表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
八章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

398/499

【間章5】プファイルの恋の行方とこれから2.



「私への宮廷魔術魔術師の打診といい、この国の王はずいぶんおもしろい人間のようですね」

「そのようだ。無論、ことは秘密裏に行われるが、これからを考えるなら、受けるべきかもしれない」

「ワハシュ、あなたは組織をどうするつもりですか?」

「望む者はこの国に仕えればいい。組織に残る者がいるのなら、その者たちとこの国と契約する形で傭兵となるのもよかろう」


 ワハシュの真意がわからず、顔にこそ出ないが戸惑いがある。だが、プファイルの答えは決まっていた。


「それがあなたの望みであるのなら、私は従いましょう」

「いいや、お前には宮廷魔術師になってもらいたい」

「……なぜ、でしょうか?」

「ローザから聞いている。愛する女性がいると。お前は幼い頃から今までよく仕えてくれた。そろそろ自分のために生きてもいいだろう」

「私にはあなたに大恩があります」

「お前たち姉弟を救ったことに感謝しているのなら――」

「いいえ、違います。あなたは我が姉が生きていることを承知しながら、見逃してくださいました。この恩だけは、命に代えても返さねばなりません」

「気づいていたのか」


 プファイルの姉は、まだ幼い頃任務によって死亡した。

 死亡した、と思われていた。しかし、違った。生きていた。そのことを知ったのは、プファイルがジャレッドと戦った後だ。

 死にかけたせいか、記憶を失い、新しい名前をもらって生きていた。

 苦労はしているが、暗殺者よりもずっといい。姉同然、母同然の人に囲まれて、小さな幸せを得ていた。


 姉の今の名は――トレーネ・グラスラー。


 プファイルと同じ青い髪を持つ、オリヴィエに仕えるメイドであり、家族だ。


「まさかと思いました。私が殺そうとしたオリヴィエ・アルウェイと家族になっていたとは夢にも思わず。もっとも、ジャレッドに敗北した後に、気づきましたが」

「さぞかし安心しただろう」

「……正直に言ってしまえば、あの日、あの戦いで、私がジャレッドに敗北したことを感謝しています。もし、私が勝利していれば、オリヴィエはもちろん、トレーネのことを姉と気付かず殺していたでしょう」


 そんなことをしてしまえば後悔どころではない。

 オリヴィエの屋敷で一緒に住まうようになり、なにかとトレーネの手伝いをしていて、ちょっとした仕草や動きに懐かしさを覚えていた。

 容姿が似ているとオリヴィエやハンネローネに指摘されたこともあった。


 一緒にいる時間が長かったのですぐに姉だと気づくことができた。弟だと打ち明けたい衝動もあったが、記憶をなくし、新しい人生を歩む姉のことを邪魔したくはなかったのだ。

 自分たちヴァールトイフェルを含め、側室のせいで命を狙われてはいる者の、暗殺者よりもいい人生だということはすぐにわかったから。


 オリヴィエは実の妹のように、ハンネローネは我が子同然に、トレーネを愛してくれている。ならば、記憶にさえ残っていない弟などいないほうがいい。

 そして、プファイルは陰ながら姉を想うことにした。

 先日、オリヴィエがさらわれた一件も、彼女に世話になっている恩義もあったし、ジャレッドのためもあった。エルネスタが拐かされたことも理由にある。だが、姉が悲しまないようにしたかったという思いもあったのだ。


「姉のそばにいてやるといい。その資格はある」

「ですが」

「私からお前の姉になにかすることはないと約束しよう。今までお前が尽くしてくれたことを考えれば、当たり前のことだ」

「……ワハシュ」

「我が後継者プファイルよ、後悔しないように進むべき道を選べ」


 ワハシュはそれだけ言うと、プファイルに背を向けて歩き出す。

 彼の背中を見つめていたプファイルは、静かに頭を下げたのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ