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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
八章

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【間章3】ヘリング家の事情1.



 ラウレンツ・ヘリングは父親のケンドリックの書斎に呼ばれていた。


「傷のほうはどうだ?」

「だいぶよくなりました。アルウェイ公爵から高名な回復魔術師を呼んでいただきましたので、治りも早いです」


 ギャラガー親子が起こした国家反逆事件から十日が経っていた。

 望まずしも巻き込まれてしまったラウレンツは、友人であり王子でもあるラーズを守るために戦い負傷してしまった。今でも体調は万全ではなく、伯爵家の少年にとってはかつてない大怪我だったため大事をとって学園も休んでいる。


「ならばよかった。王宮からお前に知らせがあった。先の一件の功績を認められ、お前が望むのであれば宮廷魔術師にもなることができるそうだ」

「ぼ、僕が宮廷魔術師ですか? つい先日まで宮廷魔術師候補に名前が挙がったばかりではないですか!」

 事件後、多忙であった父親としっかり顔を合わせるのは初めてだ。事件後すぐは、ラウレンツが怪我のせいで寝ており、そのあとは伯爵家当主として父は屋敷にいることが少ないほどなにかをしていた。

「それだけのことを成し遂げたのだ。お前だから正直に言うが、まさかギャラガーが王家を害そうと企むとは思っていなかった。私は元王立魔術師団員として、奴の行いはもちろん、甘言に惑わされ反逆に加担した奴らが恥ずかしい」


 父親の嘆きを聞き思い出す。ケンドリック・ヘリングは、伯爵位を継ぐ前に王立魔術師団に所属していた過去を持つ。まだレナードが団長ではなく、一団員であったころ、親しくはなかったようだが同期だったと聞いたことがあった。

 その後、ケンドリックは伯爵位を継ぎ、領地経営を学ぶため魔術師団を離れている。

 古巣が国家反逆をしたことに思うことは多々あるのだろう。父親の心情は息子には察するに余りあった。


「すまぬ。途中で愚痴になってしまったな」

「いえ、父上のお気持ち、すべては無理ですがわかります」

「……そうか。話を戻そう。お前のことは王宮では保留扱いになっているが、ギャラガーの企みを解決したお前たちには相応の褒賞が与えられることになっている。そのひとつ、と数えていいものではないが、国の危機を救ったお前に宮廷魔術師の地位を与えるという考えは間違っていない」

「ですが、あまりにも急すぎて、混乱しています」

「だろうな」


 良くも悪くもラウレンツは普通の少年だった。

 感情的になりやすい欠点はあったものの、学園では数名の特待生には一歩劣る扱いだが、成績優秀。同級生の面倒見もよかったことから、教師からの覚えもよい。

 親からしてみれば自慢の息子だった。


 母親が過保護であるため、特待生の話もあったが、断っている。ケンドリックとしては悩んだが、結局、妻ユマナの意を汲んだ結果となっていた。

 しかし、ラウレンツは特待生である生徒たち――特にジャレッド・マーフィーのコンプレックスと羨望を混ぜたような感情を抱きながら、彼と友人になることでその想いを昇華することができた。


 そして、気づけば数々の難題を自力で乗り越えて、宮廷魔術師の地位に王手をかけている。あとは息子次第だ。


「ラウレンツ。父親としてお前のことを誇りに思っている。ユマナも口では危険なことをしたお前に怒っているが、あれでも内心は、息子の功績に喜んではいるのだ」


 魔術師団員でしかなかった父を超えて、宮廷魔術師候補に名が挙がり、果てには国で十二人しか選ばれることのない魔術師としての頂きである宮廷魔術師に選ばれたのだ。誇らしくないわけがない。

 息子が危険な目に遭うことを過剰に反応している妻も、心内では声を大にして褒めたいはずだ。しかし、それをしてしまっては、今後も息子が危険な目に遭う恐れがあるためできずにいる。

 なんとも不器用なことだ。そして、妻の不器用さは、息子に遺伝していると感じることもあった。


「ただ、誇らしく思う一方で、少しでも間違っていればどうなっていたかわからない危険があったことも親として心配であり不安だ。今後、宮廷魔術師になるとしても、まだ未成年のお前が今以上に危ない目に遭ってしまうかもしれぬと考えると、両手放しで喜べるわけではない」

「父上と母上が僕のことを心から案じてくださっていることはよくわかっています」

「ならばそれでいい。宮廷魔術師になるかどうかはお前に任せる。ユマナからすればなってほしくないだろうが、お前の未来を潰したくないとも言っている。私たちは息子の意見を尊重することにした」

「ありがとうございます。ゆっくり考えてみたいです」


 今、ラウレンツの将来が決まる分岐点にいる。

 宮廷魔術師となれば、魔術師として輝かしい未来が待っている。同時に、両親の案ずる危険も付いて回るだろう。

 だが、それよりも不安なのは、自分に宮廷魔術師の地位にふさわしいなにかがあるのかということだ。


 親友のように複数の魔術属性を持っているわけでもなければ、古の石化魔術を使えるわけではない。縁あって師になってくれた宮廷魔術師の二人のように、秀でた魔術師である自覚もない。

 多くの先達が二十代から三十代で宮廷魔術師に選ばれる中、まだ十代であり未成熟なラウレンツに、国家にとって重要な地位が務まるかという懸念が大きい。


「ラウレンツ」

「は、はい」


 そんな息子の不安に気づいたのか、ケンドリックが務めて気遣う声を出す。


「お前に任せると言ったが、丸投げにしたわけではない。相談はいつでも受けるし、お前自身、師と仰ぐ先達に意見を訪ねてもいいだろう」


 とはいえ、ラウレンツを知る宮廷魔術師はもちろん、面識のない宮廷魔術師でさえ彼を評価し、宮廷魔術師に押しているのだから結局は自分自身で答えを出すしかないのだろう。


「どんな結論を出そうと、私はお前の意見を尊重すると約束しよう」


 親として頼りないかもしれないが、そう言ってやることだけしかできなかった。




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