙いがわからない。始祖を言いなりにできる手段があり、それを使ってこの国を滅ぼすのか。それとも、始祖そのものがこの国に害をなすのか。


 少なくとも、前公爵の妻たちを害するなど、現在のカサンドラの立場ならできるだろう。魔術が使えるのなら、直接手を出せばいい。理由も動機も十分にあり、命を狙われているなら、咎められはしても大きな罪になるまい。


「クラウェンス様、カサンドラ殿は本当に始祖を復活させるつもりなのでしょうか?」


 デニスの問いかけに、老女は頷き肯定した。


「私には方法も、復活後の目的も教えてはくださいませんでしたが、始祖復活だけは必ず成し遂げると宣言しました」

「結局、ハーゲンドルフ公爵の一番の理由はわからないってことか。ざっくりと復讐と言われても、誰に、どう復讐したいのか、はっきりしない」


 話を聞くだけなら、始祖の力で、自分と母親を追い込んだ者たちへ復讐すると考えるべきだが、それではあまりにも始祖の復活が意味をなさない。

 かつて戦った男のように、国を乗っ取るなどの目的ならわかるが、カサンドラの復讐には始祖が結びつかなかった。


「結局、直接聞かないとだめか。問題は、素直にあってくれるかどうか、だな」

「ジャレッドさま、デニス、その前にお願いがございます」

「はい。なんでしょうか?」

「お嬢様に囚われているご子息さまたちを救い出してはもらえないでしょうか?」

「えっと、そんなことしちゃっていいんですか? 話を聞いた限り、助けてやる必要なんてないと思うんですけど」


 ジャレッドは口にこそしなかったが、囚われの身にあるカサンドラの兄弟は人質のようなものだ。彼らのせいで命を狙われているのだから、人質としての利用価値があるかどうかは疑問だが、最悪の場合は脅す道具として利用できる。


 ――子供達の命が惜しいのならば従え。


 そう言うだけでいいはずだ。もちろん、カサンドラだって同じようなことを考えているはずだ。しかし、それをしていないというのなら、そもそも人質にするつもりがないのかもしれない。

 考えれば考えるほど、カサンドラという人間がよくわからない。


「前当主様の奥様方は、ご子息を取り戻そうと躍起です。公爵家当主などどうでもいいという懇願をされる方もいますが、お嬢様はすべて無視しております」

「されたことを考えれば仕方がないんじゃないでしょうか。俺だったら、わざわざ憂になるような生かし方はしませんけど」

「ジャレッド殿、カサンドラ殿はそこまで冷酷な方ではございません。いえ、今はその考えは変えなければならないかもしれませんが……」


 物騒なことを平然と言ったジャレッドにデニスが反論しようとしたが、ハーゲンドルフ公爵家に魔術で囚われている人間のことを考えると、冷酷ではないと言い切れなかった。


「助けるのは構いません。でも、それでクラウェンスさまが困ることになりませんか?」

「ご心配くださり感謝します。ですが、これはお嬢様への裏切りではございません。わたくしは、常にお嬢様のためを思って行動しております。それがお嬢様のご意志に反しようとしても、わたくしの最善を務めております」


 ゆえに、彼女はカサンドラの事情をこちらに伝えたし、囚われの身となっている公爵家の兄弟を解放しようとしていた。


「……そういえば、ハーゲンドルフ公爵のご兄弟はどちらに?」

「この屋敷からすぐの場所に小さな屋敷がございます。そちらに三名お眠りになっています」

「じゃあ、さっさとやってしまいましょう。すぐに行けますか?」

「え、ええ、ですが、準備をしなければならないと思われます」

「準備って、まあ、馬車くらいは用意してくれれば三人の意識のない人間を動かすのは楽になると思いますけど」

「いえ、そうではなく、お嬢様がご兄弟を眠らせている場所には、護衛がいます。わたくしも屋敷の中まで入ったことはございません。ですから戦闘準備が必要だと言いたかったのですが」

「ああ、戦闘準備なら必要ありません。もうとっくに戦う気満々ですから」


 武器を持っているわけではない。しかし、ジャレッドは、馬車から降りてクラウェンスと会う直前から、いつ戦闘になっても構わないよう魔力を練り、高めていた。

 公爵がどのような護衛を雇っているのか知らないが、こちらには現役宮廷魔術師第一席と、元宮廷魔術師第一席がいる。戦力としては十分すぎる。

 相応の実力者が公爵家についていれば、デニスがとうに調べているはずだ。


「それに、そろそろ仕返しをしたかったんですよ。やっと、好き勝手してくれたハーゲンドルフ公爵家に少しだけだけど痛い目を見せることができますね」


 婚約者との屋敷に踏み込まれ、不当な拘束をされた。家族から引き離され、ひとり公爵領に連れて行かれた。デニスから事情は聞いたが、それでジャレッドがされたことがなかったことになるわけではない。

 心の奥底へ沈めていた怒りを発散させる機会に、青年は獰猛な笑みを浮かべたのだった。




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