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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
九章

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3.竜来訪3.



 オリヴィエの誕生日まで一週間が迫っていた。

 さらにその一週間後には、ジャレッドの宮廷魔術師任命式がある。

 ウェザード王国は新たな宮廷魔術師たちの誕生にお祭りムードだ。


 二ヶ月前、水面下で国家反逆が行われかけていたことを忘れようと、国民たちが活気付いている。

 もともと国の守護者である宮廷魔術師は国民に両手をあげて喜ばれるものだ。前回、トレス・ブラウエルとアデリナ・ビショフが任命されたときにも大々的な祭りとなっていた。


 ジャレッドたちは、国民に歓迎されていることを照れ臭く感じながらも、喜びを隠せない。国に求められるだけではなく、民にも認められてこその宮廷魔術師なのだから。

 任命式典には外国からも重鎮が招かれる。王族、貴族、騎士、魔術師たち。

 新たな戦力を見極めようとする国、純粋に祝い事に訪れる国、あわよくば取り込もうと企む国など思惑は様々である。


 だが、それは少年たちの考えることではない。外交は外交専門に任せればいいのだ。

 婚約者の前以外ではあまり緊張しないジャレッドや、宮廷魔術師になることを自分の衣食住の確保くらいにしか考えていないプファイルはさておき、良くも悪くも一般的なラウレンツは国民が祝えば祝うほど重圧を感じ、胃の痛みを覚える日々を送っている。


 そんな友人の気をまぎらせようと、ジャレッドたちが連日、ヘリング家に足を運んでいたりする。

 これだけならばいずれ良い思い出として記憶に残るだろう。しかし、厄介ごとも祝い事と一緒になってやってくるものだ。


 現時点でも、新たな宮廷魔術師に近付こうとする人間は多い。貴族から商家まで様々で、魔術研究を専門とする学園教授なども娘を側室に――という声があるので頭が痛くなる。

 外国からも縁談の話はあるそうだが、国と魔術師協会のおかげで少年たちに直接話が届くことはない。

 とはいえ、それはまだかわいいほうだ。


 ひどい話になると、宮廷魔術師同士で結婚させようとたくらむ一部の貴族もいる。アデリナなどは「大きなお世話よ! 結婚できないのではなくて、しないの!」と憤っているのだが、二十代後半の彼女は世間からみれば行き遅れ。立場もあるため身を固めて欲しいという善意も混じっているのでたちが悪い。


 さらにその結婚相手の候補がジャレッドであるため、一部の関係者からは「行き遅れはジャレッド・マーフィーに任せるのがいい」という噂まで流れ出したという。

 行き遅れ国家代表ともいえるオリヴィエ・アルウェイの婚約者であることが、このようなおかしな事態を招くとは、当の本人たちでさえ予想もしなかっただろう。


 本人たちのあずかり知らぬところで、両者の実家に行き遅れと呼ばれる年齢の女性たちの縁談が申し込まれているのだが、それはまた別の話。

 このような日常の中、竜の少女璃桜が、


「おぬしらに紹介したい人がいるのじゃ」


 と、言い出したのが、新たな厄介ごとの始まりだった。

 人間よりも長寿な竜であり、ジャレッドたちよりもよほど年を重ねている璃桜だが、外見年齢は十代に差し掛かるほどであり言動も外見年齢に相応のものだ。竜の中では子供であると聞かされれば、なんの躊躇いなく納得できた。


 そんな少女が、頰を硬直させ、もじもじと恥ずかしそうにする姿は実に可愛らしい。それはまるで家族に恋人をはじめて紹介するのではないかと想像させるには十分過ぎた。


「まさか……こ、ここ、恋人か!?」


 朝食を終え、お茶を飲んでいたジャレッドが動揺を隠しきれず、口から紅茶をこぼしながら声を荒らげた。


「……こんな小さい子に手を出すなんて、場合によってはどのような手を使ってでも」


 物騒なことを呟くオリヴィエも、婚約者同様に冷静ではいられなかった。

 無論、勘違いしたのは二人だけではない。


「待っていろ。今、弓と矢を持ってくる」


 席を立ち、得物を用意しようと先走るプファイルや、


「まさか璃桜のような幼子に恋人とはな。ふっ、私はこのくらいのときから生死をかけた戦いに身を置き、愛など無縁だった。しかし、それはすべて運命の人に出会うためだった――」


 などとショックのあまり自分語りを始めたローザ。


「わ、わたくしだってその気になれば、男性のひとりやふたりくらい……」

「あの、エミーリアさま、二人も連れてきたら大事件だと思いますけど」


 妹として可愛がっていた璃桜に恋人ができたことを悔しく思うエミーリアと、彼女の問題発言に突っ込むイェニー。


「あら、では今夜はお祝いをしなければいけないわね」

「……奥様。いえ、オリヴィエ様もジャレッド様も、皆様も先走るのではなく璃桜の話を聞きましょう。こら、プファイル。あなたは本当に武器を取りにいかないでください」


 マイペースなハンネローネは小さく拍手をし、唯一おかしな想像をしなかったトレーネだけが疲れたため息混じりで皆を窘めた。


「わ、妾は、一応、おぬしらよりも年上なんじゃがな」


 たった一言で混乱をはじた家族たちに、引きつった顔をする璃桜ではあるが、完全に子供扱いされたことに異議を申し立てようとして――幼さしかない己の体型を確認すると、


「そりゃ確かに、妾は竜の中では子供じゃが、年齢だけならおぬしらより年上じゃ! もっと年上に敬意を払うんじゃ!」


 何年経っても育つことない体への怒りを、声に乗せて叫んだ。


「というか、トレーネの言う通りじゃ! 妾の話を最後まで聞け! 妾に恋人などおらん! ……というかなぜこんな情けないことを大声で言わねばならんのじゃ。紹介したいのは、兄上じゃ!」




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