ここに留まる
「レブランド様……?」
「ずっと、ずっと君を探していた。四年半ずっと……まさか子供まで…………」
四年半ずっと探していた?
どういう事だろう。ヴェローナ様と結婚したのではないの?
私が2人の邪魔をしていたはずなのに。レブランド様は賭けにも勝って、悠々自適に暮らしているとばかり思っていたのに。
どうしてこんなに必死になって――――混乱する私をよそに、アルジェールが身をよじり、レブランド様の腕からすり抜けた。
「ぷはぁ!」
「す、すまない、アルジェール」
「? あ――――カッコいいきしさまだ!!かぁさま、きしさま来てくれた!」
「え、ええ。そうね、よかったわね」
アルジェールは、自分のもとに先ほどの騎士様が来てくれたと大喜びしている。
混乱してしまうでしょうから、本当の事はまだ話すべきではないわね。
そこへリイザさんもやって来て、レブランド様に言葉をかけた。
「騎士団長様、あなた様の言い分は分かりました。でも我々も彼女達の事を大切に想っているんですよ。いきなり現れて連れて帰るなんて横暴じゃないですか?」
「え?!」
「カタリナは戻りたいのかい?」
「いいえ」
リイザさんに聞かれ、キッパリと、そしてハッキリと伝えた。
彼の為に自分から出て来たのだ。
今更戻りたいなどと言える立場でもないし、自分の居場所ではない邸に突然連れて帰ると言われて、そうですかと言う風にはならないわ。
「レブランド様、なぜあなたがここに来たのか分かりませんが、私には今の暮らしが大切なのです。必要であらば離縁書をまた書きますしアルジェールに会いに来るのは構いませんが、邸に戻るつもりはありません」
「そうか……」
ここまでハッキリと伝えれば帰ってくれるわよね。
身を切られるような想いをしながら書いた離縁書……あれをまた書かなくてはならないのは気が進まないけれど、あの邸は私の居場所ではないから。
これで全てが終わり、そう思ったのに。
レブランド様から、予想もしていなかった言葉が放たれた。
「分かった。それならば私がここに残る。君たちが帰りたいと言うまでそばにいるとしよう」
「え?」
「わぁぁい!」
「ちょっ、ちょっと!どういう事だい?!」
「どうなってるんだよ!!」
「団長――!!」
彼の言葉に色々なところから悲喜こもごもな声が上がる。
アルジェールはよく分からないけど憧れの騎士様がいてくれるから喜んでいるわね。
リイザさんやラルフは混乱しているし、騎士団の方々も慌てている。
でも当の本人であるレブランド様だけは落ち着いていた。
そして入口付近にいる騎士団の方々に何かを伝えると、騎士団の方々はそのまま去って行った。
「先ほども伝えた通り、私もここに留まり、君たちを取り戻す努力をする事にした。パン屋の方々もよろしく頼む」
「は、はあ……」
ラルフは呆気に取られた返事をしている横で、リイザさんが思い切り笑っている。
「あっはっはっ!面白い人ですね、騎士団長様は!」
「レブランドでいい。カタリナの大事な人は私にとっても大切な人だ」
「ありがとう。じゃあレブランドさんもパン屋を手伝っておくれよ。お兄さんが手伝ってくれたら売り上げ上がりそうだからさ」
「母さん!!」
「リイザさん、それは……!」
慌てる私とラルフをよそに、レブランド様は何か思案している様子を見せた後、すぐに快い返事をした。
「相分かった。そうするとしよう。ここで働けばカタリナやアルジェールにも会えるしな」
「そうそう!ちょうどいいだろ?」
「ではその間、ここに住まわせてもらおう」
「もちろんOKだよ」
どうなってるの……相手は鬼神と言われるジグマリン王国の騎士団長であり公爵様なのに、パン屋のお手伝いって。
それよりも邸に戻らなくてもいいのかしら。
帰りを待ってる方がいるのでは?
なぜか喉まで出かかった言葉を口にする事が出来ない。
一つ言える事は、私に今の彼の意思を変える事は出来ないという事だった。
でも彼の目的がアルジェールだったら諦めてもらわなくては困る……息子を奪われるのだけは絶対に阻止しなくては。
ひとまず今日は自宅へ帰るしかなさそう。
疲れた……色々と話はまとまったと思うと、ドッと疲れがやってきてしまう。
「じゃあ、今日は私達帰りますね」
「ああ、また明日ね!」
「カタリナ、送るよ」
いつものようにラルフが申し出てくれるので頷くと、ふいにレブランド様に腕を引かれたので振り返った。
「ラルフとやらが送る必要はない。私が送るのだから」
「なっ!俺がいつも送っているんだから俺が送る!」
「必要はない」
「もう二人とも……」
「めっ!!」
私の代わりにアルジェールが間に入って、二人にお叱りをしてくれたようだ。
「ごめん……」
「すまない……」
「あっはっはっ!アルが一番大人だね!皆で行けばいい、レブランドさんは二人の家を知らないんだし」
「感謝する」
こうしてなぜか、私とアルジェール、ラルフに加えてレブランド様も一緒に自宅へ向かう事となった。
その道すがら、可愛い息子はラルフとレブランド様に両手を持ってもらい、宙に浮いたりしてはしゃいでいる。
「きゃ――――っ!!」
「そらよっと!」
「………………」
レブランド様は小さい子供をあやした事がないのか、無表情のままアルジェールを持ち上げていた。
はしゃいでいる息子が可愛い。
レブランド様の無表情を見ても怖じ気づかないアルジェールは大物かもしれない。
大人二人に構ってもらえてとても満足したのか、心なしか息子の表情がいつもより明るい気がする。
もしかして心のどこかで父親だと気付いているとか?
いつまでも隠してはおけないので、どこかのタイミングで伝えなくてはならないわね……今はまだ早いけれど、ここにいる内に伝えたいとは思っていた。
パン屋から歩いて15分ほど離れたところに小さな木造二階建ての家があり、そこでアルジェールと二人、細々と暮らしていた。
庭には少し畑もあって、お野菜を育てたり、花壇を作ってお花を育てたり。
私たち二人にとっては小さなお城だ。
「二人とも、ありがとうございます」
「ありがとうごじゃました!」
「どういたしまして。ここに住んでいるのか?」
「ええ」
「私も一緒に……」
「さぁ、レブランドさんは帰りましょう!」
何かを言いかけたような気がするけど、ラルフが腕を引いて連れて行ってしまったのだった。
「ばいばーい!」
アルジェールは二人に向かって元気に手を振っている。
息子がいてくれるおかげでレブランド様との間がなんとかなっている気がするわ。
まだ何を話せばいいか気まずいけれど、ここにいる間に少しでもお互いの本音を話して、彼が彼の人生を歩めるようになればいいと願った。
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