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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
八章

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【間章2】国王と王女と五人の少女のこれから5.



「ごめんなさいお父様。いつまでたっても呼んでくれないから、気になってしまって」

「……まったくお前という奴は」


 会話を盗み聞きしていた娘に呆れた声を出す父王。ジャレッドも、ヴェロニカが扉の向こうにいることはわかっていたが、あえて気づかないふりをしていた。


「さて、ジャレッド。君にはヴェラと名乗っていたが、娘の本当の名前はヴェロニカだ。だが、誤解しないであげてほしい。娘は名前と王女という身分以外は偽っていない。ありのまま君と接していた」

「ごめんね。王女って知られてしまうと色眼鏡で見られてしまうでしょう? ジャレッドは弟のことを含めて私たちに気づいていなかったから、私個人を見てもらいたかったの」

「いえ、気持ちはわかります」

「ありがとう。でも、きっとあなたなら、ありのままの私を見てくれたわよね。嘘をついてごめんなさい」


 どこか落ち込んでいる素ぶりを見せるヴェロニカに、ジャレッドは気にしないでと言うしかない。

 王族の悩みは平民と大して変わらない男爵家の人間にはそうそうわからないのだ。

 少なくとも国王が願ったように、彼女にも態度を変えるつもりはない。王女ということにはひどく驚いたものの、今まで接してきた友達の姉という立場が変わるわけではない。今まで散々世話になっておきながら態度を変えてしまえば、恩を仇で返すことになる。


「隠し事をしておいてこんなことをお願いするのは気がひけるけど、できるのなら、これからも変わらず接してね」

「もちろんです。ヴェロニカさん」

「……ありがとう」


 王女、ではなく名前を呼んだことに、彼女は本当に嬉しそうな表情を見せてくれた。

 内心恐れ多いと思いながらも、なけなしの勇気を振り絞った結果は、そう悪くはなかったようだと安心する。ジャレッド自身も、彼女と変わらないこれからを望んでいたのだ。


「ありがとう、ジャレッド。私だけではなく、娘とも変わらない関係でいてくれて本当に嬉しいよ。私は先ほど、五人の少女の責任を君に取れと言ったが、彼女たちの面倒は娘に任せようと思っている」

「え? いいのですか?」


 国王の提案にジャレッドは驚く。

 責任を取れと言われた以上、少年の脳裏には日常面でも面倒を見なければならないと覚悟していた。無論、家族がいるので始終付きっ切りにはならないだろうと考えていたが、内心不安もあった。


「構わないわよ。ディアナのことはよく知っているし、他の子たちもまったく知らないわけじゃないもの。そうね、この店を手伝ってもらおうと考えているわ」


 ヴェロニカの言葉を頼もしく感じる。

 公爵家のディアナ・ユーイングはオリヴィエ同様に親戚関係となるため、交友があるのかもしれない。

 ヴェラとしての人となりを知っているため、少女たちを任せていいのなら安心できる。


「屋敷の中に閉じこもっていてもいいんでしょうけど、家族がしてしまったことを考えるといろいろ言われるでしょうから、どこかでストレス発散は必要だと思うの」

「そうかもしれませんね」


 少女たちの家族はさておき、巻き込まれる形になった親族からは非難の声もあるだろう。親族が加担していた場合でも、少女たちの友人、知り合いからの態度も変わってくるはずだ。

 いくら少女たちが罪に問われずとも、父親のしたことは消すことができない。そして既に死んでいる以上、償うことも、罰せられることもない。


 家が取り潰されて露頭に迷うことだけは免れたが、これから辛い日々が待っているはずだ。

 そんなとき、ただ自宅に引きこもっているだけではストレスが溜まるだろうし、よくないことだって考えてしまうだろう。


 ヴェロニカのように名を変えて、というつもりはないが、なにかに取り組めるものがあればストレスも分散できるだろう。

 なによりも、そばに王女がいれば万が一ということもないだろうという安心もある。


「実を言うと、もうあの子たちには会っているわ。みんな一緒に働きたいとも言ってくれているの。しばらくは他のことを考えたくないでしょうし、責任をもって私が面倒みるわ」

「助かります。どうかお願いします」

「もちろんよ。ジャレッドの恩人なら、私だって放っておけないわ」


 頼もしいヴェロニカに心から感謝する。五人の少女の今後をすべてひとりで抱えることに不安があったジャレッドにとって、ありがたいことづくめだった。

 深く頭をさげるジャレッドに、ヴェロニカは「構わないわよ」と言ってくれる。


 国王は責任をジャレッドに預けると厳しいことを言ったが、内心は手助けするつもりだった。

 ヴェロニカが少女たちの面倒を見ると言うことは、後ろ盾になることでもある。これは王家のジャレッドに対する好意だった。


 もともと少女たちの面倒を見て、責任を取るといってもジャレッドひとりでは無理があることはわかっていたのだ。いっそ、娶ってしまうならさておき、そのつもりがないのならどうしても限界はある。

 少女たちはさておき、家族からしてみれば、ジャレッドに感謝するだろうが、過度な干渉は嫌がる恐れもあった。無論、実際はどうかわからないが、あとで問題になってからでは遅い。


 オリヴィエが側室として少女たちを受け入れない以上、王家が直接ではなくとも助けにはいるほうがスムーズにことが進むと判断されていた。ただし、表立ってはできないため、こうしてヴェロニカが面倒を見る形で、関係者にしてしまう手段をとったのだ。

 このことをジャレッドに説明する必要はない。する気もない。ホルストもヴェロニカも、ジャレッドには恩がある。それを抜きにしても彼が好きなのだ。助けにはなりたいと思うのは考えるまでもない。


「これで、ジャレッドに対する恩賞の件は解決したとする。これから大変だと思うが、王家としてもサポートをするので頑張って欲しい」

「もちろんです」

「……こほん。ここからは個人的な話なんだが、構わないかね?」


 今までも重要な話をしていたのだが、より真剣な顔をした国王にジャレッドは唾を飲み込み頷く。

 国王だけではない、王女もまた緊張をまとった表情を浮かべている。いったいどのような話をされるのだろうか、と身構える。


「もしもオリヴィエを説得できたら、娘を嫁にもらってくれないか?」

「――え゛?」 




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