第91話 黄泉返り②
お待たせ致しましたー
夜光と名乗るきっかけになったのは、その男の一端を取り込むよりも少し前。刻牙がまだ組織として成り立つ前だった覚えがある。
目的のないまま、当時まだ組んでいた姑獲鳥に唆されて、犯罪に手を染めるのを厭むこともない考え方を持っていた。そもそも異形の一族としても、爪弾きな扱いをされていたために、『殺し』にもなんとも感じないでいた。
そこを柘榴に伝えても、彼女なりに夜光の事情を聞き齧っていたのか黙ってた。狭間で出会った最初と比較すれば、のちに『妹』となる先祖の概念により感情を復活させられたこともあってか。あまり、衝撃の揺れ幅がないのだろう。夜光の意図とは言え、今は閻魔庁に勤務している両親の事情も知っていてか。
女は、一瞬の環境の変化で大きく成長するとされていたが、柘榴にも該当してくれたようだ。それこそ、夜光には今後『二番弟子』としての受け入れをさらに強固なものにしようと決意する。
とりあえず、話題を元に戻すことにした。
「あの男……本体である『霊魂』はきちんと現世にあるのだが。取り込んだ私の中のそれは、彼が今でいう九州の地で亡くなったあとだね。まあ、当時は『そんな男がいた』程度で覗きに行ったんだ」
「興味、あったの?」
「最初は全く。しかしながら、わざわざ『怨霊』になってまで都を脅かす存在が……当時の私には興味の対象となった。あと、さきほど地獄に堕ちたと断定した元相棒とやらがね? どうも、彼を『素材の一部』にしようと取ってこいとか命令してきたのだよ」
「……自分勝手」
「その通りだ。結局、己の願望以外はどうでもいい男だった」
浅葱らから、姑獲鳥の産みの親神とやらは冥府へ送迎されたとか。道真を取り込んだあたりで、夜光自身の考え方が大きく変わったこともあって『説き伏せた』のだが。彼女も何か我に返ったのか、素直に応じてくれたのだ。時間はかかったが実行出来たのは今日に至る訳である。
「それで? 神様の魂のかけら?をどうやって?」
「まあ、正確には『押し付けられた』のだよ」
「無理矢理?」
「奪うのなら、扱ってみせろ。この道真の怨恨は世に置いておく。残りの『光』とやらを預ける。……なかなかに、彼も自分勝手だったよ」
「過去形? 今取り込んでいるのに?」
「概念だけだから、魂ではないのだ。貫くんも言っていただろう? 姿を変じさせても『私』だと」
「じゃ、力とかは影響を受けてても……変身してるだけ?」
「簡単に言えば、そうだね」
実に、飲み込みの早い弟子で助かる。これであれば、現世での復学も問題ない。妹の育児生活も、彩葉らのサポートがあれば時期に慣れていくはず。さらに話を進めるのに、もう幻影は必要ないと消すことにした。
「そこから、管理人になったのは?」
「あの頃だったかな? 刻牙には戻れず、力も制御出来ない。とくれば、と……不知火殿との再会があって、閻魔大王も地蔵菩薩を経由して対面してくださった」
【償いの心がまだあるのなら、死後の罪人を導く役目を担え】
それが、狭間へ行くきっかけとなったのだ。もう千年以上も昔だ。
明日はお休み




