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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
八章

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【間章】事件のあと3.



「え?」

「エイブラハム殿に賛成する」


 と、キルシが。


「キルシ殿まで! ちょ、ちょっとお待ちください。私が、エイブラハム殿の上に? まさか、そんなことなどできません!」

「そうかね? トレス殿、私は間違っていないと思うがね。君はまっすぐで良い人間だ。魔術師としても優れ、人としても優しく思いやりがあり、また正しいことを正しく、間違っていることを認め正そうとする善の心を持っている。まだ若いが、経験を積めばいい。私は生涯現役だ。いくらでも補佐しよう」

「……エイブラハム殿……しかし、私にはそんな資格がないのです。父のせいで、いいえ、父が私をふがいなく思ったせいで友人が道を踏み外しました。未来ある若者がそのせいでなくなりました。そんな私に……」

「お父上はお父上だ。先の、宮廷魔術師候補殺害事件に関しては私も詳細を見たが、君が悪いわけではない。お父上の罪まで君が背負うことはない。君はこの国によく貢献している。反対する者はいないだろう。もしいても、時間をかけて認めてもらえばいい」

「……エイブラハム殿」


 まだ年若い宮廷魔術師の狼狽に、エイブラハムだけではなく国王や公爵、侯爵の面々が頰を緩めることとなった。まだまだ初々しい態度を見せる青年の未来に期待する眼差しをそれぞれが向けていた。


「まあ、落ち着こうじゃないか、トレス。エイブラハムも先走るな」

「これは失礼致しました」

「だが悪くない案だ。私はそう思う。しかし、今日、この場で詰めるには時間が足りないな。王立魔術師団の団員たちには早く報いてやりたいが、王立騎士団との統合を考えるならもう少し考えが必要だ。騎士団の中にも反対意見はでるのではないか?」

「いいえ、事前に調査をしましたが、統合の反対はありません。まあ、少々、私が次席に収まることへの不満はありましたが、トレス殿への不満ではないので、許容範囲内だと思われます」

「ふむ。ならば、この場で決めてしまっても構わないな。最後に確認しておくぞ、エイブラハム。王立騎士団、王立魔術師団は私の管轄だ、私がこの場で決定してしまえば引き戻せない。その上で、聞く。いいんだな?」

「構いません」

「ならば告げる。本日を持って、王立騎士団と王立魔術師団を統合し、王立魔術騎士団とする。団長は宮廷魔術師第七席トレス・ブラウエル。副団長兼団長補佐に元王立騎士団団長エイブラハム・シンクレアを。異論があれば、申せ」


 異論は一切上がらなかった。


「トレス・ブラウエル。これからよろしく頼むぞ」

「王命とあれば、この身を犠牲にしてでもっ」

「エイブラハム・シンクレア。君の忠義をトレスに受け継がせてくれ」

「かしこまりました。このエイブラハム、全身全霊をもってしてトレス殿と協力しましょう!」

「二人の組織がひとつになったが、今までとするべきことは変わらない。王国に仕え、王国を守れ。いいな?」

「はっ!」


 トレスとエイブラハムの返事に、国王は満足げに頷いた。


「さて、とんとん拍子にことが進んだが、本日の議題において最も重要な案件に入りたいと思う。デニス、頼むぞ」

「はい。すでに皆様、ご存知かもしれませんが、今回レナード、ルーカス親子を倒し、反逆を水面下で防いだ人物は、ダウム男爵家のご子息であらせられるジャレッド・マーフィー殿です」

「彼の話は聞いている。魔術師協会の方でも随分と買っているようだな。確か、リズ・マーフィーの息子だとか?」


 ドミニクの問いかけに、数人が反応した。リズ・マーフィー元宮廷魔術師を知らない者はこの場にいない。「破壊神」として敵味方から恐れられたジャレッドの母はいい意味でも悪い意味でも有名だった。


「まさかあのおてんば娘のような問題児ではないだろうな?」

「いいえ、どちらかというと祖父にあたりますニクラス・ダウム男爵に似たよい方だと思っています」

「ならばいいが……いや、いいのか? 若い頃のニクラスであれば、そうとうやんちゃ者のような気がするのだが……」

「いえ、あのですね、今の落ち着いたダウム男爵に似ておられます。おそらく奥様のマルテ様の教育のおかげかと。私も、そのリズ様に似なくてよかったと思っている次第です」


 うんうん、と国王を含め割とお年を召した面々が頷いたのが若い世代には印象的だった。


「ごほん。あー、それで、だ。ジャレットだけではなく、他にも王立学園の生徒でヘリング伯爵家の息子、ラウレンツ・ヘリング。長年失踪扱いになっていたフィリップ子爵の息子、ルザー・フィッシャー。ロッコ伯爵家の次期当主ジドック・ロッコ。そして、ヴァールトイフェルに所属する戦闘者プファイルによってこの国は守られたと言えるだろう」


 話題を変えるべくジャレッド以外の功労者の名を上げていくと、再び動揺が広がった。なぜなら国王の口にした者のひとりが大陸最強の暗殺組織の一員なのだから無理もない。


「静まれ。驚くのも無理はない。私も当初は驚いた。ハーラルト、フーゴ、君たちはすでにプファイルという少年を存じているようだったな。よければ簡単に知っていることを教えてはくれないだろうか?」


 わかりました、と返事をしたのはアルウェイ公爵だった。彼はリュディガー公爵と目を合わせると、頷き説明を始めた。


「事の始まりは、私の妻、ハンネローネが命を狙われたことでした……」


 ハーラルトは説明した。命を奪いにきたプファイル。阻止するため死闘を繰り広げたジャレッド。そして勝利したのもジャレッドであったこと。しかしプファイルは裏でヴァールトイフェルを雇った側室コルネリアによって脱走してしまう。だが、驚くことに、彼は敗北者の矜持からかジャレッドの味方であり続けた。結果、コルネリアの悪事を暴き、悪あがきをするために呼び寄せたヴァールトイフェルの面々と戦いもした。


 今では命を狙われていたはずのハンネローネがすっかり気に入り、一緒に屋敷で家族同然に暮らしているという。何度か会っており、複雑な心境であるものの、彼に危険はないと断言できるとハーラルトは告げる。


「なんと剛毅な。いや、ハンネローネ殿の懐の深さ、オリヴィエ殿の婚約者に対する信頼の厚さに感服する他ない」


 意外にも感嘆の声を発したのは、ドミニク・クナイスル公爵だった。

 この国の貴族であれば大なり小なり暗殺組織に関係はある。すべてがヴァールトイフェルではないが、貴族である以上表立って動けないときには変わりとして使うこともあるのだ。これはどの時代のどの貴族でも変わらない。


「危険がないのであれば放置してもよかろう。すでに今まで放置していたのだ、今さら危険視しても遅いだろう。それでよいでしょうか国王様?」

「私も構わないよ。責任どうこうではなく、彼の動きを可能な限りハーラルト、君に把握していてほしい。監視をしろとは言わないが、万が一のために最低限の用心はしていてくれ」

「かしこまりました」

「ありがとう。では、続きを話そう。まず、ジドック・ロッコは早い段階で情報収集をはじめ、単身オリヴィエ・アルウェイを救おうと敵地の乗り込み、見事他の面々と協力して救い出すことに成功した。その後も、反逆者たちの捕縛に私兵を投入して尽力してくれた功績は実に大きい」


 彼のおかげでジャレッドたちは倒した者たちに気をとられることなく、目の前の敵に集中することができた。また、ジドックがいたからこそオリヴィエに大事なかったと言っても過言ではない。


「彼はすでに次期当主として決まっているが、王宮からも彼を推そうと考えている」

「私も彼の支援することを考えています」


 もともと娘の婚約者候補に考えていたアルウェイ公爵は、一時は引きこもらせるまで娘に暴言を吐かれたジドックがまさかその娘を救ってくれたなどと聞き、驚きを隠せなかったと同時に心から感謝した。彼への礼のために、今後ロッコ伯爵家とはいい関係を築いていくだろう。


「本人が必要以上に恩賞を望んでいないこともあり、あとは報奨金を支払うことで報いよう。続いてルザー・フィッシャーだ。彼は多くの元王立魔術師団員を相手に雷属性という稀有な魔術属性を使い倒している。また体術も優れ、単純な実力だけならジャレッドと同等かそれ以上と聞く」


 驚きを露わにしたのは彼を知らなかった面々だ。

 宮廷魔術師レベルの実力者が無名のままいたなどと誰が思うだろうか。同時に、そんな人材を正しい地位に置きたいと思う。幸いにして宮廷魔術師には空きがある。今回の功績を考えれば、なにも問題なく宮廷魔術師となれるだろう。


「私たち魔術師協会でも、ルザー・フィッシャー様を宮廷魔術師候補、宮廷魔術師にという声が多数上がっております。中には、実力を確認してからという声もありますが、他ならぬマーフィー様の折り紙つきですので疑う余地はないでしょう」


 デニスは、ルザーが洗脳という形でヴァールトイフェルに従っていた過去も知っているが、同じく知っている国王が口にしなかったことから、黙っていることにした。どちらにせよ罪に問われておらず、彼を操っていたものは死んでいる。蒸し返してもしかたがない案件だった。


「ならば子爵家を伯爵家に引き上げてもよろしいのでは? この度の一件で、伯爵家もいくつか取り潰されますゆえ、調整するにもちょうどいいかと思いますが?」


 ドミニクの提案は、いずれ宮廷魔術師になるのなら伯爵位が与えられる。ならば事前に伯爵位を与え、他国への引き抜き防止をするべきだという提案だった。


「それもひとつの案だな。とはいえ、すぐに答えが出るものではない。彼にも報奨金を支払うことは当たり前として、デニス……彼が宮廷魔術師になるつもりがあるか面談をしてほしい。頼めるか?」

「かしこまりました」

「次に、これまた扱いに困っているのがラウレンツ・ヘリングだ」



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