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「これはご機嫌取りのつもりですか?」
私を暗殺しようとした令嬢は牢屋に入れられた。
彼女がアヘンをしていたことから今、邸内をくまなく騎士たちが調べている最中だ。
この先の処分はまだ決まっていないが、テレイシアの王女でノワールの婚約者である私を暗殺しようとしたのだ。彼女は処刑されるだろう。
両親は監督責任を問われて最悪死罪。よくて流刑だろう。彼女には兄弟がいるそうだが、家督を継ぐことはできない。
貴族位を剥奪され、領地は没収されるかもしくは親戚が継ぐことになるだろう。
そしてひと段落を終えた頃にノワールが美味しいお菓子と花を持って私の部屋を訪ねて来た。
侍女と護衛は下がらせているので今は部屋に二人きりだ。
「それもあるし、謝罪も含まれている」
「あら、何に対する謝罪ですか?」
「言わなくても気づいているだろう」
カルラの淹れた紅茶を飲みながらノワールが私を見る。
「ノワールはリーゼロッテ皇女を最終的にはどうするおつもりですか?」
今回の件でリーゼロッテは社交界での地位を失った。彼女は年齢的にまだ社交界デビューを果たしてはいない。先王の件でバタバタしていたこともあるだろう。
皇女として最低限の付き合いがあるだけだ。
これから社交界デビューをして、皇女として有力な貴族との繋がりを持つために動かなくてはならなかった。
でも不用意な発言で他国の王女を意図せずに貶めてしまった彼女と親しくなろうという貴族はいないだろう。
誰も要らぬ火の粉は浴びたくはないだろうし、たかが栗を拾うために火中に手を突っ込んだりはしないだろう。
火中に貴族が手を突っ込むときは火傷をしてでも拾う価値があると思った時だけだ。だから王族は貴族にその価値を示し続けなければならない。
こうなることをノワールは予測していた。もしくは何らかの手段でそういった現状を作り出してリーゼロッテの地位を失わせるつもりだった。
だからこそ放置した。リーゼロッテの行いを。もちろん、私には自分の護衛以外にノワールがつけていた護衛がいることには気が付いていた。それが倍になっていることも。
「リーゼロッテを排除するつもりですか?」
「エレミヤはリーゼロッテをどう見る?」
「善良な人間。平民であれば幸せに、自分らしく生きることができたでしょう」
「なかなか辛辣だな」
暗に皇族には向いていないという私の言葉をノワールは否定しなかった。
「『平民であれば』、か。だが残念なことに彼女は皇女として生を受けた。平民なら善良だの天然だので許されることでも皇族や貴族では許されない。ただ一つの間違いすら許されないことがある。毒にも薬にもならない娘であればまだマシだった。適当な相手を見繕って他所にやればいいのだから」
でもリーゼロッテは違う。
彼女は無意識に言っているみたいだったけど『心配』という言葉に悪意を乗せてくる。まるで体に絡みつく大蛇のように締め上げて、動けなくする。
悪意なき悪意。
それがリーゼロッテの一番恐ろしいところだ。
「敵のみを殺すのなら問題ない。だが誰彼構わず周囲を巻き込んで自滅するような危険な毒を孕んでいるような娘をどうすべきかは、聡いお前なら言わずとも分かるだろう」
「そうですね。私も同じ王女ですから」
私の言葉にノワールは苦笑した。それがどこか寂しそうだったのは決して私の錯覚ではないだろう。




