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第31話 お出迎え




「リディア様、手紙のお返事が届いてますよ」

「本当⁈」


 リーナが持ってきてくれた手紙を受け取る。差出人のところには、「ロバート・ハミルトン」と父の名前が書かれていた。

 そう。私が王都で影響力のある人を紹介して欲しいと頼んだ相手は、他でもない父である。


 急いで父からの手紙を開封して、読み始める。


『手紙をありがとう。私を頼ってくれて嬉しく思う。リディアの話を何人かにしたところ、スミス侯爵家のローズ・スミス夫人が興味を持ってくれた。そちらに準備があるなら、すぐにでも訪れたいとのことだ。事が上手く進むよう、健闘を祈る』


 父の手紙には、スミス夫人を紹介する旨が書かれていた。


 スミス夫人は、私も社交界にいた時は、少しばかり交流があった方である。


 スミス侯爵家は、ハミルトン公爵家の派閥に入っており、夫人は同年代の女性一派をまとめる立場にいる人だった。当然、一派の中での発言権は強く、流行や社交界での動向にも聡い彼女を慕う者も多い。


 正直、社交界での評価を大切にする人だから、「婚約破棄&追放された悪女」である私の事業に興味を示してくれるとは思わなかった。


 きっと父が私の評価を変えるために裏で動いてくれたのだろう。


 誰よりも私の味方でいてくれる父に感謝である。……ちょっと存在忘れちゃってたとか、そんなことあり得ないわよね!


 というわけで、スミス夫人をユードレイスで迎え入れることになった。



⭐︎⭐︎⭐︎




「ほ、本当に私が案内するの⁈」


 不安そうな顔で私の袖を引っ張っているのは、エレンさんである。


 今回、スミス夫人の観光案内をする人として、エレンさんに頼んだ。


 彼女ならユードレイスの魅力をよく知っているし、(ユーリさんと結婚した時のために)貴族の作法も習ったことがあると言っていたので、適任だろうと思ったのだ。


 何より、彼女は「自分の力でお父様を助けたい」というやる気がある。


 最初は、快く引き受けてくれた彼女だったが、当日になって不安になってきたらしい。


 必死に私の袖を引っ張っている彼女は、若干涙目だ。


「あ、あ、あなたが案内した方がいいんじゃないかしら⁉︎」

「私は風呂カフェでスミス夫人をお出迎えする準備があるから、無理なのよ。あなたを紹介するために、最初だけ一緒にいてあげるから」

「そんなぁ」


 彼女はずっと不安そうにしている。仕方がない。彼女にいい情報を教えてあげよう。


「それに、スミス夫人に気に入られたら、王都のいい男を紹介してもらえるかもしれないわよ」

「え⁈ 私、頑張るわ!」

「……」


 彼女は、現金にも覚悟を決めたようで、背筋をピンと伸ばした。


 街の入り口でスミス夫人の到着を待っていると、やがて一台の馬車がやって来た。馬車の扉が開き、降りて来たのは、他でもないスミス夫人である。


 すぐに私は彼女の前に進み出た。


「スミス夫人、お久しぶりです。お会いできて光栄ですわ」

「お久しぶりね。色々と大変だったと公爵様から聞いているわ。今日は、流行の最先端があると聞いて、ここに来たの。案内をよろしくね」

「ありがとうございます。案内はこちらのエレンが行いますので、よろしくお願いします」


 私が紹介すると、エレンさんは優雅にカーテシーをした。先ほどまでの緊張っぷりが嘘のようだ。


「エレンです。本日は、よろしくお願いいたします」

「ええ、よろしくね。それにしても……思っていたより、この土地は寒いわね」

「それでしたら、まずはユードレイス領の衣服専門店に行きましょう。私が案内しますわ」

「あら、ありがとう」


 エレンさんがスミス夫人を案内するのを見送る。ユードレイス領の衣服専門店は、魔物の毛皮を使ったものもあり、寒さ耐性のある洋服が取り揃えられている。

 エレンさんなら、その辺り詳しいだろうし、安心して任せられるだろう。


 スミス夫人が風呂カフェを訪れるのは、最後の夜になる予定だ。それまでにおもてなしの準備をしなければならない。


 私は急いで風呂カフェに戻っていった。


「リーナ、ルーク、ただいま」

「おかえりなさい。どうでしたか?」

「大丈夫そうね。こっちは、スミス夫人の到着に間に合うように準備をしなきゃ」

「掃除はしときましたよっと」

「ありがとう。あとは料理とお風呂ね!」


 料理はユードレイス産の具材をふんだんに使ったシチューと大豆パンを提供しようと思っている。

 シチューは寒い日にはピッタリだろうし、ユードレイス名産の牛乳やチーズをたくさん使うから、いいアピールになるだろう。

 大豆パンも、ユードレイス産の大豆を使っているし、最近はダイエット食品として、風呂カフェでも人気のメニューになっているから、流行に敏感なスミス夫人にちょうどいいだろう。


 そして、お風呂場に行って……。


「いでよ、火の力で温まった水」


 と唱えて、お湯を張る。すぐにお湯を準備できるから、本当にこの魔法は便利よね。


 更に、スミス夫人にぴったりのアロマオイルを2つ用意しておいた。


「これは何ですか?」


 スミス夫人の前でお風呂に入れるつもりの物を用意していると、後ろからルークが覗き込んできた。


「ローズの花よ」

「なぜ、ローズを選んだんですか?」

「ふふ。それはね……」


 その時だった。


「キャーーーーーー!!!」


 外から悲鳴が響いた。私はリーナとルークを連れて、すぐに外に様子を見に行く。そこには……。



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