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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
九章

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25.先手を打っていた者4.




 愚直にも餌だと言い切ったデニスに、ジャレッドは怒りを覚えなかった。


 ――デニスさんが動かなくても俺がこうなってたのは変わらなかっただろうし。


 餌にするといいながらも、こうしてそばにいてくれることが心強い。


「そうですか」

「申し訳ございません」

「いえ、謝罪なんてしなくても、どうせ捕まっていたのは同じでしょうから。でも、よくこのタイミングでデニスさんが騎士の中に紛れることができましたね?」

「信頼できる私の部下を、カサンドラさまの近くに潜り込ませていました。そちらを経由して、マーフィーさまとラスムスさまを拘束する命令を知ったので、身軽な私が自ら動きました」


 彼自身が言うほど、宮廷魔術師第一席の立場が身軽ではないはずだ。


「もしかしてラスムスが捕縛されなかったのって」

「不幸中の幸いと言うべきか、あの場にいる騎士たちはラスムスさまのお顔を知りません。ですが、余計なことを喋られて特定されても困りますので、強引でしたが黙っていただきました」

「……あのとき、ラスムスを殴ったのってデニスさんだったんですね」


 変だと思っていたのだ。あの場にいた誰もが同じような態度だったのに、ラスムスだけが殴られた。ジャレッドへの対応とは差がありすぎた。


 しかし、まさか、デニスがあの場に身分を隠し紛れ込んでいて、ラスムスの正体がバレないよう、強引な手段であったが守っていたとは夢にも思わない。


「ラスムスさまには、後日謝罪させていただきます」

「えっと、じゃあ、もしかして、いきなり屋敷に突入していたのも?」

「はい。私がそう誘導しました。マーフィーさまの逮捕は、まさに独断のもの。ただそれだけでは心もとなかったので、強硬策を取るように現場の人間に少々アドバイスをしたのです。その結果、お屋敷に土足で踏み入れることになってしまいました。心より謝罪致します。ですが、今回の問題をこちらに有利に追求できる形になりました」


 なるほど、とジャレッドは頷いた。

 別宅とはいえ、仮にもアルウェイ公爵家の屋敷に、通告もなしにハーゲンドルフ公爵家の騎士が乗り込んできた暴挙にも、誘導する人物がいたとなればなんとか納得できる。

 追って、これを理由にカサンドラ・ハーゲンドルフを追求していくのだろう。


「アルウェイ公爵にも追って王宮から連絡が向かうでしょう。事前通達することができずに申し訳ございませんが、こちらも時間がありませんでしたので」

「あまり気にしないでください。こちらとしても、ただ捕まるよりも心強くありますから」

「そう言っていただけると助かります。ところで……お聞きしていいものかと迷ったのですが……」


 わずかに躊躇いを見せたデニスだったが、小さな声でそっと囁くように尋ねてきた。


「ラスムスさまは、あなたになにを? あの方は、なにかとカサンドラさまとお近いと聞いていますが、差し支えなければ教えていただけないでしょうか?」


 言うべきか、言わないべきか迷ったが、ラスムスという魔導大国の最後の王子を知っているデニスなら構わないだろうとジャレッドは判断した。

 あわよくば、カサンドラの企みを阻む手助けをしてもらえるかもしれない。始祖の復活はウェザード王国にとっても歓迎できるものではないはずだから。そう考えた。


「……始祖が復活するって言ったら信じますか?」


 ジャレッドは、始祖という単語に目を丸くしたデニスに、ラスムスから聞いた一連の情報を伝えたのだった。




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