28.友人不在の学園2. 王立魔術師団団長の企み2.
「王立魔術師団は、若き才能のある人材を集めている――」
生徒たちに向けて声を大きくしたのは王立魔術師団団長レナード・ギャラガー。
はじめこそ近くの生徒に声をかけていた程度だったが、突然この場に集まるすべての生徒に向けて主張する。
「諸君は魔術師としての才能に恵まれた宝だ。しかし、ここ王立学園では君たちを育てきることができないと私は考えている。以前からこちらの講師にも相談されてはいたのだが、どうしても魔術師という存在は少ない」
王立学園を批判していると取られてもおかしくないレナードの言葉だが、誰ひとりとして抗議する声があがらない。つまり、誰もが同じようなことを考えているのだ。
驚きながらも事の成り行きを見守っているラウレンツでさえ、王立学園に魔術師を教える教師が充実しているとは思っていない。
もっと優れた先達を招くことはできないのかと考えたことは一度や二度ではない。
実際問題として、魔術師の数が少ないため、職種は選ばれてしまう。学園で生徒を相手に授業を受け持つ魔術師のほうが稀である。その多くが、王立魔術師団に入団できない実力であると言われている。とはいえ、そんな魔術師は数多い。
魔力と資質に恵まれているためなんとか魔術師を名乗ることができる者から、上は宮廷魔術師まで魔術師といっても一言では表すことができない。
魔術師協会も、魔術師ひとりひとりにランクをつけることがないため、誰が優れているのか判断するにはどうしてもその人間の肩書を見なければわからない。
そして、今、学園では魔術師の卵を育てることができないと言い放ったレナードは、肩書も実力も文句がないほど優れた魔術師だった。
「ゆえに私たちが君たちを育てよう」
彼は父親のように、兄のように親しみを込めた優しい笑顔を生徒たちに向けた。
「私たち王立魔術師団が君たちに力を授けよう」
生徒たちがざわめく。本当なのかと動揺する。
「私は君たちに約束する。最初こそ辛いものかもしれないが、必ず我ら王立魔術師団の一員にふさわしい魔術師に育ててみせることを!」
レナードの言葉が事実ならば、王立魔術師団の一員として迎えられるのだ。
卒業後の心配をすることなどなく――いいや、卒業できるかどうかさえもう不安はなくなる。
「俺を王立魔術師団に入れてください!」
誰かが叫んだ。
「私もっ、私のレナードさまのもとへ!」
続いて生徒が声を張りあげていく。
生徒の熱は次々と電波し、炎と化す。誰もがレナードのもとで学びたい、王立魔術師団員になりたいと叫び続けた。
「……まずくないか、いくらレナードさまとはいえ勝手に――まさかこんなことを学園が許可するはずがない」
「ならばレナードの独断ということになるが、あの男の……いったいどのようなつもりでこうも無駄なことをする?」
「どういう意味だ、ラーズ?」
レナードの行動を無駄だと言いきった友人に問うと、ラーズは惜しげもなく言った。
「ラウレンツやジャレッドのような魔術師を部下にしようとするのなら、独断であってもする意味はある。むしろ、優れた人材を他に取られないためには強引にことを進めるくらいでいい。しかし、魔術師に限定するとはいえ学園の生徒を全員集める意味があるのか?」
「それは――」
「はっきり言ってないだろうな。毎年挫折する人間がいるが、なにも学園側だけが悪いわけではない。だが、あの男は全員を王立魔術師団員として迎えると言っているのだ。そもそも、王立魔術師団は国のものであり、奴の私物ではない」
はじめて見るラーズの憤りに、唾を飲み込んだ。
普段の態度から忘れかけていたが、この変わり者の友人は――。
「魔術師の未来のために、この国のために――私とともにいこうではないか!」
ラウレンツたちの声が歓声によってかき消されてしまう。
このまま熱気に包まれる中庭にいても会話すらできないと判断し、友人二人の腕を掴んで離れることにした。
「やれやれ。あの男の言葉に生徒たちは夢中だな」
「無理もないだろう。あの方は、宮廷魔術師に次ぐ地位を持っているんだ。僕たち魔術師にとって理想なんだ」
「だが、その理想もなにやら動きがきな臭いではないか。私が知る限り、王立魔術師団が学園にくることにはなっていない。つまり独断だ。そして生徒を勝手に団員にするなど言語道断だ」
「それは、そうなんだが」
王立魔術師団員になるには入団試験を受ける必要がある。実施試験で実力を認められた中から、魔術師協会と王立魔術師団幹部によって合否が決まり、はじめて団員となれるのだ。決して団長だからと勝手に決めていいことではない。
なによりも未熟な生徒を――どのような待遇で招こうとしているのかはさておき、学園と保護者の許可もなく、団員にしていいはずがない。
なぜ団員となるのに試験があり、複数人によって合否がなされるのか――それは、王立魔術師団が携わる任務が危険を伴うからである。
王立魔術師団に憧れるのはわかるが、それらを理解せず降ってわいたチャンスに熱をあげている生徒たちでは実力ももちろんだが、心構えも団員には相応しくないだろう。
「ねえ、ラーズくん、ヘリングくん。あの人は魔術師のため、国のためにって言っていたけど――じゃあ他の人たちのことはどう思っているんだろうね」




