23.驚くべき事実.
オリヴィエの威圧にあっさり屈したアヴリルは拍子抜けするほど簡単にジャレッドの居場所を吐きだした。
騎士に見張らせて、オリヴィエたちは得た情報の真偽に頭を悩ませることとなる。
「あの女は真実を言ったかしら? あまりにもあっさり情報を吐いたせいかしらね、わたくしたちを騙そうとしているのではないかと考えてしまうわ」
「気は進みませんが、尋問しますか?」
ラウレンツが渋い顔をしながらも提案する。
いくらアヴリルがテロリストだとしても、尋問をすることを望んでいないのだ。それが甘いと知りながらも、非情になりきることができない。例え、親友が囚われの身であったとしても。
「ふひひひ――ならば拙者が尋問しましょうか? 仮にも尋問官の一族ですゆえ」
「尋問官? あんたが?」
ジドックの言葉に驚いたのはルザーだった。とても尋問官に見えないのだ。
ジドック・ロッコは二十代半ばの小太りな青年である。背丈こそ平均だが、お腹まわりを見ると『甘やかされて育った貴族のボンボン』にしか見えない。
美形とはいえないが決して醜悪ではない容姿も、見ていれば愛嬌があるとも取れる。が――「ふひひ」と個性的な笑い方をするため、人によってはマイナスな印象を受けるだろう。
結局のところ、尋問、という敵から情報を引き出す裏方に携わる人間には見えないのだ。
「ふひひっ、デブだからといってなめてはいけませんぞ。拙者はまだ正式な尋問官ではありませぬが、技術は一通り学んでおります。口にはできない荒っぽいこともできないことはありませぬ」
「ジドック殿の言うとおりだ。ルザーは知らないようだが、ロッコ伯爵は代々尋問と処刑に携わる一族だぞ」
「建国時から続く名門よ。だからわたくしの婚約者候補に選ばれたのだけれど」
「ふーん。なら任せてみてもいいのかな」
「お任せください。最近、尋問する対象に尋問官を尋問させるという斬新な尋問を思いつき、何度か実践し結果を出していますので。ふひっ、拙者のご褒美と相手が心から嫌がる手段を兼ね揃えた素晴らしい尋問方法です」
「それ拷問じゃないかな!」
ルザーが叫ぶがジドックは気にしない。
「はじめこそ嫌々鞭を振るう対象ですが、次第に絶望して情報を吐きだします。さらに続けさせると拙者を見下し、嫌悪する表情を浮かべ、最後には心底見下し蔑む視線を向けながら――はぁはぁ」
「変態だぁあああああああっ」
びっくりするほど個人的な性癖を取り入れた尋問方法にルザーはもちろん、オリヴィエとラウレンツもドン引きだった。
尋問されたほうは堪らない。情報を吐きだすのも理解できる。が、あまりにも手段が酷すぎるし、後半は必要なのかと問いたくなるが――思い出しているのか恍惚としている変態に関わりたくなかったのでルザーは口を閉じた。
「有効なんだろうが、女性を辱めるような手段はとりたくないな」
「あら、わたくしは丁度いいと思ったのだけれど」
さすがに試すことはできないと苦い表情を浮かべるラウレンツに対し、容赦がないオリヴィエ。
オリヴィエにしてみれば、ジドックが助けにきてくれなければなにをされていたのかわからなかったため、簡単に相手に慈悲を向けることはしないだろう。
「頼ってばかりになるけど、こんなときにプファイルがいてくれれば情報の真偽も確かめられるんだけどね」
「だが、今はいない。ない物ねだりをしてもしかたがない。情報の真偽は僕たちで確かめよう」
残念なことに同行している騎士たちに尋問はできない。そのような訓練はされていないし、誇り高き騎士が尋問のようなことをするわけがない。
ジドックがまともな尋問をしてくれることを信じ、オリヴィエたちは情報の真偽を確かめるためにアヴリルを問い詰めることを決めた。
結果として、アヴリルの情報は半分事実であり半分偽りであることがわかった。
尋問――というよりも、ジドックの性癖を暴露してから、もう一度ジャレッドの居場所を問うと、違った返答が吐きだされたのだ。
いくら呪術の使い手であり冷酷で残忍な手段を取るアヴリルであっても、変態の相手だけはしたくないようだった。
呪いの言葉を吐き続けていた彼女は、今ではすっかりおとなしい。いや、怯える視線でジドックとオリヴィエを見ている。
「拙者の技術を披露することなく情報を得ましたが、あの怯えようが嘘でなければ事実でしょう」
「だけどまさか――前国王の私有地にジャレッドが囚われているとは思わなかったわ」
「オリヴィエさま、確かかの場所は管理者がいたはずです」
「ええ、いるわ。ユーイング公爵よ」
「まさか、公爵家が……王族の血を引いている方々が、国取りに加わっているのですか?」
王立魔術師団団長レナード・ギャラガーが魔術師の国を作ろうと、同志と反旗を翻したと考えていた今回の一件。
ジャレッドが巻き込まれたのも、ひとえに邪魔になる存在だと目をつけられたからだと考えていた。
しかし、そうではない。よりにもよって公爵家が国家反逆に関わっている可能性に、自分たちの想像以上に事が重大であることをオリヴィエたちは痛感するのだった。




