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第53話 娘のために、母は役職に

お待たせ致しましたー

 似過ぎていた柘榴(ざくろ)の母は、桃世(ももよ)というらしい。柘榴の記憶の流れにはたしかに、いたのだが。死後の足取りが一切辿れなかった理由がこれではっきりした。


 獄卒として務めているのなら、通常の亡者ではない。低くとも役職があれば、裁きの長の配下だから当然だ。流れ人の子孫なら、素質さえあれば閻魔なら起用することも可能である。しかし、子孫にしては随分と穏やか過ぎる性格で調子が狂うのも本音だった。



「柘榴の母です。先程は、うちの母親がお世話になりました」

「……いや、その。うん」



 丁寧に対応してしまっては、本来なら孫の一人でも柘榴を優先にしていると『娘』ということになる。瓜二つの容姿でも、中身が天と地ほどの相違点があるため、区別はつくが正直言って調子が狂う存在だ。


 己の運命をどうして受け入れていないのかは疑問でも、閻魔の配下となっていると知るとある意味一安心ではあるのも嘘ではない。顔を上げて儚げに微笑む表情は惚れ惚れするほど美しかった。



「ふふ。風の噂ではお聞きしておりましたが、随分とお若い御姿なのですね」

「あ、まあ……ある意味不死や、し」

「ええ。閻魔大王にお仕えしてから、存じておりますわ。私の謂れも、獄卒になることが出来た経緯も、貴方様の血が流れているからと。……娘の事情も、ここに居ることで存じております」

「!? お、ま……獄卒でも、助けられるだろ!?」



 装いの色は『白』。装飾は質素だが、これだけの発言を許されているのなら非常に優秀な人材。術を解放されているのであれば、柘榴の死を回避出来ただろうに。実の娘を置いて死んだ事実を、悔いているにしてはおかしい発言も目立つ。それになぜ、獄卒の位を受け入れたのかも。


 素に戻った不知火の発言を聞いても、桃世は首を横に振るだけだった。



「出来なかったのです。私の異能は生前からありましたが、呪縛のせいで回避不可能だったのです。せめて、あの狭間の管理人殿への縁を繋ぐ言霊で導く程度しか」

「……まさか。柘榴繋いだの、お前か?」

「はい。夢見で閻魔大王にご許可はいただいていました。素材への変換は避けられないゆえ、せめて貴方様との会合を成すための……母親としては酷い手段を取りました」

【許せ。浄玻璃の鏡を細工しても、こればかりは避けられなかった】



 ならば、この展開は先読みで既に仕組まれていたと。不知火の復刻事象も込みで。まんまと手玉に取られたのは不知火本人と言うことか。閻魔自身が謝罪するほどだから、相当年月をかけて計画していたのだろう。


 それでも、孫と認めた柘榴を思えば、不思議と怒りは出てこなかった。短気な性格の己にしては非常に珍しい。であれば、苦笑いしか出てこなかった。



「ちっ。柘榴に免じて、今回は許してやる。んで? その先読みでは一応何してたんだ? 俺は」



 結果は幾つか浮かぶが、ここまで計画されれば該当しないだろう。答えを待っていると、口にしたのは閻魔だった。



【……黄泉返りまでは、読めたのだが】

「? その役目だけじゃないのか?」

【映らんのだ。……だから、ここに来た時にその先を紡ぐ結果が出ると思ったのだが】



 先程の亡者が襲撃後も、鏡は起動しないときた。そうなると、これは不知火が導けと言う兆しだろう。この鏡はただの道具ではなく神器と同等の宝具。簡単に言えば、不知火と同じような存在だ。意思の疎通は出来ないが、感覚でそれは読み取れた。



「……わーった。しばらく、狭間にいるわ。んで、柘榴のじーちゃんとして全面的に協力してやる。黄泉返りは最終手段だ。刻牙をぶっ潰した先がわからんなら、無闇に出来んしな」

「……ありがとうございます」



 桃世はこの結果を待っていたのだろう。獄卒でも狭間への介入はほとんど許されていない。力の歪みで狭間が保てないからだ。不知火であれば、その歪みが生じないので保護者としては最適。夜光が実質的な立場であれ、先祖であれば万が一の保証人にもなる。


 この結果は、不知火のためにもいいことだろう。退屈よりも家族の時間を短い間でも過ごせるのなら。見た目のギャップはあれど、爺孫の生活は過ごせるのだから。



「そーゆーことなら……刻牙の連中出せや、閻魔」

【……それは既に手配してある。消滅だけはやめろよ?】

「一応肉体は寝てるし、柘榴が起こそうとしてるからちゃっちゃと済ます」



 それでもって、ちゃんとした宝石料理を振る舞ってもらわねば。まだ、ほとんどあの子の料理を口にしていない。あれだけ魔法のセンスと石の精製力があるのだから、稀代の術士の素質になる可能性が高い。


 黄泉返りを実現させる前に、孫に教育指導するいい機会だと閻魔に指示された階層へ跳んだ。


 桃世は、他に何も言わずに深く腰を折っていただけだった。

次回はまた明日〜

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