第58話 展開が読めない
お待たせ致しましたー
不知火が起きた次は、夜光らがバックヤードから戻ってきたのだが。その夜光の後ろに、浅葱らに連れていかれたはずの工作員がなにかを抱えてにっこにこで戻ってきていた。
彼女の腕の中には、半透明の夜光が。目が合えば、それは光の粒となって消えてしまい。本体の夜光に戻って彼は毛を繕い出しただけだ。
「は? ちょ……え??」
意味が分からないと思ったのは、柘榴だけではない。貫や呉羽もだが。唯一、不知火だけは理解していたのかにやついていただけだった。
「なんや? 思った以上に気に入ったんか?」
「弟子ではないが、補佐として。説明はしましたが、この通り受け入れてくれたために、ね? あくまで、補佐ですが」
「ほーん? ま、おまんが気に入ったんならええんとちゃう?」
「不知火殿にもそのように言っていただけるのであれば、判断は誤っていなかったようだ」
「おおきに~~、始祖はーん」
「その呼び名やめーや。不知火でええわ」
「ほな、統領」
「もっと意味わからんわ」
馴染むのが早いタイプだとは思っていたが、瞬時に溶け込み過ぎだ。工作員という役職だったせいもあり、社交的な能力も高いのだろう。もしくはもともとの性格のせいか。とにかく、彼らが許可しているのなら柘榴は彼女の前に立つことにした。
「うん?」
「……柘榴って呼んで。おじいちゃんが名前呼びいいって言ってるから」
犯罪者でも、協力者になるのならここは譲歩すべきだ。本能の一部は拒否反応を示しても、柘榴とてある意味似た計画をしているのだから。閻魔大王が仮に許可していたとしても、こればかりは事実だから塗り替えようがない。手を出していたら、彼女は緩く笑ってくれて自分のを差し出してくれた。
「笑理や。好きに呼んでええでー? こう見えて半分不死やから外見以上に歳食っとるし」
「……貫みたいな?」
「そこのにいちゃん? ああ、そーいや……あっちの阿保が取り逃がしたとか言ってた素材の子どもか? せやな。部類としてわっちの構成は似とる」
「構成?」
「今風に言やあ、キメラみたいなもんや。自然交配の存在ちゃうねん」
「……酷い」
刻牙もだが今も潜んでいる犯罪者たちは平気で命を弄ぶのか。なら、笑理が成り行きで犯罪に手を染めてもおかしくない。育った環境そのものがすでに異質でしかないからだ。
「清算しようにも、わっちの死に様は決定事項や。せめて、マスターはんに使われる方がええわ。ある意味、元上司やし?」
「……うん」
その事情はこちらも把握済みなので、これ以上言わない。まだトイプードルの姿で足元にいる彼は、少し寂しそうに尻尾を振るだけだったから。
「ではでは、笑理くんの部屋はまた用意するとして。いくらか休憩しよう。幸い、客の気配はしない」
「つまむものは用意したので。笑理さんもどーぞ」
「宝石料理なん!?」
「とはいきませんが」
「なんや~~」
陸翔も順応が早いのは相変わらずだが。とりあえず、少し後ろで呉羽が嫉妬心丸出しだから宥めるしかないと笑理からそちらに行くと。
「……あんのアマぁあ!?」
「……くれちゃん。大丈夫だから。陸翔はだいたいああだし」
「だからって!! あの女馴れ馴れしい!!」
「気持ちはわからんくもないが、お前の後輩なんだぞ? 順番的には」
「! ふふん。接客関連は無理でも、力仕事でリクっちのサポート頑張る!!」
「おう」
「……ありがと」
「単純思考にはこれくらいでいいだろ」
呉羽は既に突撃しているので、もう聞こえないだろう。貫とは二人きりのような立ち位置になったが、少し落ち着いた彼の隣に立つとまた感情が溢れそうになるのでにやけるのを堪えるのが大変だった。
またメンバーが一人増えたが、改めて再スタートとなりそうだった。
次回はまた明日〜




