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私はカルラが用意したドレスを着た。それはテレイシアのドレスを帝国風にアレンジしたものだった。
とても可愛くて少し気に入ってしまった。
「主様があなた様に合わせて特別にオーダーメイドされたものです」
まさかと思い、クローゼットを見てみるとそこには何着ものドレスが用意されていた。それも、今着ているものと同じテレイシアと帝国のドレスを合わせたようなドレス。特別製だ。
どうしてここまでする必要があるのか。
これでは人質でも客人扱いでもない。まるで・・・・・。
そこまで考えて私は思考を中断させた。ここで憶測を並べることに意味はないからだ。
「それでは参りましょう、エレミヤ様。主様がお待ちです」
「ええ」
私はカルラに案内されて食堂へ行った。食堂には陛下によって解任された私の護衛、ディーノ、シュヴァリエ、キスリング、そして侍女のノルンがいた。
四人は私の姿を見るなり、ほっと胸を撫で下ろしていた。
私も彼らに怪我がないようで安心した。
「ゆっくりと休めたかな、エレミヤ」
上座に座り、優雅に紅茶を飲む男。漆黒の髪に褐色の肌。そして、黄金の瞳。
私は淑女の礼を取った。
「お初にお目にかかります、皇帝陛下。カルディアス王国王妃、エレミヤと申します。この度は合意ではなかったとは言え、帝国に招待いただきありがとうございます」
私の嫌味を込めた挨拶に、ノワールは愉快そうに喉を鳴らして笑った。
私は彼に勧められたので取り合えず席に着くことにした。
「あながち初めてでもないだろう」
「そうですね。最初は誘拐された時でした。お助けくださり、ありがとうございます。どうして王国内に潜入していたのかは敢えて聞きません」
「正式に名乗ってはいなかったな。俺はエルヘイム帝国皇帝、ノワール・フォン・レアリア・スチアートだ。歓迎するよ、エレミヤ。まずは祝杯といこうか」
ノワールの言葉を待っていたのだろう。すかさず給仕のものが私とノワールのグラスにワインを注ぐ。
「陛下」
「ノワールで良い」
「・・・・・」
「ノワールと呼べ」
「ノワール様」
「“様”はいらない」
何を考えているのだろう。他国の王族を呼び捨てにできるわけがないのに。この人は陛下とは違う。それぐらいの常識、分かっているはずだ。敢えて無視しているのはここが公式の場ではないから。そして、私は彼に正式に招待されたわけでもない。
だからこそ余計に分からない。
「俺が許可している。誰にも文句は言わせない」
自信に満ちた顔で彼は言う。命令することに慣れている。生まれながらの王。陛下とは大違いね。
「あのような愚王を夫に持つと苦労するな、エレミヤ」
「コメントは控えさせていただきます」
「お前のそういう所、俺は気に入っているぞ」
「左様でございますか」
ノワールは本当に楽しそうに笑う。でも、油断できない男だ。
「これは、姉の、テレイシア女王陛下も承知のことですか」
「ああ。お前は実によくやった。公爵の力を削ぎ、国民の不満を王家に向けた。それにハクと言ったか?あの者を使って国内にいる反乱分子を集め、指導させていただろう」
ノワールの言葉にノルンたちが息を呑む気配がした。
彼らには何も話してはいなかったからね。彼らの忠誠が王家にないことは知っている。でも故郷を混乱の渦に巻き込もうとしている私を憎むだろう。
国内に家族や友人を持つ彼らには話すことはできなかった。巻き込むわけにはいかない。だから何も言わずに全て一人でやった。後悔はない。たとえ、誰に恨まれようとも。
自らが決めて、実行したのだから。




