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7回目の死の真相がわかったかもしれません

そんな出来事から2日後。

「アンネローゼ様、アゼリア・イツアーク伯爵令嬢様がお目通りをご希望でいらっしゃいます」

「え?」

今度はアゼリアが何の前触れもなく自ら私を訪ねてきた。

けれどまだアゼリアからのメッセージを読み解けていなかった私は大いに焦る。

解けていないなら素直にそう言えばいいだけではあるが、仮にも「貴女に忠誠を誓います」と言われた立場である。

自ら望んでのことではないとはいえ、その相手にそう言うのはなんというか、恰好悪い気がするのだ。

かと言って居留守を使うわけにもいかない。

まあ、陛下に珠姫と呼ばれるくらい優秀なアゼリアの頭の中など私に完全に理解できるわけがないのだから仕方がないか。

そう考え直して面会の許可を出し、諦めのため息を吐きながら私はすごすごとソファへ移動した。

「アンネローゼ様、急な来訪失礼いたします」

エルに連れられて部屋に入るなりスッと礼を取るアゼリアは、ゆったりと優雅な礼を取るマリー様と違って機敏且つ凛とした印象だ。

どちらが勝っているということではないが、彼女も完璧な淑女教育を受けていることに妙に衝撃を感じる。

逆に礼も取らずにずかずか部屋に入ってこられた方が余程『らしい』とさえ思ったかもしれない。

「気にしなくていいわ。それで、今日はこの間ハリスが持ってきた異国見聞録の件かしら?」

「はい」

私の勧めに従って向かいに腰掛けたアゼリアは早速と侍女に預けていた鞄から一冊の本を取り出した。

ちらりと見えた深い青に金の縁取りの表紙はなんだかひどく既視感のあるものだった。

「こちらはあの本と同じ著者が記した『各国逸話大全』という本です」

ずいとこちらに差し出されたそれをちゃんと見て、一気に記憶が蘇る。

「あ、それ知ってるわ」

それこそ7回目くらいの人生でお世話になった座長が読んで聞かせてくれた本だ。

記憶にあるものよりも綺麗な状態を保っているが、それは常に懐に忍ばされている本と書庫でしっかりと保管されている本の違いだろう。

パラパラと頁をめくると、幾つか知っている話が目に付いた。

「え、ええっと、アンネローゼ様?その、本当にこちらの本をご存知で?」

「ええ、生前というのも変だけれど、何度か前の人生でお世話になった旅の一座の座長がこの本を持っていたから、読ませてもらったこともあるわよ」

「ええええっ!?」

エルに聞こえないよう声を潜めて言った私の言葉にアゼリアの素っ頓狂な声を上げる。

先ほどの礼よりもさらにらしくない態度に本に視線を落としていた私が「え?どうしたの?」と顔を上げれば、馬が躍り出したのを目撃したような顔をするアゼリアと目が合った。

「この本、内容もご存知ならおわかりかと思いますが、為政者にとっては非常に不都合な内容を多分に含んでおりまして、発売後すぐに発禁となったため現存しているものは100冊に満たないと言われている希少本なのですよ」

「え?」

アゼリアの説明に私は再び手元の本に目を落とす。

表紙や背表紙を矯めつ眇めつしていると「だからこそ」とアゼリアが顎に手を当てた。

「座長さんとやらがどのようにして入手されたのか存じ上げませんが、一介の旅芸人がそれだけ希少な本を持っていらっしゃったとなると、色々とその、危険…なのですよ」

二重の意味で言い難い事実を隠すように私同様声を潜めてそう言ったアゼリアの言葉で私はハッとする。

まさか一座が盗賊に襲われたのはこの本が原因だったのではないだろうかと。

だってこの本を使えばもしかしたら貴族の弱みが握れるかもしれないわけだから、握りたい方にとっても握られたくない方にとってもこの本は喉から手が出るほど欲しいはず。

そんな人達がもしこの本を座長が持っているという噂を聞いたら…。

「なるほど、だからあの手際の良さ…」

私は襲われた時の妙に用意周到な、確殺を狙っていたかのような過剰とも言える襲撃を思い出してぐっと拳を握る。

「その可能性は高いと思われます」

以前の私の回顧と今のやり取りから結論を出したアゼリアが肯定するならば、ほぼ間違いない。

あの一座はどこかの貴族か貴族の弱みを握ろうとした何者かに襲われたのだ。

こんなところで数度前の自身の死因が明らかになるとは思っていなかったが、同時に今知られてよかったとも思った。

だってまだこの世界線であの事件は起きていない。

今世でも彼らと接点があるかはわからないが、もし出会えたなら座長にこのことを伝えてあげられる。

そうすれば一座は今世では襲われなくて済むかもしれない。

今は見ず知らずの他人でも、私は過去に自分を救ってくれた彼らに恩義を感じているし、返せる機会があるなら返したいとずっと思っていた。

願わくばその機会が訪れることを。

「……ごめんなさい、話が逸れてしまったわ」

「いえ」

どうなるかはまだわからないけれど、それを考えるのは後でいいと気を取り直してアゼリアがこの本を持ってきた本題に入る。

私はアゼリアに本を返し、話を聞くべく姿勢を正した。

そしてエルが淹れてくれたお茶で気持ちを落ち着けていると、

「実はこちらにあの見聞録の続きが記載されていたのです」

と栞を挟めた頁を示した。

「これに…?」

ごくり、と口内に残っていたお茶の余韻を唾で飲み込む。

まさか前世で散々読んでもらった本に自分の繰り返しのヒントが記されているなんて思ってもみなかった。

もちろん全てを読んでいたわけでもないし、読んでいたものとて完全に記憶しているわけではないし、何よりそこまで注視していなかったのだから、あったとしても不思議ではないのだが。

私は「ここからどうぞ」と再度アゼリアが差し出す本を今度は恐々と受け取り、まるで爆発物でも扱うかのような慎重な手つきでそっと頁をなぞった。

読了ありがとうございました。

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