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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
八章

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8.残された者たち7. 敵の行方3.




「無論だ。先ほど慎重になっていると正統魔術師軍の奴らに対し感想を言ったが、あくまでも隠れ家に関してだ。王立魔術師団員の末端も心がけてはいるようだが、目撃情報が多い。多くの場合が貴族の屋敷の周辺で確認されている」

「ってことは、最初に戻るけど、やっぱり関わっている貴族を暴くべきなのか?」

「かもしれん。だが、ルザーが言ったように貴族を無視して王立魔術師員のみを限定して捕らえ、尋問し、居場所を知る者を見つけだすという手段もある」


 その場合は、ヴァールトイフェルはもちろん使える兵を総動員して王立魔術師団員を捕らえるべきだ。すでに捕縛された者たちも尋問はされるだろうが、同時進行で行うべきだろう。


「はっきり言ってしまうと、どの貴族が今回の一件に加担しているのかわからないことが問題だね」

「公爵のおっしゃる通りですが、それでも貴族全員を対象にすることはありません。判断材料のひとつとして、魔術師の血が流れていることが必須でしょう」


 そう告げたラウレンツに、一同は同意する。

 彼は学園で正統魔術師軍と戦っており、彼らから魔術師だけの国を作るのだと聞いているのだ。ならばそこに魔術師以外の居場所はない。


「魔術師だけか……今さらだが、どうしてこんなことが起きてしまったのだろうか。私は魔術師を差別したことはない、むしろ優遇さえしてきたつもりなのだが」


 沈痛な表情を浮かべたハーラルトに、プファイルが淡々と言葉を発した。


「むしろ、そのせいでこのようなことが起きたのではないかと私は考えている」

「と言うと?」

「優遇される魔術師がいることはしかたがないことだ。どの時代だろうと、どんな人間だろうと、優れた者が相応の対応を受けることは至極当たり前なのだから」

「同感だ。私も魔術師だからと全員を優遇するわけではないよ」

「だが、優れていなくても、魔力を持ち、魔術を使える人間にしてみれば――なぜ自分たちは優遇されないと不満がでることは仕方がない。中途半端に力があるからこそ、自分たちが秀でていると勘違いするのだ。そして、一度勘違いしてしまった人間が、自らの非を認めることはそうそうありえない」


 すべてがその通りだ、と言うことはできないが、プファイルの言葉は間違っていないと誰もが思った。事実、王立学園の生徒たちの大半がレナードに着いていってしまった。

 言葉巧みに誘導された面もあるだろうが、自分たちの現状に不満を抱えていたのは紛れもない事実なのだ。


 もちろん、それが悪いことではない。生きていれば理不尽な目に遭うことはある。不満に思うことも、うまくいかないことも多々あるものだ。

 生徒たちのように、まだ学生の身でありながら分相応に待遇をよくしろと願うことも自由である。

 だからといって――テロに加担していいわけではない。


 思慮が足りていなかった。いくら王立魔術師団団長から発せられた甘言とは言え、少し考えれば魔術師たちの国を作るなどという彼の言葉の危険性に気づくべきだった。

 現状を不満に思うことはいい。気に入らなければ声を大にして叫んでもいい。

 しかし、文句を言うだけでは駄目だ。不満を糧に、自分でもいつか――と歯を食いしばって努力するくらいでなければ、例え才能があろうと成長に限界はあるのだ。


「王立魔術師団の団員たちがなぜレナードに付き従うのかは定かではないが、王立学園の生徒が愚かにもテロに加担することになったことは、魔術師であることをまるで特別なことだと勘違いしたせいだ」

「言い方はキツイけど、プファイルの言うとおりだ。すべての魔術師が特別扱いされているわけじゃないからね。特別扱いされるのは――優秀な魔術師だけだ」


 プファイルに続くルザーの言葉もある意味極論である。

 魔術師は才能があるだけで特別視される。人間の全員が魔力を持つわけではないため、どうしても魔術師の血を取り込みたいという企みがあることはしかたがないことだ。だが、そのせいで魔術師が己の価値を勘違いし、増長してしまうことになっている。

 魔術師の数が減った現代ではしかたがないことなのかもしれない。


「ところで公爵。先ほど、操られている生徒に関して罪を問うことはしたくないと言いましたが、扱いはどうするおつもりですか?」


 プファイルの情報から生徒はなにかしらの術で操られていることがわかっている。しかしラウレンツの証言から自らの意思でついていったこともはっきりしている。

 ゆえに雷の魔術師は問う。


「敵として現れた場合、捕縛するようには心がけますが、最悪倒さなければならない状況もあるかもしれません。操られている生徒なら手心を加えることができても、自らの意思を持ち加担している生徒にまで余裕が割けるかわからないのです」


 腕を組み、ハーラルトは迷う。この場で独断に判断していいものではないとわかっているが、これから戦うルザーたちのためにもとりあえずでもはっきりしておかなければならない。

 少なくとも現在のアルウェイ公爵としての判断を。


「正直、私が判断していい問題ではないが――例え学生であっても罪を犯せば責任は発生する。私は極力罪に問いたくないが、それはレナードのような大人がまだ未成熟な少年少女をかどわかしたからだ」


 もっとも許せない人間はレナード・ギャラガーである。


「しかし、甘言に誘惑されようが、知らなかったといおうが、国家反逆に加担してしまったのは事実。操られている生徒に関しては、不用意な行動を取ったこと以外は許したい。だが、もしも、操られることなくレナードに賛成して加担しているのなら、それはもう私たちが救うべき対象ではないのだよ」


 公爵の表情は暗い。彼もこのような判断はしたくないはずだ。


「子供たちが魔術師として国に不満を持っていたとしても、反逆するとは知らなかったとしても、子供だからという理由だけですべては帳消しにできない。無論、事件が終わらなければ、罪に問うかどうかも正直わからないが――これから敵として立ちふさがる者が、操られた学生ならば捕縛を優先し、自らの意思で加担している者ならば――君たちの身が優先だ、倒しなさい」

 



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