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第27話 サウナ風呂ダイエット




「もうううううううるるるるるさいのよおおおおおお」


 という叫び声と共に、ガチャリと扉が開かれた。


「あ、ようやく顔を出したわね」

「顔を出したわね、じゃないのよ! 毎日毎日扉の前でお風呂のことを語られるこっちの身にもなりなさいよ! 気が狂うかと思ったわ!!」

「ほら、楽しい話をしていれば、気になって出て来てくれるかなって思って……」

「逆よ! 怖かったし、恐怖しかなかったわ!!」

「えぇー……」


 実は、この行動を続けたのには理由があって、前世の日本の神話を思い出したためである。

 太陽の神様が引きこもってしまった時に、外で楽しくどんちゃん騒ぎをすることで、太陽の神様が外の様子が気になってしまって、外に出て来てくれたっていう、天照大神の有名な話だ。


 要は、外の世界が楽しそうだったら、外にも出たくなるということ。


 元々お風呂に興味持ってたみたいだし、お風呂の話をしていれば、出てきてくれるんじゃないかなと思っただけなんだけど。


 なんか思ってた反応とは違うけど、まあ、結果オーライだろう。


 彼女は、扉を少し開けて警戒したようにこちらを見ている。あんまり姿が見えないんだけど、前に見た彼女と少し……いや、かなりフォルムが違うような気がして……。


「ねえ、もう少し扉を開いて、姿を見せてくれると嬉しいんだけど」

「い、嫌よ……」

「何がそんなに嫌なの?」

「……」

「ちなみに扉を閉めた場合、またお風呂の話を続けるわ」


 扉の向こうで、彼女はうっと呻いた。もうエンドレスお風呂話は聞きたくないらしい。


 少しの間があった後、彼女は意を決したように口を開いた。


「……ったの」

「え?」

「だから〜〜〜、太っちゃったの!」


 そう言うなり、彼女は大きく扉を開けた。すると、以前見かけた時よりもかなり体がふっくらとなったお嬢様が出てきた。


「失恋したから、やけ食いしたの! 毎日食べ続けて、そしたらすごく太って、ますます外に出られなくなっちゃったの〜〜〜」


 彼女はその場でうずくまる。耳を真っ赤にして顔を隠す彼女を見て、私とその場に立ち会っていた執事さんは顔を見合わせた。


 私はうずくまる彼女に話しかける。


「失恋って? ユーリさんのこと?」

「そうよ。ずっと私を婚約者にして欲しいって伝えていたのに、この間、“気になる人がいる”って振られちゃったの……」


 彼女は項垂れている。その姿を見て、執事さんは「あちゃ〜」という顔をしていた。


 ……そうなんだ。ユーリさんって、好きな人がいるのね。婚約者はいないって聞いていたから、好きな人がいる可能性なんて考えたことがなかったわ。


 エレンさんは、うずくまったまま私を睨みつける。


「どうせ、失恋なんてくだらないって言うつもりなんでしょ。そのくらいで落ち込んでって」

「とんでもないわ。失恋すると世界が終わるかと思うほど辛い……って人から聞いたことがあるわ」

「実体験じゃないのね」

「……」


 ゴホンと咳払いをして、話を続けた。


「とりあえず、あなた風呂カフェに来なさい」

「は? なんでよ」

「ダイエットするからに決まってるでしょう」


 目をパチクリとさせる彼女に、私は不敵に笑ってみせた。


「風呂カフェに新装されたサウナは、ダイエットに最適なのよ」





⭐︎⭐︎⭐︎




 その後、私はエレンさんを風呂カフェまで連れて来た。彼女は、フードを深く被って、キョロキョロしている。


 営業していない風呂カフェに入るなり、彼女は不満げに声を上げた。


「何なのよ、外になんか連れ出して。友達にこんな姿見られたらどうするのよぉ」

「姿を見られる前に痩せればいいのよ。サウナ風呂に入れば、簡単に痩せるから」

「……本当に?」

「本当よ。とにかくサウナ風呂に入るわよ。実は昨日、工事が終わったばかりなのよ」


 彼女の手を引いて、サウナ風呂へと案内する。木のぬくもりを感じる密閉された空間に、窯の上にはサウナストーンが置かれている。


「この場所を温めている間に、先に体を洗ってしまいましょう」


 石窯に魔法で火をつけて、サウナの中を温めておく。恥ずかしがるエレンさんに服を脱ぐよう促し、浴場へと入る。ちなみに執事さんは外で待機してもらっている。


「な、何なのよ、ここは……!」


 浴場に入るなり、エレンさんは驚いて声を上げた。


「こんなに広い空間で何人もの人が体を洗うってこと?」

「そうよ」

「というか、あれは何⁈」

「あれがお風呂よ。温かい水に浸かると気持ちいいわよ〜」

「あんなに大量の水を温めるなんて、すごいお金がかかるんじゃないかしら⁈」

「私の魔法で出してるから、お金はかからないわよ」

「魔法で出すの⁈」

「そうよ。まあ、今日はこっちのサウナ風呂に入るわよ」


 サウナの中は充分に温度が高くなっていた。


 サウナは上段と下段に座る場所がある。上段の方が体感温度が高くなるため、前世で慣れている私は上段に、初心者のエレンさんは下段に座らせた。


 サウナストーンに水をかけると、むわっと湯気が発生し、その熱気で体温がぐんぐん上昇していくのを感じた。肌からじんわりと汗が滲んでいく。


「ふぅーーー」

「あ、あついわね……」


 そんなこんなで大体5分ほどサウナに身を置きいた後に、私は立ち上がった。


「よし。次、水風呂に行くわよ」

「え? ここにずっといないの?」

「ええ。冷たい水風呂とサウナ交互に入ることで効果が出るんだから」


 かけ湯で汗を流してから、2〜3分ほど水風呂に入る。


「よし、またサウナに入るわよ」

「またなのね⁈」


 体をサウナで温めて、水風呂で冷やしてのセットを何回か繰り返す。熱さと寒さのスパイスが気持ちいいわ〜。


 そうして初めてのサウナ体験が終わり、風呂上がりの脱衣所で、エレンさんがポツリと呟いた。


「ちょっとだけ痩せた……気がするわ」

「あ、それ気のせいよ」

「は?!」

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