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【書籍化決定】追放された最強魔導師は、弟子の天才美少女と世界を巡る。~無詠唱魔法で無双しながら弟子とゆったり研究旅行~  作者: 九条蓮


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第11話 ワイバーン討伐依頼

 ギルドの前はすでに人だかりができていた。

 開いたばかりの扉から、怒号と書類の音、魔石通信の明滅が外まで溢れている。いつもなら怠惰な依頼掲示板前も、今朝ばかりは戦場のようだった。

 アルドとエリシャが中へ入ると、受付の前に立つ冒険者たちが一斉に振り返った。低い声が幾つも飛び交い、金属鎧のぶつかる音が混じる。

 その最奥で、赤い巻き髪を揺らしながら書類束を抱えた受付嬢がこちらを見つけた。


「いいところに来たわ、おふたりさん。緊急依頼よ」


 アリアだった。いつもは余裕のある笑みを絶やさない彼女の顔が、今朝はわずかに緊張の色を帯びている。


「ワイバーンか?」

「察しがよくて助かるわ。城壁の全方位にワイバーンが出現していてね。人手が足りなくて困ってるのよ」


 アリアの背後では、補佐の職員たちが慌ただしく地図を広げていた。

 リーヴェの城壁を中心に、北・東・南・西、そして上空の進路まで赤い印がびっしりと並んでいる。

 警鐘が外でもう一度鳴り、床がかすかに震えた。


「全方位ですか……それは大変ですね。こういうことってよくあるんですか?」


 エリシャが訊いた。

 彼女の疑問は尤もだ。アルドも、こういった事態をあまり聞いたことがなかった。

 その疑問を肯定するように、アリアが首を横に振った。


「いいえ、滅多にないわ。少なくとも、リーヴェでは初めてみたい。でも、群れごと移住する時とかにたまにあるらしいのよ」


 アリアは指で地図をなぞりながら説明した。


「南方山脈の火口が活動したせいで、棲み処を追われたワイバーンが北へ流れたの。それで運悪く、移動経路とここ(リーヴェ)が交わっちゃったってわけ」

「なるほど……そいつは本当に運が悪かったな」

「本当にね。お陰で朝からてんてこ舞いよ」


 アリアはうんざりだという様子で、肩を竦めた。

 外からは悲鳴のような鳴き声が微かに届いていた。

 遠雷のような音。翼竜特有の声だ。

 ワイバーン側からしても運が悪いことだっただろう。人間の街の上を通らなければ、互いに無用な戦闘を避けられたのに。


「ランクとしてはC~B推奨なんだけど、ふたりなら行けるわよね? 北方の城壁をお願いしたいんだけど」


 アリアは地図上の北のマーカーを軽く叩いた。

 そこは街の穀倉地帯の近くにあり、もし突破されれば補給路が断たれる場所だ。人員の再配置が追いつかないのだろう。


「ああ、問題ない。すぐ向かう」

「頑張ります!」


 エリシャも立ち上がり、胸元で拳を握った。声には不安よりも使命感が勝っている。さっきの狼狽が嘘のように、目は凛としていた。

 アリアが一枚の許可証を差し出す。

 羊皮紙には刻印とサイン、そして緊急依頼の赤印。受け取りながらアルドは軽く頭を下げた。


「報告は後でいいわ。まずは生きて帰ってきなさい。北方には今、他に三組向かってるけど、どこも手一杯なの。空からの奇襲に気をつけて」

「心得た」


 簡易的に手続きを済ませて、ふたりはギルドを飛び出した。

 朝の光はすでに戦場の色を帯びている。空の高みに黒い点が五つ、六つ。ワイバーンが太陽を裂くように旋回していた。うち一体は矢を受けたのか、左翼を引きずるように傾いて落ちている。だが次の瞬間、仲間の個体が滑空して落下した死骸を掴み、翼の影が地上を流れた。


「……想像以上だな」


 アルドは呟く。声の奥に微かな興奮が宿っていた。

 こうした異常事態の鬼気迫る雰囲気には、妙に胸の奥をそわそわと掻き立てられる。ただ、それがあまり嫌いでもなかった。

 結局、魔導師というものは、どこまでいっても自分の魔法を試せる場所がほしいのだ。研究室という場所を失った今、アルドの魔法の使い道は限られている。


「先生、北門まであとどれくらいですか?」

「走れば十五分といったところか。だが、飛んだ方が早いな」


 アルドは無詠唱で〈飛行魔法(レビテーション)〉を発動させると、瞬間、足元の石畳に魔法陣が走り、淡い光が身体を包んだ。重力が緩み、身体がわずかに浮く。


「風よ……我に翼を与え給え」


 エリシャも短縮詠唱で〈飛行魔法(レビテーション)〉を発動させた。

 風が背中を押すように吹き抜け、通りの人々が思わず振り返った。


「行くぞ、エリシャ!」

「はいっ!」


 ふたりは同時に高く跳躍した。屋根と屋根の間を抜け、尖塔の影をなぞるように上昇していく。眼下にリーヴェの街並みが広がり、鐘楼と煙突が連なった線が遠ざかっていった。

 北方の城壁が見える頃には、空気が焦げたような匂いを帯びていた。

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