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花嫁は王冠を抱いて ~ヴォワ=デートによるカラフルデイズ~  作者: 紙木 一覇


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第06話 ま……って

「出かけている、か? いや違うな」


 件の家、ハイ=ルミナと言う性別不詳・年齢不詳のアーティストのアトリエに辿り着いた頃には空は茜色に染まっていた。つまりはもう夕方だ。道ゆく人々の往来は増えていて、学校や会社から帰る途上なのだろう。

 この時間が流れると夜だ。

 ヴォワにとっては夜もさまざまな色が流れる世界であり明るい街であるものの、ほとんどの人々は眠りに落ちる。人の目が少なくなるのはひ弱なヴォワに不利に働くかもだ。だからなるべく早くことをすませようと思う。


「それにしても」


 家屋全体を()る。オーラのように漂う色は、白・オレンジ・青・緑・赤・黄――数えたらきりがないほどに多色であった。


「これは一体……」

「日を改めますか?」

「ううん。日をまたいでも同じだろう。行こう」


 ベルを鳴らす。一回目。間をおいて、二回目。更に間をおいて、三回目。誰も出てくる様子がない。しつこく鳴らしてやろうかとも思ったけれど怒鳴られたらいやだなと思い直した。

 だから。

 だからヴォワは。

 ひょいっと鉄製の門を乗りこえた。


「ふっ、不法侵入ですよヴォワさまっ」

「色を視るに在宅なのは明らかだ。無視する向こうが悪い」

「それじゃ警察はごまかせませんって」

「冗談だ。気になる色があってね」


 気になる、ですか? 言いながらエアラリスも門をこえる。


「人の意識が途切れた色だ」

「――!」


 つまり。


「ハイ=ルミナ! 入るよ! ドアを蹴破られたくなかったら出ておいで!」


 ドアをノックしながら。

 それでも応える声も体もなく。

 だから。

 だからヴォワは。

 宣言通りにドアを蹴破った。

 色を視て的確な一撃を加えたがそれ以上に蝶番が錆びていたからだろう、存外簡単に壊れたドア。エアラリスはドアを丁寧に立てかけると堂々中に入っていくヴォワを追った。


「ヴォワさまなら普通に開けられたのでは?」

「こちらの本気を理解してもらうためだよ」

「なるほ――あ」

「やはりか」


 リビングとキッチンのちょうど真ん中あたりに女性が倒れこんでいた。黄系・レモンイエローの髪をショートに切ったボーイッシュな女性だった。家の中だからだろうか、ラフなパンツルックで倒れるその女性の表情は苦しそうに歪んでいる。いやさ実際苦しいのだろう。全身が小刻みに震えていて冷や汗も浮かべている。


「エアラリス、救急車」

「はい、連絡します」


 早速携帯電話を取り出して通話を試みる。が。


「ま……って」


 倒れ込んでいる女性からストップがかかった。

 閉じられていた瞼が薄っすらと開いていて緑系・ホーリーグリーンの瞳がエアラリスに向いている。


「だいじょ……ぶ……だから――」

「ぜんっぜん大丈夫そうには見えません」

「そうだね、キミの体を見るに外傷はない。きっと脳が混乱して倒れたのだろう? ハイ=ルミナ」


 弱々しい目がヴォワに向く。向けられた目には涙すらたまっていて緊急性の高さを物語っている。


「……じゃあ……仮面……を」

「仮面か」

「お綺麗な顔を隠すのは勿体ないですよ?」


 ハイ=ルミナの顔にシワはない。シミもない。まだまだ若い女性だ。ひょっとしたら十代かも。顔はエアラリスの言うように美麗で、鼻が高い。唇にはルージュが塗られているけれど下品にならない程度の赤だ。自分をあげるメイク術をしっていると見た。


「まあいいさ。あのテーブルの上にあるやつでいいかい?」

「……」


 そろそろ喋る気力もなくなったのか、ハイ=ルミナは震えながら瞼を閉じてそれを返事とした。

 ヴォワは仮面をとるとハイ=ルミナの顔につけ、そのまま首に指を当てた。脈を確かめているのだ。


「正常だな。命に別状はなさそうだ」

「ヴォワさま、五分以内に来るそうです」

「ふむ、わかった」

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