BSO前夜 番のふくろう羽ばたく時
これは、バトルステーツ・オンラインが正式サービスを始める、2年前のお話。
それは2053年の春。
義人はまだ17歳の学生で、地元の《千葉市立ふくろうスクール》に通っていた。
昼はプロゲーマーの養成カリキュラム、夜は南天堂の製品テスト、それが彼の日常だった。
「よしくん、今日もお疲れ」
そんな彼の隣りにいるのは幼馴染の明石美浦。
この時彼女はPTSDの症状が改善され、社会活動に問題がでない状態にまで回復した。
しかし、未だに拭い去れない不安があるため、定期的に心療内科を受信している。
「美浦、今夜のプロフェッショナルの流儀は見ものだ」
「あぁ、有名ゲームチームへのスポットが当たるんだったね。私も楽しみで仕方ないよ!」
そう、この日放送されるドキュメンタリー番組が楽しみで仕方なかったのだ。
「はいはい、そこ。カップルでいちゃつかない」
供花に突っ込まれ、義人と美浦は赤面した。
「今夜おじさんのところに行っていい? 外泊許可が降りたから」
「そうだな。大歓迎だ」
そう言いながら、義人と美浦は下校する。
大日町停留所からこてはし団地経由稲毛駅行のバスに乗り込み、稲毛駅方面へひた走る。
途中、オーズモールでアフタースクールを楽しむことにする。
「あ、このクレープ美味しい!」
「ピザドッグもソースが新しくなってるね」
そう言いながら、二人は稲毛区にある義人の自宅マンションへと足を運んだ。
「ただいま」
「こんにちは」
義人と美浦が玄関から入る。
「あら、美浦ちゃん! 今日は外泊が降りたの?」
「はい! 発作も起きませんし、定期的に薬を飲んでおけば心配いりません」
美浦は道子に自分の体は大丈夫であることを告げる。
「それは良かったわ。ちょうど幸四郎さんがピザを注文してくれるから楽しみにしていて」
「楽しみです! 私サラミたっぷり肉祭りSpecialをお願いしますね!」
その日の夜、義人と美浦は居間のテレビである番組を見ていた。
《特集・VRスポーツの光と影――優勝賞金は誰のものか? 》
ドキュメンタリー番組は、世界大会で優勝した強豪チーム《アイアン・ファング》の控室にカメラを入れていた。
義人は思わずリモコンを握り締める。
美浦もドキドキになっている。
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「優勝賞金は一億クレジット! しかし、その配分は……」
ナレーションと共に、分配図が画面に映し出される。
大会運営費 三〇%
公式スポンサー 二〇%
配信プラットフォーム 一五%
チームオーナー 二〇%
残りの選手取り分 一五%
控室に映る選手たちの顔は、誰も笑っていなかった。
「……俺たち、半年間寝る間も惜しんで練習して、これかよ」
「アルバイトのほうがマシじゃないか……」
「スポンサー様に逆らったら次は出られない。結局、俺たちは広告塔なんだ」
番組のナレーションが続く。
「華やかな舞台の裏で、選手の手元に残るのはわずかな報酬。
夢を追いかける若者たちの現実は、決して輝かしいものではない」
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義人は息を呑んだ。
「……こんな世界なのか」
隣で観ていた美浦が肩をすくめる。
「それは、プロゲーマーは食えない職業とも揶揄される所以。南天堂のチームは、そんな金銭事情を変えようと頑張っている」
割り込んできた幸四郎が語るのは、デジタルスポーツの賞金事情の改善。
法務部を通じて文部科学省に、デジタルスポーツの賞金制度策定署名を提出したばかりだ。
義人はテレビの中で悔しそうに唇を噛む選手を見つめた。
その姿が、まるで未来の自分のように思えてならなかった。
番組が終わり、テレビは深夜番組に切り替わる。
部屋に残ったのは、義人の胸のざわめきだった。
「……勝っても報われない世界、か」
呟きながらも、義人の瞳は光を失っていなかった。
「それでも、俺は……あの舞台に立ちたい」
「そうだね。よしくんがそう言うなら私もシンガーソングゲームストリーマーの夢、一緒に始めましょう!」
意を決した美浦が笑った。
「お前、ほんとバカだな。でも、そのバカさ、嫌いじゃないよ」
幸四郎はそう言いながらタブレットを取り出す。
「とりあえず、MAVシステムにエントリーしておくよ。チーム名はどうする?」
幸四郎は義人と美浦のマッチング適正がかなり高い数値を叩き出していることに気づいていた。
「そうだな。俺と美浦はふくろうスクールの学生だから、<稲毛アウルズ>ってのはどうかな?」
そう、ふくろうは番で子育てをするため、ふくろうスクールに通う義人と美浦にふさわしいチーム名。
「なるほど、ふくろうの英訳でエントリーするのか。だが、登録すると、解散するまで変更できなくなるけど、良いのか?」
「構わないよ」
「お願いします!」
「わかった」
幸四郎は早速システムにエントリーした。
義人は静かに決意する。
――どれだけ搾取されても、観客の歓声と、仲間と戦った証は金では買えない。
だから俺は、いつかあの戦場に立つ。
これが、義人と美浦のMAV<稲毛アウルズ>結成の瞬間だった。
その時二人の信念はまだ小さな火だったが、二年後、《バトルステーツ・オンライン》という新たな舞台が実装されるとき、燃え上がることになる。
いかがでしたか?
このお話では、プロゲーマーのお金事情や稲毛アウルズの結成秘話を盛り込んでみました。
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