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第76話 望んでいた終わり方

お待たせ致しましたー

 桃世(ももよ)は愛する者たちのために、命だけでなく魂も費やしてまで魔法を施してきた。自分の衰弱が、生まれつきでないことを自覚してからは死ぬにしてもただではさせないと手を尽くして。


 血は重要だ。輸血の適合とかではなく、もっと本質的な。薄くても、自分は本来人間でないと知ったときには死の目前まできていた。助けを求めたくとも、このような脆弱な女に手を貸してくれる相手などいるはずもない。夫にすら、打ち明けることが出来なかったのだ。実の母にも、言えなかった。


 柘榴(ざくろ)が生まれてすぐに、父を亡くし。そのあとに、娘の自分の容態が急変したのを悲しんでいるところへ追い打ちをかけたくなかった。心配事を増やしすぎて、繊細な心をこれ以上病んで欲しくない。


 けれど、自分の娘もこのままでは狙われてしまうことは目に見えていた。あれだけ想像豊かないい子だけではない。当時は朧気だったが、一度攫われかけたのだ。桃世の死はあくまでついで。柘榴を『素材』にすべく、心へ深いダメージを負わせるための計画の一端だけだと。


 同級生の少女から、誘拐されかけたことを寿命がわずかだと気づいた時に思い出したのだ。柘榴は記憶から消したいのか特に口にはしていなかったが。



(……なら。あの『おとぎ話』をこの子に残せば)



 いつからか、母から実家に伝わる絵本のようなおとぎ話を耳にしていた。母は自分の母から、その祖母はさらに前に。桃世にまできちんと残っていたそれが、ひょっとしたら役に立つかもしれないと。『自由研究』の時季に切り出して、『形』に残させたのだ。


 ただのおまじないかもしれない。でも、不様に娘も死ぬことがあれば。せめて、魂だけは奴らに掴まって欲しくなかった。身体も利用されるのなら、おとぎ話の店長さんたちに助けて欲しいと言う、無謀な願いでも。このまま死を迎えたくないという足掻きだった。


 結果、それは非常に役に立てた。


 桃世が死んだあとに、閻魔大王が事の成り行きを見守っていたようで。桃世を一時的に『獄卒』へと昇進させて、刻牙(こくが)らの計画を阻止出来る段階まで『流れ人』としての能力を鍛え。


 夫が利用された時点でも酷く落胆はしたが、ここは耐え時だと己を律し。


 実母も事実上殺されたが、先祖の来訪のときも『平常心』を装った。次々と迎える最愛の死を見過ごしたわけではないけれど、獄卒の立場では深く介入は出来ない。柘榴が不知火の術で黄泉返りを行われるその時までは、決して本当の涙を流すまいと我慢し続けてきた。


 だから、狭間へと夫と共に召喚を許可された今では。


 夫とともに、駆け寄ってきた柘榴をふたりで受け止めることが出来た。数年ぶりだが、立派に大きく成長した娘の姿を。喜びと悲しみが綯い交ぜになった感情で受け止め、親子三人での抱擁は店中に響き渡るほどの喚き声に満たされた。


 無理もないが、すぐの別れであるために。わずかな時間の今は、言葉を掛け合うよりも。固く抱き合うことで存在を確かめ合うしか出来なかった。


 感動の再会とやらは、意外にもそんなものかもしれない。しかし、この場にもう、言葉を紡ぐ必要はなかった。生き方はなんであれ、娘にも最愛の存在がもうひとつ確かに出来たことも喜ばしい。


 泣き止んでから、かなり鼻水を啜る音が酷い青年らしき気配へ、きちんと娘を託すお願いをしなくては。夫も理解しているようだから、今はただただ抱擁を続けることにしたのだった。

次回はまた明日〜

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