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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
八章

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42.黒幕の登場2.



「あんたがルーカス・ギャラガーが。わざわざ俺たちの前に姿を見せるなんて、馬鹿なのか?」

「君がジャレッド・マーフィーか。愚息が世話になったようだね」

「レナードならここにはいない」

「存じているよ。奴は孫娘の遺体を抱えて泣きついてきたよ。あまりにも哀れだったので殺しておいた」


 ジャレッドは耳を疑った。彼だけではない、ルーカスの声が届いたオリヴィエとジドックも目を丸くして信じられないという表情を浮かべる。


「あんた……今、なんて?」

「おや? 息子を殺したと伝えたつもりだったんだが?」

「息子だろ?」

「息子だからこそだ。娘を失ったくらいで泣きわめく愚かさを哀れに思い、ならばあの世で再会すればいいと私からの息子への最後の気遣いなのだよ」

「とんだクズ野郎だな。レナードのことは好きじゃないし、あいつのやったことだって間違っていた。それでも、あんたに尽くしていただろ、なぜ殺すことができた?」


 ジャレッドは長い間父親と不仲であった。一度は殺したいとすら考えたこともある。が、しなかった。できなかったのだ。今では少しだけ関係は回復したものの、普通の親子という関係になれたわけではない。

 だからこそ父親のために尽くしてきたレナードの気持ちは理解できないし、する必要もないと考えている。それでも、尽くしたはずの父親に殺されていいとは思わない。


「まさか敵対した息子のことで怒っているのかな。お優しいことだ、いや、強者ゆえの余裕だろうか?」


 老人は薄い笑みを貼りつけて唇を釣り上げた。その態度は馬鹿にしているのではなく、おもしろいものを見つけたと言いたげだった。


「しかし、レナードからアヴリルを奪ったのは他ならぬ君ではないか。そんな君が、息子に同情するのもおかしな話だ」

「黙れ」

「奴にされたことは恨んで当然のことだったはず。ああ、そうか、たとえ恨んでいようとも、望まない形でアヴリルを手にかけてしまったことを気に病んでいるのかね?」

「黙れ!」

「気にすることはない。私も気にしていない。アヴリルは呪術師の才能を持つ現代では稀有な娘だったが、他の才能が全くなかった。利用価値はあったが、快楽的で感情的なため使い所があまりなくてね。駒にするには少々持て余していたのだよ」

「黙れって言ってんだよ!」


 いい加減、声を聞くのも不愉快だ。


「なにを怒る? 私は感謝しているのだよ。不出来な孫娘を処分してくれたのだ。私の手間が省けたというものだ」

「もういい加減にその口を閉じろっ」


 石の槍を生成し、ルーカスの口を目掛けて放った。直撃すれば絶命することは必須の一撃だが、後悔はない。どうせ倒すべき敵だ。わざわざ正々堂々真正面から戦ってやる必要も感じない。


「いい攻撃だ。どのみち愚息では勝てなかっただろう」


 が、石の槍はいとも容易くルーカスの右手によって捕まれ、砕かれる。


「なっ……」


 ジャレッドは言葉を失った。

 本来持つ魔力をすべて使えるようになっているジャレッドの攻撃は、単なる石の槍とはいえ、その強度も鋭さも普段の倍以上のものとなっている。


 今まででも飛竜を貫くことができる攻撃力を誇る槍の一撃を、強化されていたにもかかわらず、ルーカスは素手で防いだのだ。本来なら腕が千切れ、顎を貫いていたはず。


「精霊に干渉することもできるのか、珍しいな。少々持て余し気味ではあるが、魔力を使いこなせており、魔術師としての完成度は高いか。確か十六歳だったな、実に素晴らしい」

「お褒めに預かり光栄だ」


 動揺が相手に伝わらないことを願う。

 レナードが逆らうことをしなかった人間だ。魔術師として彼よりも実力者であることは予想済みだった。しかし、殺すつもりで放った一撃を魔術を使うことなく防がれてしまうなど、想像以上だ。

 石の槍の破片を払ったルーカスは、数歩ジャレッドに歩み寄り右手を差し出した。


「私は君を評価している。共にこい」

「――な、に?」

「私は本当の意味で仲間も同志もいない。すべて利用していたに過ぎない駒だ。だが、君は違う、ジャレッド・マーフィー。君なら、私の同志にふさわしい。魔術師としての高みにその若さでたどり着きつつある君ならば、私の進む道を共に歩むことができる」

「ふざけないでっ!」


 ルーカスに怒鳴ったのはジャレッドではなかった。オリヴィエだ。


「非魔術師には聞いていない。私と彼の問題だ。黙っていてもらいたい、オリヴィエ殿」

「いいえ、黙らないわ。ジャレッドはわたくしの婚約者なのよ。そのわたくしの目の前で、将来の夫を悪事に引き込もうなんて、ずいぶんいい性格をしているのね」


 邪魔をされたせいか鋭い眼光で睨みつけるルーカスにオリヴィエは一歩も引かなかった。

 それどころか、前に足を踏み出して声を張り上げる。


「あなたの同志がいないですって? 知ったことではないわ。だいたい実の息子を殺してしまうような人間に、誰がついていくというのかしら。多くの人間があなた方についていたようだけれど、間違いなくあなたではなくレナード・ギャラガーについていったよの」

「ほう。どうしてかな?」

「だって、わたくしから見ても、あなたは誰かに慕われるような器ではないでしょう?」



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