表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/95

第77話 今はただ……

お待たせ致しましたー

 柘榴(ざくろ)はただただ泣くことしか出来ないでいた。会えたら、もっと言いたいことが色々あったのに。先に逝ったはずの父親も姿を変えて戻って来たというのにも関わらず。


 実に五年くらいの再会となった母親の姿は全く変わらないでいた。それは当然のこと。先程一度逝ったはずの父親はともかく、母の方は柘榴が小学生の頃に完全に没したのだから。姿が当時のままなのも致し方ない。



(でも……だけど!!)



 どこかで望んでしまっていた。地元へ戻ったときに、もう『自殺』を望んでいたほどに生きることへの執着を無くしていたのだから。罪を負っても尚、父と疎遠だと思い込んでいた柘榴が縋りたかったのは、先に死んでしまった母のことだけ。


 ここに来て、すべてを知り。祖母のことも含めて一族すべてを利用されなければ、もっと違う生き方をしていたかと思うと。感情を取り戻した今では、それは禁忌以上のことだと断念するしかなかった。


 だから、この瞬間はわずかでも閻魔大王たちからの褒賞なのだと。そんな都合のいいことであると思うことにして、ただただ家族との抱擁を続けながら泣き続けたのだ。



「……柘榴。あの世から見てはいたけど、こんなにも大きくなって」



 母は柘榴の髪を撫でながら、そう切り出してくれた。その言い回しだと、やはり狭間の滞在も一時的な措置でしかない。そして、親子の事実上の再会はこれが最初で最後となる。覚悟はしていたが、やはり想像以上に胸の奥が痛んだ。ここは、幼い子どもの頃に反抗してはいけないのだと、自分に言い聞かせて母の懐にしがみつくしかない。



「……くれちゃんに、ね? そっくりって……言ってもらえた」

「そうなの? くれちゃんも、巻き込んじゃったけれど。ある意味ではよかったわね? 大事な人と再会出来たんだもの」

「……うん」



 その呉羽(くれは)らしき啜り声は、後ろの方で聞こえてきたが。こちらが引くくらいの号泣っぷりを発揮しているみたいだ。陸翔(りくと)らしき慌て声も聞こえたから、任せていいだろうが。(いずる)の方はどうしたか、少し意識が傾いていると。母の方から、『あら』と落ち着いた声が上がった。



「……あなたが、あのときの男の子なのね」



 きっと貫のことだろう。柘榴はショックで覚えていないのだが、貫との初対面は呉羽がここに来た直後に説明してくれた過去のときだ。刻牙(こくが)が本格的に襲撃してきて、柘榴を攫ってまで素材へと計画したあの瞬間。


 当時高校生だった貫の乱入が無ければ、柘榴は今の肉体年齢にもなれずに貫友再開出来なかっただろう。その出会いが無ければ、貫の進路も大きく違っていたはず。


 たしかに、道順としては大きく遠回りしているし、柘榴は一度死んでしまったが。この道筋が無ければ、今の再会も何もなかった。不謹慎でも、一度死んでよかったかもしれない。本当に、罪悪感しか生まれなくても。



「……こんな形ですけど、ご挨拶……させてください」



 たしかに、『こんな場』でなければ。柘榴の両親には『挨拶』は不可能だ。ついさっきの父の送迎はイレギュラーでしかない。軽く言葉は交わしても、それが親への『申し込み』とかする状況ではなかった。


 ほぼほぼ、解決した今なら。短い時間であれ、そのような場は作れる。夜光(やこう)不知火(しらぬい)も特に何も言わないでいた。ここは流石に少し振り返れば。



「……酷い顔」

「……うるせぇ。お前も、だろーが」



 それはそうだと、今は泣きながら笑うしかない。貫にもうつったのか、鼻水などで酷い泣き顔をしつつも笑っていたのだった。

次回はまた明日〜

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ