第50話 助けたい理由
私は激怒していた。邪智暴虐な王の、理不尽な要求とユーリさんへの扱いに。
しかし、私は、かのメロスのように無策で王城に乗り込んだりはしない。私が知り得る知識をすべて使って、ユーリさんのいる地下牢までたどり着く。
そう。お風呂設置のために得た、王城の抜け道に関する知識を使って!
私は、王城の周りを取り囲む城壁の左側へと向かった。城壁の左から25番目の煉瓦、一つだけ外れるようになってるのよねぇ。
一つだけだから狭いし、そこから入ることは困難だ。私でギリギリくらい。
ルークは入れそうにないから、お父様のところに行ってもらったのよね。
私は煉瓦を外して、城壁の中へと入って行った。そして、兵士が配置されていない場所を探し、開いている小窓から王城の中へと入る。
そこから先は「ここお風呂設置できそうって思ったのよね」とか「この先の通りは、王族関係者が住んでるところだから、お風呂は設置出来ないって思ったのよね」とか考えながら、地下牢に向かって進んで行った。
そして、ようやく地下牢に辿り着いた。しかし、地下牢の前では二人の兵士が見張りをしていた。
流石に、ここには抜け道はない。兵士たちの気を逸らすしかなさそうだ。
私は視線を彷徨わせて、何か打開策はないかと探る。すると、辺りを照らす蝋燭が目に入った。これは使えるかも……。
私は小声で「火よ、ここ一帯を照らす蝋燭をすべて燃やせ」と呟く。すると、蝋燭の蝋があっという間に溶けて、辺りが暗くなってしまった。
「お、おい! どういうことだ⁈」
「暗くて何も見えない!」
「とりあえず、蝋燭の様子をみてみるぞ!」
そう言って兵士たちが扉の前を離れた隙に、私は地下牢へと続く扉をそっと開けて、中に入って行った。
地下牢の中に入って、気づいた。ここには、ユーリさんの他には誰も収監されていないみたいで、人の気配がまったくなかった。
そもそも、ここは使われていない牢屋だったはずなのよね。そんなところにユーリさんを収監するなんて、酷いことだ。
しばらくして、人の気配のある牢屋に辿り着いた。牢屋の中は暗くてよく見えないが、私はそっと声をかけてみる。
「ユーリさん……?」
私の声に牢屋の中にいる人物がピクリと反応した。そして。
「その声は、リディア嬢か……?」
「そうよ! ユーリさんを助けに来たの」
「なぜ……」
しかし、ユーリさんは嬉しくなさそうに呻いた。
「国王の狙いは君だ、リディア嬢。君を誘き寄せるために、俺は閉じ込められているだけなんだ。だから早く逃げた方がいい」
「罠かもしれないってことくらい、分かってるわよね。でも、助けたかったの」
私は牢を開けようと試みるが、なかなか上手くいかない。すると、珍しくユーリさんが声を荒らげた。
「早く逃げてくれ、リディア嬢!」
「嫌よ」
「お願いだから、言うことを聞いてくれ!」
「絶対に嫌!」
早くしないと、地下牢の外の蝋燭が消えたことを不審に思った兵士たちが、ここまで入ってきてしまうかもしれない。
私は焦り始めた。
「リディア嬢! 言うことを聞いてくれ!」
「嫌、絶対に助けるんだから!」
「なんでそこまで頑ななんだ⁈」
「そんなの……ユーリさんが好きだからに決まってるじゃない!!!」
開かない牢にイライラして、思わず言ってしまった。
ああ、もう! 牢屋で告白ってムードも何もない……。
私はヤケクソになって、言葉を続けた。
「ユーリさんが好きだから、助けたかったの。好きだから、必死でここまで来たの。察してよ!」
「す、すまない……?」
私の逆ギレに、ユーリさんが謎に謝っている。私たちの間に気まずい沈黙が流れるが、ようやく冷静になってきた。
そして、牢屋を開ける……いや、壊す方法を思い付いた。
「ちょっと待ってて。今、牢屋を壊すから」
「は?」
手に火魔法を集めて、極限まで熱い状態にする。そして、そのまま牢屋の鉄を触った。
火の熱で鉄が溶けて、変形していく。いくつかの鉄に触れて変形させることで、人が一人通れるくらいの抜け穴が完成した。
私はそこを通って、牢屋の奥に座り込んでいたユーリさんに手を伸ばした。
「ユーリさん。もしよかったら、ユードレイスへ帰りましょう。みんながあなたの帰りを待ってるわ」
「リディア嬢……」
彼が私の手を掴もうとした、その時だった。
「帰るのは許さないぞ。リディア嬢も、ユリウスも」
「……!」
振り返ると、そこには国王陛下が立っていた。
ユーリ視点から見たリディア
リディア「ちょっと待ってて。今、牢屋を壊すから」メキメキメキッ、メキッ
ユーリ(す、素手で牢屋を⁈ リディア嬢は怪力だったのか……⁈)
完結まであと3話です。あと少しですが、よろしくお願いします。




