11.囚われの身2.
暗い部屋に閉じ込められたジャレッドは、必死になって脱出を試みていたがすべてが虚しく終わってしまっていた。
体力を無駄に消費する形になっていくことを承知しても、諦めることができず抵抗を続けている。
「私なら体力を温存するために抵抗はしないよ、ジャレッド」
「レナードっ」
扉が開かれ廊下からの光が部屋に差す。
現れたレナード・ギャラガーがランプに火を灯すと、ジャレッドの視界がはっきりする。
「さあ入りなさい」
「誰だ、その子たちは?」
反逆者の後ろから、ジャレッドと年の近い少女たちが五人現れる。
「彼女たちは我々の同士である公爵家、伯爵家のお嬢さんたちだ。君の妻となる相手だ、さあ挨拶をしなさい」
「ふざけるなっ、レナードっ!」
「せめてレナードさんと呼びなさい。目上の人間に口の利き方がなっていないのは感心しない」
「お前が尊敬できる人間ならとっくに態度を改めているさ」
鎖を鳴らして威嚇するジャレッドに対し、レナードは友人と会話するように気さくだ。
「ふむ。せめて口では抵抗しようということかな? 健気だね。非魔術師の婚約者のために我が身を犠牲にしようとするとは――君は重傷だよ」
「はっ、お前の頭よりも軽傷だ」
どれだけ挑発してもレナードは態度を崩さない。まるで勝者の振る舞いだ。それが気に食わない。
「抵抗するのは自由だが辛いのは自分だよ。一応、忠告しておこう。さて、話を彼女たちに戻すが、この子たちの中からひとりを選びなさい」
「なに?」
言われている意味が理解できず、少女たちをまじまじと見る。
五人はそろって貴族の令嬢ということもあり、綺麗な衣装に身を包んでいた。かわいらしい子から凛とした子まで、年ごろの少年なら喜ぶこと必須な美少女ばかりだ。
この状況下で笑顔の子もいれば、この場にいることが不服なのか不本意な表情を浮かべている子もいる。
「選んでどうするんだ?」
「君が初めに選んだ子を正室とし、残りの四人を側室とする」
「はっ――この子たちはお前の操り人形か、かわいそうに」
ジャレッドの言葉に少女たちが体を震わせた。
「口を慎みなさい。彼女たちも望んでいるんだよ。例えば、魔術師の一族に生まれながら両親が非魔術師のため、君と良好な関係を築けなければ親子そろって危うくなる、とかね」
「外道が」
「もちろん、優秀な君の子供が欲しい、妻となりたいと望んでいる子もいる。君は知らないだろうけどね、オリヴィエ・アルウェイによって握りつぶされてしまったが、側室になりたいと願っていた子もいるんだよ」
側室を望む声があったことを知らないとは言わない。だが興味がなかった。
自分はオリヴィエと、今いる家族たちと一緒に過ごしていく――そう信じていたからだ。
宮廷魔術師になれば否応なく側室の話も多くなるかもしれない。だが、まさか反逆者たちに監禁されてお見合いをさせられるなど夢にも思っていなかった。
「どうせ本人の意思じゃないだろ」
「貴族の婚姻なんてそんなものだ。私も妻とは親同志が決めた婚姻だったが、実に幸せだったよ。結婚なんてしてみなければわからないさ」
過去を懐かしむようなレナードから嘘を感じない。だからこそ疑問が浮かぶ。
「幸せなら、反逆なんて起こすべきじゃなかったな。アンタ、負けたら一族郎党死刑だぞ」「無論、承知の上だよ。しかし――敗北するつもりはない」
レナードの自信がどこからくるのか、ジャレッドにはわからなかった。
そもそも彼らがなにをもって勝利するのかも予想できないのだ。突然始まった今回の反逆行為の終着点が想像できない。
「これから個別に君の未来の妻たちとの時間を与えよう。もしかしたら情が湧くかもしれないよ」
ひとり、またひとりと、レナードの後ろから部屋の中へ少女たちが入ってくる。
「まさか。俺があったばかりの人間に情を湧かせると思っているのか?」
「違うのかい? オリヴィエ・アルウェイだって君が望んだ相手ではなかったはずだ。しかし、彼女の境遇を知り、一緒に暮らし、情が湧いたのだろう。ならば、今日あった子たちの境遇を知れば、君が情を可能性がないわけではないじゃないか」
返事ができない。よく調べていると感心こそするが、言っていることは間違っていないのかもしれないと思ってしまった。
「それともジャレッド・マーフィーにとってオリヴィエ・アルウェイだけが特別なのかな?」
その答えをジャレッドは持ちあわせていない。
なぜ、オリヴィエに強く惹かれているのか、ジャレッド自身が一番分かっていないのだから。




