第16話 騎士団長、はじめてのお風呂
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎以降、リディアに視点変更します。
俺の名前はユーリ・ウィギンズ。スライムを倒してくれたリディア嬢にお礼を言うために、彼女が経営しているというカフェにやって来た。
最初はお礼を言うだけで、すぐに帰ろうと思ったのだが……。
『せっかく来たんだし、うちのお風呂に入っていかない? 絶対に疲れが取れるから』
彼女から勢いよく提案をされて、思わず頷いてしまった。
しかし、彼女が言う“お風呂”とは何なのか。皆目見当がつかない……。
俺は彼女に言われるがまま、「男湯」と書かれたカーテンをくぐってみる。
『脱衣所』と書かれた看板の指示に従って服を脱ぎ、案内の示すままに、すりガラス状の扉を開いた。
果たしてその先には、異世界が広がっていた。
「なんだ、ここは……」
一列に体を洗うための場所が並んでおり、その全てに鏡が取り付けられている。一面に水が張られた場所には、湯気が立ち上っている。
何人もの人間が水浴びすることを想定しているのか……?
これだけの量のお湯を毎日沸かすことが出来るのか……?
様々な疑問が浮かんだが、『まずは、受付で渡されたスポンジと石鹸で体を洗って下さい』という案内に従って、水浴びを始める。
そして、『体を洗い終わったら、右にあるお風呂に入ってみましょう。熱いので、お気をつけ下さい』という案内看板通りに、“お風呂”というものに入ってみることにした。
恐る恐る右足からお湯に入ってみる。
「……!」
最初は“お風呂”の熱さに驚いたが、慣れると、ちょうどいい温度だ。そっと肩までお湯に浸かってみる。
温かいお湯に身体中の筋肉が弛緩するのを感じた。ぐっと身体を伸ばして、ほっと息を吐く。
「疲れたな」
思わず呟いてしまった、自分の言葉に驚く。俺は疲れていたのか、と改めて自覚した。
今日の出来事を思い出す。
住宅地域に魔物が侵入しないよう、定期的な討伐、管理。急な魔物の討伐要請への対応。住民からのクレームへの対応。辞めたいと言う部下の説得。団長室に積み上がっていく書類……。
ああ、今日も忙しかったなと実感する。
けれど、“お風呂”に入っていれば、全てがどうでもよくなってくる。全ての疲れが温かいお湯で浄化されていく……。
「い、癒される……」
俺は初めて入った“お風呂”に感銘を受けて、天を仰いだ。
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ユーリさんが来てから他のお客さんが来店することはなかった。すると、ジト目のルークが私に話しかけてきた。
「さっきのリディア様、勢いが凄まじかったですよ。ああいう言動で好意があるって勘違いされることもあるんだから、気をつけて下さいよ」
「何言ってるの? それくらいで勘違いする人いないでしょう。それに、疲れてる人にお風呂を布教する方が大切よ」
「それもそうなんですけど……」
煮え切らない返答だ。私はずいっと彼に近づいた。
「何よ。文句あるなら言いなさい」
「別に何でもないですけど」
ルークは目を逸らしつつ、口を尖らせた。長年一緒にいるから分かる。何か言いたいことがある時の表情だ。
「本当に何でもないです」
しかし、ルークはそう言って、奥に引っ込んでしまった。彼は何を言いたかったんだか。
しばらくして、ユーリさんがお風呂から出てきた。
「温まった……」
彼は初めてのお風呂体験に、ぽやぽやしているようだった。その反応、分かる。お風呂上がりって気持ちよくて、ぽやぽやしちゃうよね。
「おかえりなさい。どうだったかしら?」




